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ワレン・バルギル、その実力と戦略

ツール・ド・フランス2週目も終わり、いよいよ勝負の3週目へと突入する。

しかし、ここまで全15ステージを終えて、総合上位4名が30秒以内に、総合9位までが5分台に収まっているという、稀に見る接戦となっている。その要因は、既に何度か言われているように、頂上ゴールや超級山岳自体の少なさなどを原因とした、低難易度化にあると言えるだろう。3週目もまた、山岳コース自体は2回しかなく、TTもそこまで長いわけでもないため、最後までこの接戦は続くかもしれない。

一方で、多くの有力ライダーたちが早々にツールを去ったことも、今大会の特徴と言えるかもしれない。この原因の限定は容易ではないが、今回の経験がより、今後の選手の安全確保、ルール運用の適切さを向上させ、自転車ロードレースという競技自体をより高いレベルに仕上げていく礎になればと思う。

アメリカを中心に、アシスト選手を評価する新たなテクノロジーの情報も出ているようで、サッカー等にも負けない、自転車ロードレースの競技としての価値の向上を期待している。

 

 

そんな、良いことも悪いことも溢れている今大会だが、2週目を終えた段階で、個人的に注目したい選手が1人いる。

 

それは、ワレン・バルギルという選手だ。2012年ツール・ド・ラヴニールで総合優勝し、キンタナ、チャベスに続く新たな才能として大きな期待をかけられながら、イマイチ結果を出し切れずにここまで来ていたこの選手。

 

今年はステージ優勝にシフトすると宣言しつつも、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネではやはり山岳で失速する姿を見せ、いつも通り大した存在感も示せぬまま終わってしまうのではないかと、そんな風に思っていた。

 

だが、第8ステージ以降、山岳ステージで積極的な走りを見せ始め、第9ステージ終了後には山岳賞ジャージを着用。さらには第13ステージ、フランス革命記念日にて、13年ぶりのフランス人勝利を成し遂げる大快挙。

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なぜ、彼がこれだけの成果を突然に出すことができたのか。

その理由を、第8ステージ以降の彼の走りを振り返りながら、自分なりの結論を出してみたいと思う。

 

 

 

バルギルの経歴

ワレン・バルギルは、1991年10月28日に、フランスでも特に自転車が盛んな地域であるブルターニュの、エンヌボンという町で生まれた。

現在は25歳だが、今年で26歳なので新人賞の候補ではない。キンタナやチャベスサガンなど、多くの才能を生み出した「90年世代」からわずかに外れ、ボズウェルやウェレンス、ケルデルマンといった選手と同世代にあたる。

 

バルギルのプロ自転車選手としてのキャリアは、2011年に始まる。地元ブルターニュのチーム、「ブルターニュ・シュラー(現フォルテュネオ・オスカロ)」にトレーニーとして加入した彼は、その年のツール・ド・ラヴニールにて区間1勝・総合5位という結果を叩き出す。

更に翌年には現チームの前身となるアルゴスシマノにトレーニーとして加入。そしてラヴニール総合優勝という、彼の名を轟かすことになる成果を出したのである。

 

ツール・ド・ラヴニールは「若手の登竜門」と呼ばれる。とくにバルギル勝利の2年前、2010年にはナイロ・キンタナが、そしてその翌年にはエステバン・チャベスが総合優勝を果たしている。2人は現在なお各グランツールにおいて総合優勝を狙える実力をもった選手たちである。当然バルギルに対しても、同じような期待を抱かせる結果となった。

 

実際に、その可能性は十分にあった。たとえばチーム・ジャイアント・シマノの正式なメンバーとして迎え入れられた2013年シーズンは、ブエルタ区間2勝。さらに翌年の2014年シーズンではブエルタで総合8位となるなど、23歳という若さを考えれば十分すぎる結果を叩き出していた。

同じころ、同じラヴニール覇者であるキンタナが、ツールで総合2位、そしてジロで総合優勝を果たすなど大活躍。当然、バルギルに対する期待も高まる。キッテルとデゲンコルブという2大トップスプリンターを抱えるドイツチームであったこのチームでは、ツールはあくまでもステージ優勝を優先する、という方針ではあったものの、将来的に総合狙いへとシフトしていく際に、その一番槍として活躍するであろう選手として、大切に育てられていったようである。

 

そして2015年シーズン。いよいよ、ツール・ド・フランスへと乗り込むことが決まる。目指すは総合TOP10。その実力は十分にあるように思われた。ピノ、バルデと並ぶ「フランス人期待の星」として、彼は意気揚々とツールに乗り込んだのである。その年、24歳になる彼。すでにバルデが新人賞を獲得し、ピノが総合3位となった年齢である。

 

 

 

結果は、30分遅れの総合14位。

決して、悪くはない。ラ・ピエール・サン・マルタンでも3分遅れの15位。ラルプ・デュエズでも5分遅れの34位に抑えた。第18ステージまでは、総合10位前後をかろうじてキープすることもできていた。

 

しかし、この年のツールで彼は、総合順位とは別に、ネガティヴな評価を下されかねない失態を犯してしまう。すなわち、第16ステージ、ギャップへと向かうステージにおける、悪名高き下り「マンス峠」で起きた、ゲラント・トーマスに対する接触・落車誘発事故。

先輩であるナイロ・キンタナにも「戦う理由が何もないのに、総合争いをしている選手の中に入ってかき乱し、クラッシュを起こす選手がいる*1」と厳しめに批判されている。

翌2016年シーズンはツール・ド・スイスでこそ総合3位と健闘したものの、肝心のツール・ド・フランスでは総合23位。ブエルタに至っては第3ステージでいきなりリタイアとなってしまうなど、その勢いが徐々に失われていくことに。年初の交通事故も、その大きな要因であったのは間違いないだろう。

さらには、2015年のブエルタでトム・デュムランが総合系ライダーとしての才能を開花させたことも、バルギルのチーム内での立ち位置を危うくさせる状況にも繋がっていった。

