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りんぐすらいど

ロードレース関連の記事が中心。https://twitter.com/SuzuTamaki

ジロ・ディタリア2017 第18ステージ

これぞドロミテ!というような雄大な景色の中を駆け巡る137kmの道のり。

ひたすら登っては下る過酷なレイアウトの中をプロトンは突き進んだ。

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世界自然遺産にも指定されているドロミテ(ドロミーティ)。

その中でもとくに厳しく、美しい姿を見せるピズ・ボエ(Piz Boe)をぐるりと反時計周りに巡る形で、まずは1級ポルドイ(2239m)、2級ヴァルパローラ(2200m)、2級ガルデーナ(2121m)という2000m超の3つの山岳を登る。

 

 

このステージ前半で活躍したのが、チーム・スカイの今年新加入ディエゴ・ローザ(イタリア、28歳)である。

最初の3人の逃げにも入り、ポルドイ峠の山頂も先頭で通過する。

追走と合流し合計で19人の塊となった後も、チームメートのフィリップ・ダイグナンと共に先頭を牽引。ミケル・ランダの山岳賞確保のために全力を尽くした。

 

 

そのランダも、第16ステージに続いての、厳しい山岳ステージでの逃げを敢行。

ヴァルパローラこそ、山岳賞3位につけるフライレに先着されたものの、その後の3つの山岳はすべて先頭通過。

この日だけで65ポイントもの山岳ポイントを獲得。フライレに85ポイントもの大差をつけて山岳賞首位に立っている。

これで、チーム・スカイによる2年連続山岳賞獲得に王手をかけた形だ。

しかし、山岳賞だけでなく勝利も欲しい。ランダはそう思っていたはずだ。

 

 

一方のメイン集団は、ガルデーナで動きを見せる。

登り口の11%を超える急勾配で、ホセホアキンロハスが決死の牽引を見せてペースアップ。これによって、サンウェブの最後のアシストであったローレンス・テンダムが脱落。デュムランは独りとなってしまった。

その後もモビスターはゴルカ・イサギーレが全力牽引。このハイ・ペースの次なる餌食となったのが、マリア・ビアンカを着るボブ・ユンゲルスであった。ライバルの1人アダム・イェーツはまだ集団の中。ビアンカを奪われる危機に直面する。

 

そして山頂まで残り2kmでキンタナがアタック!

一気にデュムランたちとのタイム差を10秒以上に広げ、さらに先頭から落ちてきたアマドールと合流した。のちにアナコナとも合流。教科書通りの攻撃であった。

クイーンステージでタイム差を30秒にまで縮めたとはいえ、最終日に2分近いタイム差をまたつけられてしまう可能性がある。

となれば、今大会最後の5つ星ステージとなるこの日に、最低でもジャージは奪っておきたい。しかも、最後の登りだけで十分なタイム差をつけることは難しいので、最終一歩手前の難関山岳であるこのガルデーナでの攻撃は必至――誰にとっても予想できた攻撃ではあったが、すでにアシストを全て失っているデュムランがすぐにこれに反応するのは難しかった。

 

動かないデュムランを見てニバリもアタックを仕掛け、デュムランはこれも見送る。

キンタナとニバリにとって最大のチャンスとなったこのガルデーナ攻防戦であったが、デュムランが得意のペース走行で一気に二人との距離を詰めていく。結局、ガルデーナ山頂で総合TOP3が合流。モビスターの攻撃は失敗に終わった。

 

 

ガルデーナの下りで先行したのは、逃げから落ちてきたルーベン・プラサとアダム・イェーツ。遅れているユンゲルスとのタイム差をさらに開きにかかる。

キンタナも再びペースを上げ、この2人に合流するも、元々下りが得意なデュムランは落ち着いて追走する。

 

 

この激戦の結果、逃げとメイン集団とのタイム差が20秒を切る。

戦いの舞台はいよいよ後半戦に。 

本日のゴール地点であるオルティセイ(独:ザンクト・ウルリッヒ)を一度通過し、まずは3級山岳ピネイ峠を越えてカステロットの町へ。そのままイザルコ渓谷の町ポンテ・ガルデーナ(独:ヴァイトブルック)に降り立つ。標高467m。そこからまた、1000m越えの1級山岳ポンティヴェス峠を登って最後はオルティセイの町に戻っていく。

先頭集団は再びローザが先頭を牽引。3級ピネイをランダに先頭通過させるための全力のアシストだ。集団も一気に絞り込まれ、合計で7人に。

ローザと共に最初から逃げていたディメンション・データのナトナエル・ベルハネ(エリトリア、26歳)、第16ステージでランダたちと共に逃げていたCCCのヤン・ヒルト(チェコ、26歳)、キャノンデールからは2名、ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア、25歳)とジョー・ドンブロウスキー(アメリカ、26歳)、そしてランダとローザと、最後にBMCレーシングのティジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、28歳)。

 

距離の短い3級山岳とはいえ、15%の激坂区間が続いたピネイ峠。ローザのわが身を犠牲にして走りで、再びメイン集団とのタイム差が30秒以上に開く。ここでローザが脱落。

 

そしてこのピネイ峠の下りで、ランダとヴァンガーデレンが飛び出して先頭はこの2人だけになる。追走の4名は30秒近く引き離されてしまう。

 

 

 

その30秒後方から追いかけるメイン集団。ここでも動きが起こる。

集団から飛び出す「キンタナの右腕」ウィナー・アナコナ。 

しばらく様子を見ていたキンタナも、頂上まで残り2kmほどを残した、勾配11%の区間で発射。アナコナの背中に飛び乗った。

500mほどアナコナが牽引し、キンタナがさらなるアタック。

チームワークを活かしたこの見事な攻撃だったが、ライヒェンバッハが牽引するメイン集団とのタイム差は開いて5秒が限界だった。

 

このライヒェンバッハにアシストされたティボー・ピノがポッツォヴィーヴォと共に飛び出した。さらにモレマ、クライスヴァイク、ザッカリンといった面々が次々とアタックを仕掛ける。

デュムランは動かない。山頂を通過し、緩斜面に入ったところでTTポジションを作ったデュムランは先頭を牽引しつつ、キンタナとニバリに「前を追いかけろよ」とサインを送るが二人は応じない。一度遅れかけていたアダム・イェーツが追い付いて前を牽く。

 

 

 

先行を許されたピノは全力で最後の急斜面を駆け上がっていく。  

総合ベスト3が互いに牽制し合っている今、彼が総合表彰台への望みをつなぐ最高のチャンスだった。あるいは、ステージ優勝。

 

 

だがさすがに、先行する2人には追い付けなかった。

石畳区間を疾走するランダとヴァンガーデレン。激しいスプリント争いの結果、 BMCのヴァンガーデレンが先着した。

かつて、ツール・ド・フランスで、エースで総合優勝経験者であるエヴァンスを凌ぎ総合5位。新人賞も獲得した男だった。

2015年のツールではチームの力も借りて総合2位を維持したまま3週目に入り、実力を見せつけていた。

 