 

果たして、バルギルは復活できるのか。それともこのまま、埋もれていってしまうのか。

ほぼ同じタイミングで総合系ライダーとしての実力が萎み始めていたティージェイ・ヴァンガーデレンと並んで、応援はしたいものの、期待を抱くことの難しい選手というイメージが強まっていった。

 

 

 

2017年、バルギルの再躍進

2017年シーズンに入って、バルギルは変わったのか。そんなことはないように思えた。パリ~ニースでは総合8位に入るが、これはポートやバルデなどの有力選手が序盤で遅れたり失格になったりしたことも要因として挙げられるだろう。バスク1周でも振るわず、ドーフィネでは山岳での大失速も経験した。やはり今年も、バルギルは期待できないのではないか。そんな風に思っていた。

 

だが、今年の彼は、例年とは違った目標も持っていた。それはすなわち、総合を狙うのではなく、ステージ勝利に焦点を当てる、というものである。

実際、それが許される環境に彼はいたように思う。すでにチームはジロで総合優勝を果たし、デュムランのおかげでバルギルに対するプレッシャーが小さくなっていたのは確かだ。

さらにステージ優勝に関しても、何がなんでも、というわけではなかった。キッテルやデゲンコルブが去ったものの、新たな実力者マシューズを迎え入れ、彼にエースナンバーを着せたことで、バルギルの立場は比較的軽いものとなった。

何よりも彼はまだ若い。

そして、サンウェブというチームは、彼に自由に走らせるだけの雰囲気を、チームの中で作ることができる、そんなチームであったことも間違いないだろう。

 

 

 

そしてバルギルは、動き出す。

最初の舞台は第8ステージ。アップダウンの激しい、ジュラ山脈のステージだ。

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今大会、最初の逃げ切り勝利を狙えるステージとして、序盤から積極的なアタック合戦が繰り広げられた。

そんな中、一度はヴァンアーヴェルマートやシャヴァネルら3名の逃げが形成されたものの、38歳ベテランルーラーのロイ・クルフェルスや、ジロでも活躍したシモン・ゲシュケなどのサンウェブの面々が中心となって、なんとかこの逃げを捕まえようと積極的な動きを見せていた。

 

彼らの第一の目標は、もちろんマシューズのポイント賞に向けたアシストである。逃げ3名を捕まえた状態で、45km地点の中間スプリントポイントに到達すること。その思惑通り、最初の逃げはスプリントポイント直前に捕まえられることとなった。

 

このあとも、マティアス・フランクなど4名が逃げを形成するが、これも最大で20秒ちょっとしかタイム差は開かず、やがて70km地点で再度吸収。

この直後に形成された50名近い大規模逃げ集団の中に、マシューズ、テンダム、そしてバルギルが入り込んだ。

 

50名の中からさらに16名に分裂した逃げ集団。テンダムと共にそこに入り込んでいたバルギルは、3級山岳ラ・ジュ峠の登りにて、パウェルスと共に飛び出した。

そしてパウェルスとの山岳スプリントを制し、先頭通過を果たしたバルギルは、下りの後に捕まえられた後も、続く2級山岳でも先頭で山頂を越えた。

 

 

合計で7ポイントを獲得したバルギル。しかし、この日はあまりに絶好調「すぎた」。それゆえに、「ちょっと攻撃的に走り回りすぎて、最後までもたなかった*2」。実際に彼は、最後の1級山岳の登りの途中で力尽きてしまう。

逆に後続集団から飛び出してきたリリアン・カルメジャーヌに追い抜かれ、彼に1級山頂の先頭通過を許してしまった。

 

そのままカルメジャーヌは逃げ切り優勝を果たし、さらには山岳賞ジャージも手に入れた。

 

 

つまり、バルギルは「タレ」てしまったのだ。

だがそれは、決して悪い結果ではなかった。

彼自身も、自分の足がここまで絶好調であることに、驚いていたに違いない。だからこそ、調子に乗って「バカみたいに」走ってしまったのである。

 

しかし、この好調が、なおも続きうることも同時に理解した彼は、翌日の第9ステージで、今度は少しばかりの「賢明さ」を加えて走ることに決めたのである。

 

 

 

第9ステージは今大会最難関(クイーン)ステージと言われた日。今大会、決して多くない超級山岳が3つも詰め込まれ、さらに2つの超級グラン・コロンビエは「最も厳しい登り」と言われたルート。最後の超級モン・デュ・シャも、全長9km、平均勾配10%超えという恐ろしいステージである。

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この日も序盤から激しい動きが巻き起こり、40名近い逃げ集団が形成される。サンウェブも、アルント、ゲシュケ、テンダム、マシューズ、そしてバルギルと、昨日よりもさらに多くのメンバーを逃げに入り込ませていた。とくにピュアスプリンターのはずのアルントさえも入れることで、マシューズの中間スプリントポイントを本気で狙う姿勢を見せたようだ。

とくにテンダムは、最初の超級山岳の麓からラスト1kmまで、集団の先頭を黙々と牽引する働きを見せる。

最初の超級山岳ラ・ビシェ峠は、ラスト1kmから飛び出したプリモシュ・ログリッチェが先着するが、バルギルはここで、「決して本気で踏むことなく」、3位通過で12ポイントを獲得した。

そもそも、最初の2級山岳も、やはり山岳スプリントには参加せず、ギリギリでポイントがもらえる4位に甘んじていた。「今日は賢く走った。昨日みたいに馬鹿な動きは繰り返さなかった。それに3級、4級の小さな峠では動かなかった。ただ大きな峠だけに、ひたすら集中したんだ*3」とゴール後に語っていたバルギル。その言葉通り、彼はじっくりと逃げ集団の中で機会を窺い、そして2つ目の超級山岳グラン・コロンビエでいよいよ、パンタノやログリッチェを引き千切っての先頭通過を果たした。

 

さらに最後の超級モン・デュ・シャ。先行していたギャロパン、バークランツの2人を、モレマと共に追走し、最後には抜き去ったバルギルはそのまま独走。ダウンヒルで独り抜け出したロマン・バルデに追い抜かれるも、それを追走するフルームら総合上位勢と合流したバルギルは、なんとか彼らに喰らいつくことに成功した。

 

そして彼は、ここでもまた「賢明さ」を発揮した。

すなわち、フルーム、アル、ウラン、フールサンといったメンバーと共にバルデを追走する中で、一切ローテーションに加わらない、すなわち「ツキイチ」を敢行したのである。

先頭を牽いていた選手が降りてきたとき、まるで疲れて遅れているかのような素振りを見せて、自分の前に選手を入れる、という手法。

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とはいえ、これは仕方ない。

何しろここまで、バルギルは独走態勢だったわけである。

さらに言えば、今彼がバルデを本気で追いかける必要性はそこまで高くない。

総合争いはしているわけではないし、山岳賞も確定した今、ステージにこだわる必要は少ないのである。そこで自ら進んで総合勢を助ける必要性は薄い。

 

そんな中、しっかりと足を貯めることができたバルギルは、最後のスプリント争いで、見事ほかの選手を差し切って優勝を決めた。

・・・と思ったが、ギリギリでウランに差されてしまったようだ。

それでも、ツキイチの結果とはいえ、勝利まであと一歩、というところまでいける走りを見せてくれた。あの山岳での独走の末に。

 

バルギルは明らかに、これまでの彼にはないレベルのコンディションに達していた。

 

 

 

このコンディションは、休息日が明けた第2週になっても続いた。

第13ステージ。今大会の目玉の1つでもあった、「101km超短距離山岳ステージ」である。超級山岳こそないものの1級山岳が3つ。しかも最後の1級山岳は後半、13%を超える激坂区間が連続する「ミュール」である。

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この日、バルギルはヴォクレールと共にファーストアタックを決めた。これはあえなく吸収されるものの、続いて逃げにのったメンバーの中からアレッサンドロ・デマルキが最初の1級山岳を先頭通過したとき、後続のプロトンから飛び出したバルギルが、そのまま2位通過を果たすこととなる。

 

この動きに呼応して飛び出したコンタドール、ランダ、そしてキンタナがバルギルと合流する。2つ目の1級山岳はそこから更に飛び出したコンタドールとランダが先着するも、追走を仕掛ける集団の中でバルギルが先頭を獲り3位通過を果たす。

 

そして最後の1級山岳「ミュール・ド・ペゲール」。その登りの大半をキンタナに牽かせつつ、最後の2kmでバルギルが前に出て、先頭のコンタドールたちを追い抜き、そして最後の1級山頂も獲得することとなった。

 

ラスト2kmは、13%の勾配が延々と続く激坂区間。本来であれば、キンタナやコンタドール、そしてペイラギュードの登りで力を見せつけたランダが、得意とするはずの勾配であった。しかし、この日、この激坂で最も強かったのがバルギルだった。彼は、トップクライマーたちと張り合うだけの走りを、この日見せたことになる。

 

 

そして、プロトンに追い付かれる可能性もなくなった4名による、ステージ優勝を巡る戦い。

ここで見事、勝利を掴んだのがバルギルだった。

13年ぶりの、フランス革命記念日におけるフランス人勝利

彼にとっても、当然初となる、ツール勝利であった。

 

もちろん、この日もややツキイチ気味だったのは否めない。3番目の位置にいながら、先頭交代して降りてきたランダの後ろに入り込むなど、やや露骨な場面も目立った。

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独走の末、総合勢に混じっての逃げであった第9ステージと比べると、この日のツキイチはやや、擁護しづらいものではある。

もちろん、暗黙の了解が全て正しいとも思わない。勝つためにクレバーに動くことが正しいときもある。

しかしまあ、とりあえず1勝はしたので、次の勝利はもう少しスマートにやってほしいものだ、と思わなくもない。

(この点、反論・異論あればぜひコメント等で!)

 

 

逆にこの日のランダは、登りでひたすらコンタドールの前を牽いたり、最後のスプリントでも残り500m、コンタドールが飛び出すまで黙々と先頭を牽いたりと、献身的な態度が目立った。最後にスプリントする足など、残っているはずがない。

逆にエースとして走る性格じゃなさそうだなぁ、という痛感する次第である。

 

 

 

まとめると、バルギルという選手が、今大会において山岳賞とステージ1勝を手に入れることのできた秘訣は何か、というと、アタックすべきところでアタックする、という選択の賢明さがまず第一に挙げられる。第15ステージでも、最後から2番目の1級山岳の先頭通過を終えたあとは、それ以上欲張ることをせず、後続が追い付いてくるのを待つ姿勢を見せた。山岳賞のキープのために必要な努力だけをして、それ以上をしない姿勢。1勝したことで、その徹底ぶりが際立ったようだ。

そして勝つために身を潜め、チャンスを窺う「賢明さ」も持ち合わせている。いずれにせよ、自らの力の限界を知り、それを最大限に活かせる方法を模索する姿勢は、もはや若いとは言えないだけのモノがある。

 

もちろん、第13ステージで見せたように、厳しい山岳地帯を誰よりも巧みに登るだけの足、体力、そしてそれだけの走りのあとにスプリントで他を圧倒する力、すべてがトップレベルであったことも間違いない。

 

 

 

バルギルの今後

さて、バルギルは今大会、山岳賞ジャージをパリに持ち帰ることができるのだろうか。

現状の山岳賞ポイントを確認すると以下の通りである。

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バルギルが圧倒していることがわかる。

 

ちなみに今後の山岳賞ポイントは以下のようになっている。

 

第16ステージ・・・3級&4級:合計3ポイント

第17ステージ・・・2級&超級&1級&超級:合計55ポイント

第18ステージ・・・3級&1級&超級(2倍):合計52ポイント

第19ステージ・・・3級×3:合計6ポイント

 