だが、そこで、体調不良を原因とした涙のリタイア。

以来、結果を出せないまま「期待外れ」と言われる時期が続く。

 

このジロでも、不調の連続で総合争いが絶望的なポジションにまで追いやられた。チームからのプレッシャーも相当に大きいものだったろう。

その中で、成し遂げたこの一勝。

ゴール後に、タオルに顔を押し付けて、肩を震わす場面もあった。

ランダは、今大会2回目の2位。悔しいが、次は彼の番だ。

 

 

そしてピノが3位につけた。ヴァンガーデレンたちと8秒差。ボーナスタイムも加えて、総合3位にニーバリとは34秒差にまで近づいた。

 

さらに、マリア・ローザグループに喰らいつきながらゴールしたアダム・イェーツが、ユンゲルスからマリア・ビアンカを奪い取る。

まだユンゲルスとは28秒差。フォルモロとも53秒差でしかない。

とくにユンゲルスは、最終日のタイムトライアルで下手したらステージ優勝もしかねない。

マリア・ローザ争い、総合表彰台争いに加えて、この新人賞争いも見逃せない展開だ。

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前日までと比べて、総合4位~8位が上位3名とのタイム差を1分近く縮めた。

 

 

ちなみにレース外での舌戦も激しかったようだ。

 

デュムランがキンタナとニバリに対して彼らは僕を負かすことだけに集中しているようだ。自分たちが勝つことではなく。彼らは彼らのライバルたちが多くのタイムを失った。――そんな走りをしている彼らが、ミラノでの表彰台を失うことを本当に望むよ。それはとても素敵で幸せだね」と怒りを露わにしたのに対し、ニバリも「トムの言っていることは気にしていない。彼は少しうぬぼれが過ぎているんじゃないのか? 僕だったらそんなことは絶対に言わない。彼は確かにこのレースで強さを見せつけてはいる。だけど彼はそんなこと言うべきではなかったんだ。彼だって表彰台を失うことはありうる。レースってのは、なんだって起こりうるんだから。彼は地に足をつけ続けているべきで、あんまりしゃべらないほうがいい。彼はカルマっていうのを知ってるのかい? そういうことを口にするといつか帰ってくるんだぜ。ジロに勝つのはいつだって困難だけど彼はここまで完璧だった。でもまだ終わっちゃいないんだ」。

www.cyclingnews.com

 

 

ちょっとデュムラン、言い過ぎかな?と思わなくもない。これも戦略的な観点からの発言という風に捉えられなくもないが、せっかく紳士的な振舞などもあって、プロトンの中でも一目置かれる存在になりえているんだから、憤りを抑えてほしいとは思う。

 

一方のニバリさんはさすがの経験者。「舌禍」のことをよく知っている。経験者は語るということか。(と言いつつ彼もcocky「うぬぼれ」とちょっと強い言葉をまた出しちゃってはいるが。ちなみにこのあとデュムラン、ここにも噛みつく)

そして「レースは何だって起こりうる」の言葉もまた、経験者だからこその言、という感じ。第19ステージも積極的に仕掛けると宣言しているニバリ。底力を見せられるか。マジで3週目の彼は不敵だ。

ジロ・ディタリア2017 第17ステージ

ロンバルディアからドロミテへ。その「移動」ステージとなる219kmの道のりは、激動の第16ステージを終えた総合勢にとっては休息の日、そしてまだ勝ちを得られていないアタッカーたちにとっては残された数少ないチャンスとなった。

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それゆえに逃げも、今大会きっての大規模な集団となった。先頭の逃げが3名。追走集団が39名。メイン集団はサンウェブが牽引するが、無駄にアシストの足を削るつもりのないサンウェブはペースを落とし、先頭とのタイム差が最大14分まで開いた。

 

UAEチーム・エミレーツのマチェイ・モホリッチが一度独走状態に入るシーンもあったが、最後の3級山岳を越えたところで追走が合流。最終的には25名に近い逃げ集団が形成される。

 

サンウェブはなおもスローペースを保ったものの、逃げ集団の中には、ユンゲルスと7分38秒遅れの新人賞4位ヤン・ポランチェが含まれている。そのため、次第にクイックステップ・フロアーズの面々が前方に出てきて牽引する場面が増えていく。その中には、マリア・チクラミーノを着るフェルナンド・ガヴィリアの姿も。

逃げ集団の方もUAEチーム・エミレーツのメンバーが4人(マチェイ・モホリッチ、ヤン・ポランチェ、ルイ・コスタ、ヴァレリオ・コンティ)も含まれており、彼らがポランチェの総合ジャンプアップを目指して積極的に牽引する姿が見られた。

 

 

一度、悔しい落車でステージ優勝を逃しているコンティが積極的なアタックを仕掛けるが、決まらない。モホリッチもずっと一人で逃げていたために体力を使い果たしており、コスタも前に出られないため、せっかくの数の優位が活かせずにいるUAE

デヴェニエンス(ロット・スーダル)、マッテオ・ブザート(ウィリエール・トリエスティーナ)なども次々とアタックを仕掛けるが、残り8km地点で最後に決定的な攻撃を行ったのが、ピエール・ローランだった。 

ローランは、2011年にラルプ・デュエズを制した男であり、グランツールでも総合ベスト10に何度か入るほどのクライマーである。

今までも多くの山で勝負を仕掛けてきたものの、先日のエトナ山など、飛び出すはいいが決まり切らない、という場面も多々あった。

 

登りの力は確かにあるが、それが他を圧倒するほどのものではなかったがゆえに、山での勝利を決めきれずにいた彼が、今回、山を越えた先とはいえ、ほぼ平坦となるゴールで、逃げ切りを狙ったのである。

 

この戦い方に、少し、彼の大先輩である、トマ・ヴォクレールの姿を思い出した。

ヴォクレールばりの「舌出し」で逃げながら(それは先日の第15ステージでも見せた姿だった)、彼は最後の直線に入った。

 

 

追走集団の姿はまだ見えない。

ローランは何度も振り返り、勝利を確信すると、何度もガッツポーズをし、胸元のスポンサーをアピールして、そして、歓喜のガッツポーズを見せた。 

 

 

グランツールでは、2012年のツール以来の勝利。

古巣を抜け出して、アメリカの新チームに移籍してからは初の勝利だった。

ゴール後のインタビューでも、表彰台でも、興奮を抑えきれない様子だった。

 

おめでとう、ローラン。

ジロでもツールでもステージ勝利を狙うと宣言している彼が、今年中にもう一度勝利を掴むことも望んでいる。

 

なお、最初の逃げにも乗っていたローランは、最初の2つの山岳ポイントもちゃっかり取っている。首位のランダとのポイント差は大きいが、そこも諦めずに狙っている可能性はある。

ジロ・ディタリア2017 第16ステージ

モルティローロ、そしてチマコッピを含むステルヴィオを2回登坂する、文句なき今大会最難関ステージ。

そのステージに相応しい激戦が繰り広げられた。とにかく、あまりにも沢山のことが起きたため、整理するつもりで各登りごとの出来事をまとめていきたい。

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222kmのロングステージの中に「悪名高き」なモルティローロとヨーロッパで自転車で登れる道としては2番目に標高の高いステルヴィオの登りが2発叩きこまれている。獲得標高は5000mを超える。

 

 

 

 

 

 

モルティローロの登り

2年前コンタドールが「ごぼう抜き」を見せたモルティローロ。しかし今年は反対側のモンノから登るルート。2年前のヴェルヴィオの登りよりも勾配は緩い。下りもそっち方面ではなく、北のグルージオに向かうルートだったようだ。

モルティローロは2010年に、スカルポーニが優勝した峠でもある。それを踏まえ、この峠には「チーマ・スカルポーニ」賞が緊急で用意された。獲得できる山岳ポイントが2倍。当然、山岳賞を狙うクライマーたちにとっては垂涎の的となるはずだったが、登りで先頭を牽引していたルイスレオン・サンチェスがそのまま先頭通過を果たした。結果、ここでの山岳賞暫定1位もサンチェスのものとなった。

山岳賞ジャージを着るオマール・フライレは、争えば先着することは十分可能だったはずだ。しかしそうはせず、周囲の選手たちとも話し合いながら、サンチェスを先行させることに決めた。この春、交通事故で亡くなったスカルポーニと、そのチームメートであるアスタナの選手たちに対する、プロトン全体の敬意の表れであった。

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山頂を2番手通過した後に、サンチェスに手を置く山岳賞ジャージのフライレ。

 

「第1の山」モルティローロの山頂でさっそくドラマが生まれたわけだが、この出来事は今日この日の濃密な一日のほんの序章に過ぎなかった。

30人近い逃げを追うプロトンも、最長で3分程度の差しか許さないままに、山間の渓流の脇を上っていく。いよいよ次はステルヴィオだ。

 

 

ステルヴィオ1回目の登り(チーマ・コッピ)

いよいよチーマ・コッピである。チーマ・コッピとは、その年のジロの最高標高ポイントであり、獲得できる山岳賞ポイントも、他のどの山岳よりも高くなる、という特徴がある。

今年のチーマ・コッピはこのステルヴィオ山頂の標高2758m。

この時期は確実に雪で閉ざされており、それゆえにステージキャンセルになることも多いが、今年は晴天に恵まれ、除雪の行き届いたコースをプロトンは存分に走れる状態だ。

 

ステルヴィオ南の街ボルミオから登りがスタート。本日のゴール地点を一度越えてからの登り開始だ。この町は古代ローマの時代から温泉が有名で、「バーニ・ヴェッキ(旧き温泉)」と「バーニ・ヌオヴィ(新しき温泉)」と呼ばれる施設が好評を博している。一度行ってみたい。

 

ステルヴィオの登りでは気が遠くなるような九十九折りが・・・

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この九十九折を越えて、2回目のステルヴィオ登りの頂上となるウンブライル峠も越えて、いよいよステルヴィオの山頂に向かう。

細かく分断された先頭集団の中から飛び出したのはイゴール・アントンミケル・ランダ。勢いをつけて飛び出したアントンを振り切って、ランダがそのままチマ・コッピを征服した。

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第9ステージの落車によって総合争いから脱落したランダ。その後も怪我の後遺症に苦しんでいたようだが、連日、積極的な走りでもって活躍の機会を探していた。

この日は、共に逃げたチームメート、ヴァシル・キリエンカフィリップ・ダイグナンの献身的な走りにも助けられた。チマ・コッピからのヘアピン・カーブが連続する凶悪な下りにおいても、先行するアマドール以上にキレのあるダウンヒルを見せて我々を驚かせた。その後の2回目ステルヴィオの登りでもクライスヴァイク、ヤン・ヒルトを突き放して独走。2回目のステルヴィオ山頂も先頭通過を果たした。

 

ランダは絶好調だった。しかし、この後、プロトンに、誰も予想できなかった展開が訪れる。

 

 

ステルヴィオ2回目の登り

チーマ・コッピを越えた一団は、そのまま北東のボルツァーノ自治県に向けて下っていく。そうしてボルツァーノ西方の街グロレンツァを経由してスイスに入国。そこからウンブライル峠を登るというコースをとる。この、ウンブライル峠をスイス側から通る登りはジロ初登場なんだとか? 先頭集団の展開は前述した通り、クライスヴァイクらを千切ったランダの独走、といったものだったが、その頃後方のメイン集団では、大きな動きは巻き起こっていた。

 

すなわち、マリア・ローザを着るトム・デュムランの不調である。

確かに直前まで、集団の後ろにいたり、苦しそうな表情をしたり、チームカーにつかまって何やら話をしている様子は見えていた。

どうやら彼は、耐えがたい急な腹痛に襲われていたらしい。どうしようもなくなって一度自転車を止めざるを得なくなったデュムラン。一気に、メイン集団とのタイム差が1分以上に開く。

 

その後、できる限り早く復帰したデュムランであったが、やはり体調は優れない。唯一残っていたローレンス・テンダムがアシストに降りてくるが、彼も2回目ステルヴィオの登りの序盤で力尽きてしまう。あとはデュムラン独りでプロトンに追い付くしかない。

 

このときプロトンでは、どうするべきか迷う空気があった。ザッカリンが一度アタックを仕掛けるも、さすがにすぐ矛を収めた。次いでヴィンツェンツォ・ニバリも積極的な動きを見せるが、それらの動きが起きた瞬間にキンタナが反応し、その出鼻を挫いたうえで彼自身もペースを落とす、というようなことを繰り返した。ニバリとキンタナが何やら言い合うシーンも何度か見られた。

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これは推測に過ぎないが、このときキンタナは、ニバリたち集団に対して、デュムランを待つように説得したのではないか。少なくとも、攻撃的なアタックはやめよう、と進言したように思われる。

 

キンタナの調子が悪いわけでは決してなかったように思える。ニバリたちの攻撃にはすぐ反応し、その前に出ることは十分できていた。だが、そこから彼のいつものような鋭いカウンターアタックが出るわけでもなく、ただ抑えにかかっていたように思う。頃合いよく前方からは逃げていたアナコナ、そしてアマドールたちが降りてきて、そこから全力の牽引をすることで理想的な前待ちからの攻勢を仕掛けることもできたはずだった。

だが、キンタナは行かなかった。ギリギリまで集団コントロールに努めていた。事実、デュムランと彼らとのタイム差は、(デュムランがずっと独りだったにも関わらず)2分差が固定されたままほぼ変わることがなかった。すでにデュムランが遅れ始めてから結構な時間が経ち、さすがにもう、これ以上待つ必要はない、という段階に至ってもなお、キンタナは積極的な攻撃を仕掛けなかった。