となっている。

グリッチェとデヘントが、バルギルとは80ポイント差なので、バルギルがまったく逃げに乗れなかったと仮定しても、第17・第18でともにポイント収集に必死にならなくてはならないことがわかる。

しかも、総合系が獲る可能性の高い第18ステージの超級山頂も、少なくとも上位で取る必要があるため——正直、バルギルが山岳賞を失う可能性は、彼が体調不良などでシャンゼリゼに辿り着けない、というパターンしか考えられなさそうだ。

 

 

どうやら、バルギルはしっかりと、結果を残して今年のツールを終えられそうだ。

 

 

 

では、ツールの後の彼は何を目指すべきだろうか。

彼は今年、ステージを狙う、という言葉と共に、「アルデンヌを狙いたい」という言葉を残していた。

実際、今年のフレッシュ・ワロンヌでは6位。昨年のリエージュ~バストーニュ~リエージュでは6位と悪くない結果を出している。来年もアルデンヌを狙う、という方針は変わらないだろう。

しかし、アルデンヌに関して言うと、チームメートにマシューズがいるため、バルギルだけが単独エースというのは難しいだろう。狙えるとしたらフレッシュ・ワロンヌくらいか。

一方、この秋の目標という意味でも、イル・ロンバルディアは十分に可能性がある。昨年も8位。イル・ロンバルディアのような、そこそこに難易度の高い山が複数回出現するレイアウトは、山岳賞を取れる選手が得意とするものである。最後が小集団スプリントになる可能性が高いのも、今大会で勝利相当の走りを2回見せたバルギルには向いていると言えるだろう。

今大会の調子を維持することができれば、今年のロンバルディアには大きな期待を抱くことができるだろう(たださすがにツキイチはダメだよ!)。ケベックモントリオールもアルデンヌ風のレースなので期待できそう。

 

なお、2014年にはストラーデ・ビアンケでも8位を獲っている。デュムランもいるので難しいが、こちらで勝利を狙う可能性も、来年はあるかもしれない。

 

 

 

総合、そして山岳賞についてはどうだろう。

今大会の走りを見て、連日の山岳ステージを逃げ続けるスタミナがあることはよくわかったので、今後も山岳賞狙いで走るというのは十分可能そうだ。

スタミナがあるならば総合も、と考えたいところだが——出し抜くよりも落とさないことを重視する総合的な走りは、プレッシャーに弱くあり続けてきたバルギルには向いていないような気はする。むしろデュムラン等のアシストとしての活躍に期待したいところ。

ただ、デュムランが出場しないジロかブエルタあたりで総合を狙う走りは見てみたい気がする。ジロは未経験のようだが、割と相性が良い気はする。

 

 

ワレン・バルギル。

かつて期待され、失望された、やや古くなってしまった「フランス期待の星」。

だが、このツールで、再び輝く走りを見せてくれたことは、1人のファンとしては嬉しい限りだった。

そして彼を支えてくれた、テンダムやマシューズを始めとしたチーム・サンウェブの強さにもまた驚かせてもらった。

 

チームとしても今後が実に楽しみである。

ツール・ド・フランス2017 第11日まで

第11日までの様子をふまえて各チーム毎の総評を載せる。

総合順位順に掲載。★は戦前の期待度と比較して適当につけている。

 

 

  

チーム・スカイ ★★★★★

ゲラント・トーマス、驚きの初日ITT勝利。一方で、第9ステージの悲運の落車リタイア。しかしそれでもこのチームには、クフャトコフスキとセルヒオ・エナオとランダにニエベという最強クライマーたちが残っている。クフャトコフスキはドーフィネに続く大車輪の活躍だし、ランダもニエベも第5ステージ・第9ステージともに比較的早く脱落していたが、総合順位でも割と上位にいるし、温存しているとみることもできる。だとしたらあまりにも恐ろしい。

そしてクリス・フルームの安定感もまた恐ろしい。攻め急ぎ、悲劇に見舞われたポートと比べ、彼やバルデの下りはただ速いだけでなく「安全」なのだ。2014年以外では大きな不運で遅れることもなく、もはやその安定感は実力の一端と言っていいだろう。

今年もまた、彼の総合優勝は固いのだろうか。

 

 

アスタナ・プロチーム ★★★★☆

アルのツール出場が決まったあとも、「あくまでもフールサンをエースで走る」と告げていたはずの首脳陣。そしてドーフィネでなんとか総合優勝を果たしたフールサンは、安心してツールを迎えられそうだった。

しかし、アルがイタリア選手権で優勝。さらに、第5ステージでは失速するフールサンを捨てて自らステージ優勝を飾った。雲行きが怪しくなる。契約延長を決めた直後だっただけに、フールサンは内心どのように思っていたのだろうか。第9ステージではアルがお家芸のメカトラアタックで無駄に体力を消耗したあと、タイミングよくカウンターアタックするが、フルームたちの追走集団の先頭をアルが牽く場面も。初山選手ならきっとワクワクしそうな展開だが、チームの今後があまりにも不安すぎる。

 

 

AG2R・ラモンディアル ★★★★☆

バルデは結局この第9ステージで、グラン・コロンビエとモン・デュ・シャの2つの下りで共にアタックを仕掛けたのだろうか。今シーズンの頭は不安に満ち満ちていた彼の走りが、ここに来てこれまで以上の積極性を見せ始めている。それが実ることのなかったこの日ではあるが、その下りのうまさと合わせ、今後の展開に期待が持てる走りを見せてくれた。ダウンヒルの能力はニバリとフルームに匹敵するものがある。

課題は独走力。第9ステージも、独走力さえあれば、あの結末にはならなかったのかもしれない。たとえこのあと、フルームに匹敵する走りを見せたとしても、マルセイユでのTTで差をつけられるのは必至。この点での成長が今後求められる。

 

 

キャノンデール・ドラパック ★★★★☆

ローランやヴァンガーデレンと並び、総合はもう諦めた方がいいんじゃないかと思われていたウランが、第5・第9でともに大健闘。総合4位。総合表彰台すら狙える位置にいる。しかもステージ勝利まで獲得してしまって、戦前の期待感が低めなチームだっただけに高評価。