 

これもすべて、第14ステージで見せたデュムランのキンタナに対する「待ち」があったからではないか、とも思える。あの場所でデュムランが紳士的に振舞ったからこそ、今日のこのキンタナの「待ち」があったのでは、と。その意味でデュムランのあの判断は、デュムランにとってかなりのリターンを生んだことになるだろう。

 

そしてこの日のキンタナのこの動きが、今日の勝者を決定付けた、と言ってもいいかもしれない。登り最強のキンタナが動かなかったことで、この男が最高のタイミングで飛び出すことができたのだ。

 

 

決着

残り20kmで、いよいよニバリが飛び出した。先頭のランダとのタイム差は40秒ちょっと。残りわずかな登りをこなし、ダウンヒルに先行して入ることができれば、ニバリ得意の下りによってキンタナたちを突き放すことができる。まさにニバリの必勝態勢であった。

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ニバリのアタックはやはりすぐにキンタナに捕まえられる。だがそれでよかった。ニバリにとってみれば、先頭で下りに入ることこそが目的だったのだから。

そして事実、あの凶悪な九十九折を下るダウンヒルを、ニバリは命知らずな走りで突き抜けていく。あっという間にランダに追い付き、キンタナとの距離を開く。途中、水で濡れた路面をバニーホップで飛び越えるなど、大胆さの中にも冷静さをしっかりと保った走りで、最強ダウンヒラーの称号が古臭いものではないと証明してみせた。

 

そして勝負は、ランダとニバリの一騎打ちに。

ゴール前の直角カーブの連続をこなし、最後の直線に入った瞬間はわずかにランダがリード。

しかしそこからのスプリントで、力強い走りを見せつけたのがニバリ。

第16ステージにしてようやく、ジロ第100回記念大会におけるイタリア人の勝利をもたらした。

 

 

ニバリという男は、決して桁違いに強い選手ではない。

実績だけで言えば、現役選手の中では彼とコンタドールしか該当しない、全グランツール覇者ではある。昨年ジロの総合優勝者であり、ゼッケン1をつけるディフェンディングチャンピオンでもある。

しかし、だからといって今大会、本当の本当に総合優勝最右翼かというと決してそんなことはなかった。ツールでの総合優勝はフルーム、コンタドール、キンタナといった強豪のいない中での優勝ではあったし、人格的な部分で攻撃されることも度々あった。毀誉褒貶の激しい人物である。

 

だが、強い選手が多いイタリア人の中でも、イタリアのファンたちを沸き立たせるような劇的な勝利をもたらしてくれるのは、やはりニバリだけのような気がする。職人のような巧みさや、安定感とは程遠いかもしれないけれど、民衆を歓喜させる力は飛び抜けているように感じる。

だからこそ、イタリアの道端には常に「ヴィンツェンツォ!」と叫ぶ観客がいて、彼がポディウムに立てばまるで総合優勝したかのような歓声が沸き上がるのである。

彼はイタリアの紛うことなきヒーローだ。

完璧でないところも含めて、彼はとても人間的で、庶民の傍に立つヒーローなんだと思う。

 

そしてミケル・ランダ。とても惜しかった。残念だった。

それでも、決して諦めることのない戦いを、この後のステージでもしてほしい。

スカイを、悔しいままで終わらせてほしくはない。

 

 

激動の第16ステージを終えて、総合順位は以下の通り。

 

デュムランにぐっと近づいたキンタナ。もちろん、このタイム差を残したまま最終日に突入しても勝てない。最終日を踏まえて勝つことを考えるのであれば、あと1分30秒は最低でも欲しいところ。勝負所は残り第18ステージ、あるいは第19ステージといったところか。

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また、ニバリもじりじりと近づいてきている。昨年のことを考えるとこれも警戒せざるをえない対象だ。何しろ彼は「3週目の男」なのだから。

 

総合表彰台争いも白熱するかもしれない。4位以下、ポッツォヴィーヴォまで30秒差以内に収まっている。どの選手も、総合ベスト10、だけでは満足しえないだろう。このあとの猛攻に期待したい。

 

新人賞争いも、ユンゲルスとイェーツとのタイム差は2分半もない。ここには載っていないがフォルモロもイェーツから17秒しか遅れていない。こちらもユンゲルス安泰とはいかなそうだ。

ツアー・オブ・カリフォルニア2017 総括

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今年からワールドツアーに昇格した「北米最大のレース」ツアー・オブ・カリフォルニアが幕を閉じた。

今年のツールを単独エースで出場予定のラファウ・マイカ、あるいはアンドリュー・タランスキーといった本命を抑えてのジョージ・ベネットの勝利は、正直、意外ではあった。

しかしジョージ・ベネット成長の証。グランツールでも表彰台を狙えるのか? - サイバナでも語られている通り、チーム・ロットNLユンボは、ここにまた一人、新たなる総合エース候補を獲得できたことになる。

ヘーシンク、クライスヴァイク、ログリッチェ、そしてこのベネット。

全てのグランツールで存在感を発揮できるほどの人材を育てた名門チームが、今後どんな活躍を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。

 

 

今回はこの「カリフォルニア」の、各ステージの結果を簡単に振り返りつつ、目立った活躍を果たした選手たちを振り返ってみたい。

 

 

 

 

 

 

各ステージ結果と概要

第1ステージ マルセル・キッテル(クイックステップ・フロアーズ)

クイックステップの誇る最強発射台・サバティーニから放たれたキッテル砲は、誰にも止めることができなかった。サガンがすぐさまキッテルの後ろに貼り付いたものの、前に出ることは敵わなかった。

まるで2014年までの「最強」が戻ってきたかのような勝利だった。せっかくのカリフォルニアで、1勝もできずに終わるわけにはいかない。他のステージはキッテル向きではなかったし、この日勝てたのは本当に良かった。

ちなみに途中まで集団をリードしていたカチューシャ列車だったが、終盤で完全にクイックステップに乗っ取られた。エシュボルン・フランクフルトを制して好調のまま参戦したはずのクリストフだが、この日は13位。

 

 

第2ステージ ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ) 

超級山岳マウント・ハミルトンを含む山岳ステージ。とはいえ山頂ゴールでもないし、さすがに総合は動かないだろう、と思っていたら動いた。ハミルトンへの登りで、ジョージ・ベネットのアタックをきっかけにして、イアン・ボズウェル、そしてラファウ・マイカが飛びついた。

最後はスプリント勝負で、経験豊富なマイカが先着。ベネット、惜しい。

この日、最初の逃げに乗り、追い付いてきたマイカたちにも遅れずに残り続けていたトムス・スクインシュ。3年連続のステージ優勝すら見えていた(し、山岳賞と敢闘賞も確定させていた)が、まさかの落車。

脳震盪の症状でふらふらの様子を見せながらもバイクに跨るスクインシュ。しかし、さすがにドクターストップがかかり、リタイア。

後遺症が残らなければいいのだが。ナイスファイトだった。

 

 

第3ステージ ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)

最後の直線が、思っていた以上の登りで、キッテルは完全に勝負に絡めなかった。デゲンコルブも調子を取り戻せていないのか、サガンとクリストフの一騎打ちとなった。

しかし、牽引するツァペルがいい走りを見せる一方で、その背後から飛び出そうとしたクリストフはまったく伸びず。左側から抜け出したサガンがそのまま誰の追随も許さないまま圧勝した。

クリストフの不調がとても不安だ。「裏番組」のツアー・オブ・ノルウェーではボアッソンハーゲンが絶好調だっただけに・・・。エシュボルン・フランクフルトでも勝ってるし、時期が悪いわけではないと思うのだが・・・。

逆にツァペルは今のところかなりいい形で機能しているので、ツールでのリベンジに期待したい。

 

 

第4ステージ エヴァン・ハフマン(ラリー・サイクリング)

カリフォルニアで逃げ切りがない、なんてことはない。この日もスプリンターチームが全力で牽引をしていたが、サガンに対する警戒もあってか、届かなかった。

そして逃げに2名を乗せていたラリー・サイクリングが、チームワークを活かしてスプリント勝負を支配。結局、ワンツーフィニッシュを飾った。

 

 

第5ステージ アンドリュー・タランスキー(キャノンデール・ドラパック)

クイーンステージに相応しい激戦。だがその前に、逃げも凄かった。昨日ワンツーフィニッシュしたばかりのラリー・サイクリングのハフマンとロブ・ブリトンが逃げる。山岳賞ジャージを着るダニエル・ハラミーリョも逃げる。サガンも逃げる。

とくにブリトンの頑張りも熱かった。マウント・バルディーも残り5kmまで独りで逃げる。追い付かれた後もしばらく残っていたので、十分な地力があったと言える。昨日逃げ切った選手とは思えない。

山岳バトルは、終始タランスキーの積極的な走りが光った。マイカも十分に強さを発揮したが、タランスキーを突き放すところまではいかなかった。

キャノンデールはこれで2年ぶりのワールドツアー勝利を果たした。

タランスキーも、昨年ブエルタ5位に続く結果を出せたことでまずは安心、といったところか。

 

 

第6ステージ ジョナサン・ディヴェン(チーム・スカイ)

昨年2位のタランスキー、5位のブックウォルターに期待していたが、それぞれ3位・2位と健闘したものの優勝は、正直意外なこのお方。 

元・チームウィギンスで、昨年はキャノンデールにトレーニーとして加入。今年からチーム・スカイで本格デビューしたばかりのネオプロである。

昨年のトラック世界選手権ポイントレース部門で優勝している実力者。ウィギンスやトーマスと同じ、イギリストラック界から登りつめた正統派TTスぺシャリストである。

その経歴ゆえにまだまだ実績はないが、今後、存在感を増していく選手になるのは間違いない。要注目である。

また、途中までホットシートに座り、最終的には5位になったフィリッポ・ガンナ(UAEチーム・エミレーツ)にも注目。なんと若干20歳。昨年のトラック世界選手権個人追い抜き部門で金メダル(今年は銀)。さらにジュニア版パリ~ルーベでも優勝しており、そっち方面での活躍も期待できる選手だ。

そしてこの日一番の驚きは、タイムトライアルが苦手だと思われていたジョージ・ベネットのまさかの快走。総合優勝者として文句ない走りを見せてくれた。

 

 

第7ステージ エヴァン・ハフマン(ラリー・サイクリング)

そしてまさかの2勝目。この日も3人も、逃げの中に送り込んだ甲斐があった。昨年の山岳賞に続くこの栄誉。チームとしても大成功に終わったカリフォルニアであった。 

そしてもちろん、この日の大健闘はラクラン・モートンである。

前日のTTで悔しいメカトラブルによる新人賞喪失。そこで腐らずに逃げに乗った彼の走りは実に素晴らしかった。彼も昨年はジェリー・ベリーのメンバーだった。ツアー・オブ・カリフォルニアは、ワールドツアーになっても、こういったコンチネンタルチームの選手たちが活躍できる舞台であり、それはとても喜ばしいことである。

 

 

 

 

活躍した選手たち

総合優勝 ジョージ・ベネット(ロットNLユンボ)

実は今回の総合優勝がプロ初勝利。

昨年も、途中までは総合3位と良い状態で進んでいたが、20km個人タイムトライアルで2分弱遅れての38位を叩き出して最終的に総合7位にまで沈んだ。だから今年も、マイカから6秒しか遅れていないとはいえ、総合優勝は厳しいかな、と思っていた。

そんな彼が、まさかのTT4位。

昨年2位のタランスキーから2秒しか遅れないという驚異の走りであった。

そもそも第2ステージでの逃げのきっかけを作ったのは彼のアタック。バルディー決戦でも積極的に仕掛ける姿が見え、ヘーシンクというもう1人のエースの存在が、いい感じに彼の動きを自由にしてくれていたのかもしれない。

それでも、ヘーシンクがバルディーで遅れ、完全に単独エースとなった状態で挑んだタイムトライアルで、あれほどの結果を出せたのが大したものだ。

 

昨年ブエルタで総合10位。チーム内最高順位だった。

今年もツール、ブエルタでの出場を予定しているのだろうか。ツールのログリッチェを支えるアシストとしても、活躍を期待したいところだ。

 

 

総合2位 ラファウ・マイカ(ボーラ・ハンスグローエ)

マウント・ハミルトンとマウント・バルディーの登りは十分に強かった。しかし、ベネットやボズウェルを突き放せなかった、という点で万全ではないだろう。ここから7月までに、しっかりと調整していきたい。

タイムトライアルも予想通りの結果に。

 

 

総合3位 アンドリュー・タランスキー(キャノンデール・ドラパック)

クイーンステージで1勝。TTでも安定した走りを見せて3位。第2ステージで遅れたことを思えば、十分に手ごたえを感じることのできる結果だったのではないだろうか。

万全の状態でツールを迎えられそそだ。目指すは総合ベスト5。できればステージ勝利も欲しい。

 

 

ポイント賞 ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)

まあ、ここは予定通りである。ただ1勝しかできなかったのは残念。そもそもスプリント勝負できたステージが2つしかなかったのが問題。アシストの力量不足なんてことはもちろんないだろうが、登り多めでキッテルが第1ステージ以外は勝ち目が薄く、クリストフやデゲンコルブも不調気味でライバルが少なかったことが、集団のペースを弱まらせる要因となってしまったのかもしれない。