あとはローランが1勝できるか。タランスキーもステージに切り替えて積極的な走りを期待したい。 

 

 

クイックステップ・フロアーズ ★★★★★

「マルセル史上最強」。彼自身が語ったとされる言葉通りの結果となっている。本人にとってツール初の5勝。近年グランツールで5勝もしているのはデゲンコルブのブエルタくらいか。まだスプリントステージは残っており、どこまで記録を伸ばすか、計り知れない。

原因の1つはライバルの不在か。サガン、カヴ、デマールといったキッテルに対抗しうるスプリンターが戦線を離れ、グライペル、クリストフ、デゲンコルブも不調に苦しんでいる。マシューズも勢いはいいが届かず、フルーネヴェーヘンも位置取りはよいが結果に繋がらない。

もう1つの要因は、トレインがほとんど機能していない今大会、キッテルが積極的に試みている「俯瞰型スプリント」という戦術。この名称と詳細はサイバナさんのところで書かれているのでそちらを参考に。サバティーニの役割についても書かれており目から鱗。

また総合に関しても、マーティンも登りアシストがほぼいないにも関わらず総合6位と健闘。なんとかベスト10は維持したい。

そして実は一番目立っているんじゃないかと思うのがジュリアン・ヴェルモト。同じルーラーのバウアーがラスト10kmの機関車役を任されているため、スプリントステージの道中牽引をほぼ一手に引き受ける。濃い面子揃いの中でヴェルモトだけやや知名度が低いように感じていたが、こういう役回りは目立たずとも重要であるということを実感させてくれた。これは今回のツールの、スタートからゴールまで全て見せるという放送形態だからこそよくわかった、というのもあるだろう。ありがとうJsportsさん。テルプストラとか連れてきてこの役回りは難しいもんねぇ・・・。

 

 

オリカ・スコット ★★★☆☆

チャベスの不調は織り込み済み。ブエルタで本気出す。もしかしたら第2週・第3週でステージを狙ってくるかもしれないね。ただクロイツィゲルが落ちるのは早くない? イェーツさんのためにもうちょっと頑張ってほしいとは思う。

そんなイェーツは、ドーフィネのときの不安をよそに、ここまでは安定した良い走り。モン=ドゥ=シャでもトップライダーたちにはついていけなかったものの、メインチェスにも差をつけることができた。メインチェスはTTも速くないし、大崩れしなければ新人賞は固いだろう。

 

 

モビスター・チーム ★★☆☆☆

初日のバルベルデリタイアに加え、第9ステージではヘスス・エラダも落車。リタイアこそ免れたものの、影響は必至。休息日明けは大丈夫? アマドールもジロ疲れが残っているのか芳しくない様子。トーマスリタイア後も層の厚いスカイとの間に大きな差ができてしまった印象。

そして大将キンタナ自体が、第5・第9ともに大失速。だからこそ、今後の反撃には期待したい。総合2位以下はもはやキンタナにとっても価値無し。第13ステージなどで、コンタドールあたりと組んで奇襲攻撃を仕掛けられるか。

 

 

ロットNLユンボ ★★★☆☆

第8ステージでは勝利目前までいったヘーシンクも、第9ステージでリタイア。だがベネットがカリフォルニアに続く健闘を見せ、総合TOP10をキープすることも可能かもしれない。あとは3週間もつかどうか。

グリッチェも、当初期待されていた総合エースとしての走りは難しいが、第9ステージでの走りを見るにつけ、山岳での逃げ切り勝利などは期待したい。また、マルセイユのITTは、彼が優勝したバスク1周のITTにも似ているので、勝利が十分に期待できそうだ。

フルーネヴェーヘンは悪くない走りではあるのだが、今シーズン全体を通して、今一歩、勝利に届かない。パワーがまだ足りないか。今後に期待。

 

 

UAEチーム・エミレーツ ★★☆☆☆

インチェスのモン=デュ=シャでの早めの失速に、新人賞が危うくなりつつある。とはいえまだ2分。イェーツが今後崩れればすぐに手中に収められる位置ではある。ここからの安定感がメインチェスの強みだん。

逃げ勝利も狙えるチーム。ラエンゲンが平坦だけでなく山でも強い走りを見せた。第8ステージのウリッシも悪くない状態。ロデスの登りゴールも含め、今後も勝利できるステージは多そうだ。

そんな中、積極的な選手の1人であるモーリを失ったのは残念。落車した選手のあんなに生々しい声を聞くのも珍しい。

 

 

トレック・セガフレード ★★☆☆☆

コンタドールの失速は残念だが、早い段階でここまで落ちることができたのは、まだ良かったかもしれない。今後はモレマ、パンタノと一緒にステージ狙いにフォーカスしてみては? 今なら逃げに乗っても多少は許されるのではないだろうか。そのためにももっとタイムを失ってしまうのもありかもしれない。

デゲンコルブも思っていたよりはいい走りをできているが、それでも勝つのはやはり難しそう。

 

 

BMCレーシング ★★★☆☆

ポートは今年も、フルームに匹敵する走りを見せてくれた。だが、ドーフィネで下りが弱点であったことを、気にし過ぎたのだろうか。結果、急いてしまったのか。今回の結果が、今後の彼のダウンヒルにも暗い影を落とす可能性すらある。怪我の具合とは別に、今後に響く落車だったように思う。

今後はカルーゾの総合20位以内のキープと、GVAを始めとする強力なアタッカーたちによるステージ優勝狙いにシフト。そうなると十分に強いのがこのチームだ。2015年以降、勝利のないグランツールは1度しかない。

 

 

ボーラ・ハンスグローエ ★★★☆☆

ペテルの失格に続き、マイカのリタイアと不運が続く。ユライも平坦ステージでは大活躍していて良いグランツールデビューになったかと思っていたが、第9ステージであえなく足切り。今後もグランツール出してくれるのだろうか。マイカがアシストを拒否してまで先を行かせたブッフマンも、モン=デュ=シャを前にして早期脱落。今後はなんとか総合TOP10圏内を目指したいところ。新人賞は難しそうだ。

こうなったからにはどんどん逃げに乗り、ステージ優勝を目指してほしい。ブルグハートなど。ゼーリッヒも第7ステージで9位に入るなど、勝てはせずともスプリントで上位に来ることはできそうだ。 

と思ったら第11ステージでボドナールが大健闘。あともうちょっとだった。今後のステージでも期待したいところ。

 

 

フォルテュネオ・オスカロ ★★★☆☆

開幕直前のスポンサーを巡るゴタゴタにもめげず連日逃げに選手をのせるなど健闘中。フェイユもギリギリ総合20位以内をキープしているが果たして。明日以降山岳での逃げも再び期待したいところ。

マクレーは今のところ、昨年ほどの存在感は示せず。せめて2位に。

 

 

チーム・サンウェブ ★★★★★

マシューズのポイント賞、そしてバルギルの山岳賞に向けてかなり良い形が作れた第9ステージだった。チームの力によるところも大きく、ジロ、ハンマーシリーズに続き、今年は飛躍の年であるなぁ。テンダム様様。テンダム大明神。あまり名前でイジるでない。

バルギルがここまで走れるとは予想外だった。もちろん、ラヴニール覇者なので、素質は十分過ぎたのだが。総合へのプレッシャーに負けずこれだけ伸び伸びとした走りができているのも、サンウェブというチームの雰囲気あってのものなのかもしれない。もちろん今後の山岳でもこの走りが持続するかはわからないが、超級山岳の決して多くない今大会で、60ポイントものリードは簡単は揺るがないだろう。

キッテルがあまりに勝ちすぎているため、マシューズのポイント賞は厳しいかもしれない。すべては、山岳での動き次第。それでも、足りるか・・・?

 

 

ワンティ・グループゴベール ★★★☆☆

ツール初出場となるこのチームの目的は2つ。1つは毎日逃げること。2つ目は、マルタンの総合上位だ。前者はここまでまあ、悪くはない。今後どれだけリタイアを出さずに頑張り続けられるか。マルタンに関してはせめて20位以内には入りたいところ。今後は逃げにものってジャンプアップを図らなければならないだろう。

 

 

ディレクトエネルジー ★★★★☆

コカールの不出場は残念だったが、カルメジャーヌが見事1勝。ほかのグランツールと違い、プロコンが勝利することすら珍しいツールでの勝利は格別だ。

シャヴァネルヴォクレールもまだまだ動く気満々な気がするので楽しみたい。

 

 

コフィディス ★☆☆☆☆

ブアニが大人しい。相変わらず手は出ているようだが。例年以上に勝てる気がしない。若くしてピークが過ぎたように感じるのはキンタナ同様。

逃げも、例年のコフィディスと比べると積極さに欠けている気がする。ここ2年と違ってブアニのためのアシストで集団内にいる必要があるのかもしれないが・・・ナバーロとかマテとか、山岳逃げ専門家は明日からもっと頑張らないとね。

 

 

バーレーンメリダ ★★☆☆☆

もしかして結局、エースは一度も映らずにおわった? コルブレッリも頑張っているがさすがに勝てる気はしない。逃げも目立てていない。ジロでは予想以上に頑張ってくれたが、エース格が軒並みそちらに出たせいかツールでは存在感無し。早くもブエルタに頼みか。

新城がスプリントのセカンドオプションっぽいのでちょっと期待してしまう。

 

 

ロット・スーダル ★★☆☆☆

ゴリラ元気ない。不調なの? シャンゼリゼでは今年も勝てると信じたいが。

今回のツールは大量にアタッカーを連れてきており、実際ベノートも含め山での存在感は示されている。が、勝てない。まあこれからだと思う。特にデヘントは、周りが疲れ始めてからが本領発揮のはずだ。

 

 

ディメンションデータ ★★☆☆☆

カヴェンディッシュは病み上がりなのに結構いいスプリントを見せてくれていた。少なくともクリストフやデゲンコルブよりも状態は良い。と思っていたのに残念な結果に。

しかしボアッソンハーゲンも凄かった。キッテルにも喰らいつく走り。登りスプリントステージはまだあるのでそういうところで期待したい。

逃げ屋カミングスは今のところなりを潜めている。中央山塊あたりで来そうだ。

 

 

カチューシャ・アルペシン ★☆☆☆☆

山でも平坦でもいいところなし。ブエルタに期待。

来年はツァペルの時代? それとも新しいスプリンター連れてくる?

 

 

FDJ ★★★☆☆

デマールの1勝は十分に大きかった。とはいえ、第9ステージであれだけリタイアさせたのは判断ミスなのは間違いない。チモライも十分に強いのに、グアルニエーリもコノヴァロヴァスもいないので可哀そう。第11ステージでもアシスト1人しかいなかったね。その割には頑張ったけれど。

ピノは山岳賞すら脱落。無理せずステージって言っていればよかったのに。後半のステージでの勝利を期待しているよ。アシストはいないけどさ。

ツール・ド・フランス2017 第8ステージ

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「天才」カルメジャーヌが、ツール初挑戦にして、いきなりの勝利を掴んだ。昨年ブエルタと並ぶ、いやそれ以上の勝利

過酷なアタック合戦の末に出来上がった逃げ集団に乗り込み、1級山岳を含む残り17kmを独りで走り切った。ラスト5kmを過ぎた時点で足を攣るアクシデントも乗り越え、大先輩ヴォクレールばりの「舌ベロベロ」を見せながら、今大会2度目のフランス人勝利をもたらしたのだ。

 

 