それでも第3ステージのスプリントの勢いはさすが。山岳逃げも難なく行えていたし、ツールに向けての状態は現状、問題なしだろう。

あと今年も話題作りは完璧。急勾配区間をウイリーで駆け抜け、コスプレ観客たちを大いに盛り上げていった。フランドルでは観客が原因で落車して勝利を逃したにも関わらず、こうやって観客へのサービスも忘れない。本物のエンターテイナーである。 

 

 

山岳賞 ダニエル・ハラミーリョ(ユナイテッド・ヘルスケア)

チャベスやイーガンアルリー・ベルナルに通じる、可愛い系コロンビアン。昨年のツアー・オブ・ジャパン南信州ステージでも優勝した。

第2ステージのマウント・ハミルトン及び第5ステージのマウント・バルディーという、2つの超級山岳ステージでしっかりと逃げに乗り、文句なしの山岳賞だ。昨年山岳賞のハフマンにもポイント的に追いつかれたが、通過山岳カテゴリ―が上位であることから、ハラミーリョがジャージをゲットした。

今年ランカウイで総合4位。今後、もしかしたらディメンションデータあたりが獲得に動く可能性もあるかもしれない。

 

 

新人賞 ラクラン・モートン(ディメンションデータ)

個人的に超好みの顔である。昨年ツール・ド・北海道に勝利したことと相まって、大泉洋にしか見えない瞬間がある。とくに選手名鑑の写真は。

昨年はジェリー・ベリーに所属して今大会に出場。そのときは途中リタイアだったが、今回は執念の走りを見せ、一度は手放したこのジャージを自らの手で引き戻した。ディメンションデータはこういう、山岳での逃げが得意な選手が多いイメージ。彼もまた、近いうちにグランツールの逃げなどで活躍してほしいものだ。それこそ、勝利も含めて。

ちなみに、カリフォルニアの新人賞の対象って、昨年なんかは23歳以下っていうイメージだったんだけど、今年は25歳以上に引き上げられたのだろうか? ワールドツアーへの昇格が影響している? 

 

 

エヴァン・ハフマンとラリー・サイクリングズ

昨年の山岳賞に引き続き、今年は驚異の2勝。山岳賞も首位と同点と大活躍。

そして彼の活躍を全力でサポートしたのがチームの力。とくに第4ステージと共に逃げ、翌日のバルディーでも健闘したロブ・ブリトンや、そのバルディーの終盤で総合勢と共にやりあったセップ・クス。またスプリントでも初日にコリン・ジョイスが先頭集団に入り、新人賞まであとちょっと、というところだった。今回、特例で参加が許されてよかった。逆にユナイテッド・ヘルスケアやノヴォ・ノルディスクがまったくの空気だった。ジェリー・ベリーもだけど。

ハフマンは来年はいよいよ昇格移籍もありうるだろうか?

 

 

例年スプリンターが大活躍する印象のあるカリフォルニアだが、今年はその印象がめっきり減った。一方でコンチネンタルが大活躍する、というカリフォルニアの良い点は変わらず継承してくれている。

来年もぜひ、コンチネンタルチームの特例参加を望みたい。それこそ、アクセオンを。何しろ今大会活躍しているベネットもゲオゲガンハートもイアン・ボズウェルも、みなこのアクセオン(あるいはその前身)出身の選手たちなのだ。

 

来年もまた、この独特の雰囲気を継承した「カリフォルニア」が開催されるよう、願ってやまない。

ジロ・ディタリア2017 コースプレビュー 3週目

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いよいよ、ジロ・ディタリア第100回記念大会は、最終週に突入する。

アルプスからドロミテにかけての過酷な山岳コースを制するのはキンタナか、デュムランか、それとも別の誰かか。

そしてイタリア人による勝利は果たして果たされるのか。

 

 

第16ステージ ロヴェッタ〜ボルミオ 222km

前日のゴール地点ベルガモの北東に位置するロヴェッタから出発したプロトンは、まずは1級モルティローロ峠を攻略する。2年前、コンタドールが怒りのごぼう抜きを見せた峠であり、クライスヴァイクが先頭通過を果たした峠だ。しかし今年はそれを逆向きに登るらしい? 2年前よりは登りはきつくない(代わりに下りが・・・)

 

そしてこの日のメインとなるのは「チーマ・コッピ」のステルヴィオ峠。しかも南側から一度登ったあと、スイスに入国してのちに北側からもう一度登り返す。ツール第100回記念大会では「ラルプ・デュエズ2回」をやったわけだが、ジロでも似たような趣向を、ということだろうか。

とにかくデュムランにとっては正念場。キンタナが逆転を狙って仕掛けるとしたら、一回目のステルヴィオ——つまり、チーマ・コッピの方――から動き出すに違いない。また、第11ステージでモビスターが仕掛けたような、JJロハスやアマドールによる前待ち作戦にも注意したい。ここでサンウェブのアシストだけが牽引するような事態になれば、崩壊は免れない。

 

ラストが下りであることが、せめてもの救いか? いや、ここでもニバリのアタックに要注意だ。

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第17ステージ ティラーノ〜カナツェイ 219km

ステルヴィオ峠の南から、一路東に向かい、いよいよドロミテ山塊に。

このステージのラストは緩やかな登りであるため、デュムランにとっては厳しいステージとは言えないだろう。逃げ切り勝利になる可能性もあり、大規模な集団によるエスケープが作られることだろう。

ルイ・コスタ、ピエール・ローラン、ミケル・ランダ、あるいはアスタナの面々といった、何としてでも勝利がほしいクライマーやルーラーたちが鎬を削るはず。

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第18ステージ モエーナ〜オルティセイ 137km

まず短い。そしてギザギザ。ある意味でステルヴィオのステージよりも凶悪かもしれない。思い出すのは昨年のブエルタ。短いがゆえに序盤から積極的な攻撃を仕掛けていくであろうモビスターの猛攻の前で、デュムランとチーム・サンウェブがどこまで持ちこたえられるか。

前ステージがルーラー系の選手でも優勝を狙っていけるのに対し、ここは純粋なクライマーが勝利を目指して仕掛けてくるはずだ。ローラン、コスタ、ランダ。直前の下りもあるのでそれこそLLサンチェスが今日こそ・・・と来るかも。

もちろんマリア・ローザグループの中から飛び出した選手が勝利だけでも手に入れようとスパートをかけるかもしれない。ポッツォヴィーヴォ、ニバリ、ザッカリン、イェーツ。

デュムランはキンタナ以外の攻撃には静観を決め込むはずだが・・・レイアウトだけ見ると最後は若干、緩やかになるようなので、デュムランにとっては得意領域になるのが気になるところ。

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第19ステージ サンカンディド〜ピアンカヴァッロ 191km