リリアン・カルメジャーヌは1992年生まれ。今年25歳となる世代だ。

この世代は、「黄金世代」と呼ばれる90年生まれに匹敵する才能が揃っている。たとえばジュリアン・アラフィリップ。ボブ・ユンゲルス。そしてイェーツ兄弟。その他フォルモロやブッフマン、スプリンターでもコカールやマクレーなどである。

23歳24歳でトップライダーに躍り出る選手の多かった90年世代と比べるとやはり見劣りするとはいえ、確実に「次の時代」の中心となる世代である。

 

そんな中、カルメジャーヌは意外にも、そのデビューが遅い選手ではあった。

イェーツ兄弟やアラフィリップが、3年前の2014年にはもうワールドツアーチームでデビューしていたのと比べると、カルメジャーヌのデビューは昨年。しかも、プロコンチネンタルチームであるディレクトエネルジーで、である。

 

デビュー直後の彼は、よくアレクシー・グジャールの名前を出していた。彼より1つ年下で、彼のデビューの前年に、ブエルタ・ア・エスパーニャで逃げ切り勝利を果たした選手である。「彼にできるなら僕にだって」。そんな言葉を、ディレクトエネルジーでの初戦にあたるグランプリ・シクリスト・マルセイエーズでのインタビューで語っていた*1

 

だが、そんな彼が、その年にいきなりブエルタで1勝し、さらに今年、ツールでも勝利を手に入れた。

それだけじゃない。エトワール・ド・ベセージュ、コッピ・エ・バルタリ、シクリスト・サルテでそれぞれ総合優勝。さらに昨年に続き出場したパリ~ニースで山岳賞も獲得。

グジャールがブエルタ勝利の翌年から、イマイチ結果を出し切れていないのとは対照的に、カルメジャーヌは確実に、その成績を伸ばし続けている。

それは、デビュー初年から積極的にワールドツアーレースに出場させつつも、1クラスの地元レースにもエース待遇で出場させ、勝利させ自信をつけさせていく、というチームの教育方針の賜物でもあるだろう。

 

ローランが去り、ヴォクレールが引退し、コカールもまた去ろうとするチームにおいて、新たなエースとして相応しい実力をもった選手だと言えるだろう。

 

 

 

 

そんな彼が、将来どんな選手になると予想できるだろうか。

おそらく、多くのフランス人が期待するのは、ツールで総合表彰台を狙えるような選手であるだろう。たとえば、ピノや、バルデのような。チームとしては、ピエール・ローランの後継者といったところか。

 

だが、果たして本当に、そういう選手を目指すことが、正解と言えるだろうか。

前述したように、同じ世代にはすでにアラフィリップという、総合を狙える才能がいる。ユンゲルスやイェーツ兄弟といったライバルも多い。

何より——こんなことを言うのは失礼かもしれないが——チーム自体が、ツールで総合上位を狙えるほどのアシストを用意できるだろうか。おそらくは昔と比べてずっとチーム力が重要になってきている近年のツールで、クイックステップやオリカといった資金力も人材も揃っているチームに、個の力で対応できるほど甘くはない。

ローランの近年における不振も、決して彼だけの責任ではなかったと思うのだ。

 

 

それよりは、その勝負の仕方に関しても、「ヴォクレールの後継者」であってほしい、という思いがある。すなわち、タイミングを見つけて飛び出し、逃げ切り勝利や、山岳賞を積極的に狙っていくスタイル。ヴォクレールでなければ、昨年までのマイカだったり、デヘントだったりのタイプである。

 

実際、総合を狙える走りをする選手と、タイミングを見つけて攻撃を繰り出すことを得意とする選手とでは、タイプが異なっているように感じる。たとえば今日のレースで3位に入ったマルタンなんかの方が、総合上位に入る力に関して言えば高いような気もする。

 

 

もちろん、まだまだ彼の才能を規定する必要も道理もない。

これからの走りを見ながら、彼自身と彼の周りの人々が考えていくことである。

 

それでも、個人的な思いとしては、彼があまり総合成績などのプレッシャーに押しつぶされることがなく、自由気ままに、思いのままに、本能のままに山岳を駆け抜け、飄々と勝利を掴んでいく姿をいつまでも見続けていたい。

 

ヴォクレールが去るツールから、そのヴォクレールの魂を受け継ぐ走りを魅せてくれる選手が生まれたことに、深い感謝の気持ちを抱きつつ。

ディレクトエネルジーでのデビュー戦にあたるグランプリ・シクリスト・マルセイエーズにて、優勝のヴォクレールと共に表彰台に並ぶカルメジャーヌ(右)。

ツール・ド・フランス2017 第6ステージ

キッテル強い!!

 

 

その勝利のポイントは、放送中に宮澤さんが解説していた通り。

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まず、残り272mの段階で、メインのスプリンターたちよりも後方で待機するキッテル。

これだけ見れば、彼は勝負に絡めない位置に取り残された、と判されてしまいそうだ。

 

だが、戦後のインタビューでの彼の言葉によると、このとき彼は冷静に、目の前の状況を見て、右側から進むことが決して楽な道ではない、という判断を下した。

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だから彼は進路を左に転換。そのまま、誰もいない道を突っ切る。

 

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残り100mの段階でグライペル、デマールと並ぶが、このときの時速はグライペル54km/h、デマール65km/hに対してキッテルは70km/h。

 

あとは完全な力の勝負。後続から一気に追い上げたそのスピードとパワーで、真正面からライバルたちを圧倒した。

もちろんこの勝ち方は、自分の走りに相当の自信がなければなしえない。何しろ、誰もいない道を進むということは、空気抵抗をすべて自分で引き受けなければならないのだから。

それでも、自ら後方に待機することで周りに警戒されることもなく、冷静に進むべき道を判断できたのは、非常にクレバーである。ただ力強いだけではない。

 

 

宮澤さんも言っていたように、第2ステージも似たような勝ち方だった。

サバティーニなどの最強の発射台役が最高のポジションまで運び、最速で一点突破する、という方法ではない勝ち方だ。

もしかしたら、今までのやり方では簡単にマークされてしまう、という思いから、この戦略に切り替えたのかもしれない。

サガンとかも参考にしたらいいのではないか(笑) まあサガンも後ろから突っ込むことはあるけれど、たいていギリギリで間に合わないんだよね・・・そこを間に合ってしまうキッテルの強さと勝負勘はさすがとしか言いようがない。