かつて、パンターニが勝利したピアンカヴァッロが、18年ぶりに登場、とのこと。

勾配も10%近い部分が続き、難易度は十分。

ただ、こういう「最後に一発ドカン」系の山はむしろデュムランにとっては得意な方である。ラストは若干緩やかになるようだし。

変なアクシデントがないことを、デュムランは願うばかりである。

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第20ステージ ポルデノーネ〜アシアーゴ 190km

最終日がデュムランの独壇場になる以上、クライマーたちにとってはここが最終決戦場である。とくにキンタナにとってみれば、総合優勝を狙うのであれば、このステージ終了時点までに、デュムランとのタイム差を2分以上に開いておきたいところ。

攻撃の仕掛け所は十分にある。まずは残り90km地点あたりから始まる1級モンテ・グラッパ。まずはここで激しい攻撃を仕掛けられるのは間違いない。また、モビスターであれば前待ちも用意しているだろう。ここでデュムランが遅れれば、2年前の焼き直しになってしまう。

逆にモビスターにとっては、最後の1級山岳だけで勝負を仕掛けるのは心もとない。最後が平坦に近いレイアウトだけになおさら・・・。

今年はデュムランの傍に仕えるアシストは存在するのか?(サンウェブも前待ちを置きたいところ・・・)

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第21ステージ モンツァミラノ 29.3km(個人TT

今年の最終日は個人TT。つまりは、最終日まで勝負がわからない、という白熱の展開である。主催者としては、キンタナのような強力なクライマーがリードする中で、TT能力の高い選手――おそらくはニバリを含む――がここで逆転するかどうかのハラハラを、予想していたのだろう。

まさかデュムランが、キンタナを2分以上突き放して3週目に入るとは思わず。

もしもキンタナたちがデュムランを突き放した状態でこの日を迎えることができなければ、このステージはもはや消化試合になってしまうかもしれない。

そもそもこの日は下り基調で、やや登りも含んでいた第10ステージ以上にデュムラン向きなのだから。

 

まあ、とはいえ何が起こるかわからないのがジロ。そしてもしも、キンタナたちがデュムランを2分以上突き放した状態でこの日を迎えるのであれば、この日は歴史に残る名勝負が繰り広げられることになるだろう。

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ジロ・ディタリア2017 第15ステージ

ラスト50kmがほぼ昨年の「イル・ロンバルディア」のレイアウトだという第15ステージ。

なんとしてでも逃げに乗りたい選手たちが果てしないアタック合戦を繰り返し、10名の逃げを確定させるまでに100km以上の道のりと、2時間以上の時間を必要とした。

 

この10名の中にはマリア・チクラミーノをほぼ確定させているフェルナンド・ガヴィリアや、第6ステージで勝利しているルヴァン・ディリエ(BMC)、また何度も逃げに乗っているガスプロムエフゲニー・シャルノフの姿などもあった。

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後半2つある「山」のうちの1つ目、2級ミラゴロ・サンサルヴァトーレの下りに差し掛かる頃、先頭集団はルディ・モラール(FDJ)、フィリップ・ダイグナン(スカイ)、ジャック・ヤンセファンレンスブルグ(ディメンションデータ)の3人に絞られていた。

そこに、追撃を仕掛けるのがキャノンデール・ドラパックのピエール・ローランと、アスタナのルイスレオン・サンチェス。直後の3級セルヴィーノの登りで2人は3人に追い付いた。 

 

2級山岳の下りで、アクシデントが起きた。急カーブで逃げ場を失ったナイロ・キンタナが落車。すぐに後続のチームメートの自転車を借りて発信するが、体のサイズと合わずに何度か自転車を乗り換える羽目に。

総合を争うライバルのこのアクシデントに対して、マリア・ローザを着るトム・デュムランがペースを落とすよう集団に呼びかける。前日に圧倒的な力で勝利を達成した彼に逆らう者はおらず、キンタナは集団に戻ることができた。

 

総合を争うライバルのトラブルには待つ、という、ときに美徳とされるこの「不文律」。

ここ最近は蔑ろにされることも多いとされるこの暗黙の了解を、「新王者」デュムランが実行したこの出来事が、今日のレースで最も印象に残る出来事であった。

 

とはいえ、だからデュムランが道徳的であるとか、そういうことが言いたいわけではない。

デュムランが一度こう動いたことが、今後彼が不測の事態によって遅れざるをえなくなったときに、彼を助けるチャンスを生むことになるかもしれない――その意味で、迅速に迷いなく今回の行動に移れたデュムランは、やはりクレバーだった。

 

 

 

――ちなみにジロ第15ステージが開かれたこの日、北欧ではツアー・オブ・ノルウェーの真っ只中であった。

全5日間にわたって行われた、同国最大規模のステージレースであったが、初日は地元ノルウェーのボアッソンハーゲンが優勝。その後の平坦ステージではフルーネヴェーヘンに勝利を奪われていたものの、最終日はルームポット・ネーデルランゼのピーター・ウェイニングが総合首位に立った状態で3秒差でサイモン・ゲランスとボアッソンハーゲンが並ぶ。最終日のスプリント勝負でどちらかが3位以内に入りより順位が上の選手が勝つ、というような状況だった。

レース途中でフルーネヴェーヘンが落車。最終スプリントはほぼ、ゲランスとボアッソンハーゲンの一騎打ち、という様相だった。そして残り12kmで、路面に残った水を避けようとしたのか、バランスを崩してボアッソンハーゲンが落車。すぐに自転車を交換しようとしたもののうまく合わず、直後に渡されたチームメートの自転車もダメ。もう1人やってきたチームメートの自転車に乗ってようやく再発進、というような状態だった。

 

そんな状態の中、ゲランスを含めたプロトンはボアッソンハーゲンを待ってペースを落とした。彼が地元の英雄だったから、ということはあるだろうが、それにしても、この動きは十分に感動的だった。最終的にスプリントはボアッソンハーゲンが優勝。ゲランスは2位につけ、総合順位もその順番で確定となった。

 

1日の間に、ここ最近では(少なくとも上位のレースでは)あまり見られなかったこの「不文律」を見られたことが少し驚きだった。

 

 

 

ジロのレースに戻ると、キンタナのトラブルによって再びタイム差が開いた逃げ集団だったが、結局はベルガモの市街地に入ったところで捕まえられてしまった。アスタナの総合上位に入っていたタネル・カンゲルトがここで中央分離帯の標識にぶつかり骨折リタイア。アスタナの不運は続く・・・。

 

残り5kmから始まる丸石の敷き詰められた石畳区間。非常にテクニカルなその道を、唯一逃げ残っていたピエール・ローランが疾走する。

正直、昨年からいいところのない彼の勝利はそろそろ見たいところだったが、さすがにまだ4km以上残っている状態でのこれはどうしようもない。

あえなく捕まっていくその瞬間、「社長」譲りの舌ベロベロを見せるローラン。

ぜひまた、3週目のドロミテでチャレンジしてほしい。今日もちゃっかり、3級山岳を先頭通過しているし、まだ諦めてはいないはずだ。

 

石畳区間を抜け、舗装路に入った先頭集団から、まずはマリア・ビアンカボブ・ユンゲルスがアタック。そこに、2年前ロンバルディアの覇者ヴィンツェンツォ・ニーバリドメニコ・ポッツォヴィーヴォが追い上げる。まだイタリア人勝者のいない今大会ジロ。ニーバリとポッツォヴィーヴォに寄せられる沿道からの期待は果てしなく大きいことだろう。

 

しかしニーバリもポッツォヴィーヴォも、その期待に応えることはできなかった。プロトンを引き離せないことを悟ったニーバリも集団に戻り、総合勢だけが居残った小集団はそのままフィニッシュへと向かう。

 

こういった、総合勢だけのスプリントでは、ティボー・ピノがめっぽう強い。・・・と信じていたのだが、ここでまたボブ・ユンゲルスが強烈な加速。

そのまま誰も止めることができず、先頭でゴールを決めた。

 

驚くべきことに、2位にはキンタナが入った。ピノは3位。まあ、3位に入っただけでも、良しとするべきか・・・。

昨日、デュムランから24秒を奪われたキンタナは、この日、なんとか6秒を取り返すことができた。

 

あとは3週目。ドロミテの凶悪な山岳ステージで、どれだけ力を見せつけることができるのか。

休息日明けの悲劇にとらわれぬよう、この日の過ごし方も重要になるだろう。 

 

 

 

ジロ・ディタリア2017 第14ステージ

今日のような、最後に山岳が一発ドカンと来るようなステージは、デュムランにとっては決して苦手ではない、ということはわかっていた。

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だが、それで考え付くのは「遅れても30秒程度かもしれない」くらいなものだった。それこそ、第9ステージのブロックハウスのように。

 

それがまさか・・・こんなことになるなんて!

執拗なアタックを繰り返したキンタナに対し、10秒以上タイムを開くことを許さずに追走集団の先頭を牽き続けたデュムラン。やがて彼に追い付き、そして追い抜いた!

そのあとも先頭集団はマリア・ローザを先頭に登坂を続け、残り250mでキンタナが脱落。

最後はザッカリンとの一騎打ちを制し、デュムランが勝利を掴んだ。

 

今日のキンタナの調子が悪かったわけでは、決してないだろう。

チームとしても相変わらずの最強ぶりで、残り4km程度までアナコナが全力の牽引を見せ、集団も少しずつ小さくなっていった。バウケ・モレマもここで脱落。

そして残り4kmでポッツォヴィーヴォがアタックし、これにキンタナとザッカリンがついていったところから事態は大きく動き出す。

 

 

レース後のインタビューで、デュムランは、「もちろん総合が最優先だったので、キンタナが飛び出したのでついていかざるをえなかった」的なことを言っていた(おそらく、そんな感じだったと思う・・・)。

その言葉通り、デュムランは残り3.5kmから、キンタナを追う集団の先頭に立ち、たった独りで追走を仕掛け続けた。ニバリもポッツォヴィーヴォもイェーツもランダもクライスヴァイクも、デュムランの背後につく他なかった。

 

 

ほぼ同じタイミングでキンタナはさらなる加速を見せ、ザッカリンを突き放した。ニバリが言っていたという、「飛ぶようなクライム」で一気に距離を開いていくキンタナ。その姿を見る限り、キンタナに不調の影などまったくなかったように思う。

 

しかし、キンタナのその加速でも、デュムランに対してつけられたタイム差は10秒が限界だった。むしろ、そのタイム差がどんどん縮まっていく。後ろではデュムランしか牽いていないのに!

 

それもそのはず。デュムランが集団の先頭に立ち、キンタナを追走し、そのタイム差を少しずつ縮めていった残り3.5km~2.5km区間というのは、今回の登坂ポイントの特に勾配が緩い区間であったのだ。

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デュムランの走り方が常に落ち着いていて、クレバーであることがよくわかる。

彼は、本当に彼が勝てる区間以外では勝負を仕掛けず、勝てる区間では全力で、牽制など考えもせずフルスロットルで戦うのである。

純粋な登坂力では勝てない相手が多いことを自分自身で理解しているからこそ、その謙虚さゆえの、戦い方なのではないかと思う。

 

ちなみに最後にキンタナに追い付き、それを追い越す区間(発煙筒の区間)は、残り2km~1.5kmの区間。やはりここも、彼の得意とする緩斜面区間であった。

 

 

だから、ラストのスプリント勝負でザッカリンを打ち倒したことも不思議ではない。

最後の500mもやはり彼の得意とする勾配だったのだから。

それでもあれだけ前を牽いていて勝つんだから、やっぱり偉大過ぎる勝利だったわけだけど・・・。

 

 

 

 

ちなみに、デュムランの今日の勝利を見て思い出したのが、2015年ブエルタの第9ステージ。

その年のブエルタは、第2ステージの山頂ゴール時から2位を獲るなど活躍を見せていたが、そんな彼が本当の意味で衆目を驚かせ、その可能性に驚嘆を覚えさせたのがこのステージだった。

何しろ、フルームとホアキンを打ち破っての勝利だったのだ。

差しては差されての激戦。Jsportsで実況解説を行っていた栗村・辻コンビも絶句し、「思わずスペインに向かって正座していました」という言葉が出てくるほどだった。


La Vuelta 2015 - stage 9 - Dumoulin wins in beautiful fashion

 

 

今日の勝利は実に見事だったが、当然これでジロが終わったわけではないし、むしろ本当の勝負はこれからであることは間違いない。

とくに2015年ブエルタ第20ステージで彼を表彰台から突き落としたのは、当時のアスタナが見せた完璧なまでのチームワークだった。

 

あのときのような「前待ち」作戦が展開されれば、デュムランにとっての悪夢が再び蘇ることは間違いないだろうし、モビスターも当然それは狙ってくるだろう。似たような展開になったのが第11ステージだった。ホセホアキンロハスベンナーティが前に逃げたときこそ、デュムランにとって危険な瞬間となるだろう。

まずは火曜日。クイーンステージ。キンタナがここで勝負を懸けるとすれば、チマ・コッピでアタックを仕掛けるはずだ。そして前待ちしていたアシストがその下りで合流しキンタナを牽引。これをデュムランがいかに食い止められるか。

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今年は2年前よりもアシストに期待できそうな部分はあるだろうが、それでもモビスターのそれにはまったく敵わない。

 

モビスターの本気が勝つか、デュムランの執念が勝つか。

 

最高潮に面白い展開で、我々はジロ第3週を迎えることとなる。

 

 

ちなみに明日も面白そうなステージだ。

イル・ロンバルディア」ステージ。昨年ロンバルディア2位のローザの活躍に期待したい。今日も残り6km地点でアタックしていたし、やる気はあるだろう。

(たださすがに逃げ切りが決まりそうなステージなので、逃げ集団に乗れなければ厳しいだろう)