 

 

 

 

そしてこの日は、デマールの動きに対しての非難がまた高まった日でもある。

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さきほどと同じ場面だが、ゴール前191mの段階で、コース右端の狭いところを抜けている。カチューシャの選手(おそらくツァペルか?)の脇を直前ですりぬけたことで、この選手が抗議の手を挙げてもいる。

 

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直後の場面では、今度はスウィフトの右横をすり抜けている。

正面からの映像だとわかるが、このときやや、肩でスウィフトを押す仕草もしている。

 

 

 

 

非難轟々である。

 

まず第一に、デマールの動き自体は、スプリントバトルでは決して珍しくない動きである。それこそ、ジロのガヴィリアも近い動きはしていた(そのときよりも、確かにデマールの狙った隙間は厳しかったような気はするが・・・)。

 

だが一方で、彼の動きは落車を誘発しうる動きであったことは確かで、第4ステージでのサガンのレース除外の理由が(実際にカヴやデゲンコルブらの落車に繋がったから、という結果ではなく)行為そのものにあるのだとしたら、今回のデマールの動きもまた、レース除外となっても仕方ないものだったとは思う。

 

公平を期すなら、サガンとデマールは同等の行為をしたのであり、それに対するUCI側の裁定も同等であるべきだ、という意見には同意する。

 

 

一方で、デマールの動きは、勝利を目指すスプリンターとしては自然な動きだったと思う。もちろん、その意味でカヴェンディッシュの動きも。

少なくとも、進路妨害の意図をもって行う「斜行」とは、少し性質を異にするものだと思う。

 

確かに、こういう動きを行わない方が危険が減るのも確かだと思うし、そういうものが禁止される/なくなっていく方向が、より良いのかもしれない。

だが本当にそうなのだろうか?という思いは抱かなくもない。危険を承知の上で、白熱したスプリントを見たいという無責任な欲望もまた自分の中にはある。

結論はまだ、出せていない。

 

 

しかし、そういったアクロバティックな走りを見せたデマールに対し、キッテルはその力を見せつけて叩き伏せた。

これにはもう、文句のつけようがない。今日のレースはひたすら、キッテルがヒーローであった。

 

 

ちなみに、今日のレースの終盤における各選手の最高速度を比べると、実はキッテルよりもデマールの方が速かった、というデータが出ているようだ。

 残り500mというと、デマールが前の方にポジションを上げようとしたときである。

 

逆に言うとこのとき、彼はそのポテンシャルを使い切ってしまったようだ。そして、自ら隘路へと突っ込んでいってしまった。

キッテルはそこを冷静に、力を貯めた状態で後ろから突っ込んでいったのだ。

 

やはりクレバーな勝ちかただった。

 

と同時に、デマールも、やりようによってはキッテルを圧倒できるかもしれないんだから頑張れ、とは思う。

 

 

なんとかFDJのアシストが、ここまでデマールを引っ張っていければよかったのだが・・・ドーフィネ第2ステージの勝利は、まさにグアルニエーリの牽引が活きた形だった(そのときはグアルニエーリがボアッソンハーゲンとの押し合いを経てラインを作った)。

 

アシストの力という意味では、今日はカチューシャが最も強かったな、と思う。

ツール・ド・フランス2017 第5ステージ

今年最初の本格的な山岳コース。

とはいえ、昨年ツールの第5ステージや今年ジロの第4ステージのように、序盤の難関山岳ステージというのは、結局はそこまで総合勢の争いは起きない——そんな風に思っていた。が、この第5ステージは違った。はっきりとした差が生まれてしまった。

 

さすが、ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ。5年前ツールでウィギンスにマイヨ・ジョーヌをもたらし、3年前ツールで総合優勝者ニバリに勝利を与えたステージである。

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レースは、8人の逃げが形成されたところから始まった。トマ・ヴォクレールフィリップ・ジルベールトーマス・デヘントなどを含んだ逃げ。しかし、今日のようなステージで逃げ切りを決めるのは難しい。最終盤はジルベールとヤン・バークランツが飛び出して粘るも、ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユの登り2kmの地点で吸収された。ジルベールはこの日、誕生日。敢闘賞も獲得し、今年の絶好調ぶりを見せつけた。

ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ山頂で、元チームメートのダミアーノ・カルーゾに健闘を讃えられるジルベール

 

ここまで連日逃げてきたワンティが今日、逃げに乗せられなかったのは残念。代わってフォルテュネオ・オスカロが、ワンティと同じ3回目となる逃げを輩出。それも、第3ステージでも逃げたピエールリュック・ペリコンである。

 

 

メイン集団ではBMCレーシングが強烈に牽引。初日TT2位、スイスTTチャンピオンのステファン・クーン、同じくスイス人で強力なルーラーであるミヒャエル・シャーなどを擁するBMCは、平坦力が非常に強いチーム。だが、この時点でこれだけ頑張って、本当に山では大丈夫なのか、という意見も多く聞かれた。実際、その不安は的中する。

彼らの頑張りによって、タイム差を2~3分差を保つことができたのは間違いない。だが結果として、マイヨ・ジョーヌを保持するチーム・スカイをサポートする形になってしまったのも確かな気がする・・・。 

 

 

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 さて、残り6km地点から始まる、最後の1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ。平均勾配8.5%。序盤からいきなり13%の激坂区間が始まる。

 

山の麓に辿り着いたプロトンは、チーム・スカイがヴァシル・キリエンカを先頭にしてアクセルを踏む。平坦をBMCが担当してくれていたおかげで、スカイは平坦役も含めて体力が十分に残っている。逆にBMCは、このあたりからバラバラと離れていく。

 

キリエンカは1kmほど仕事をして、本格的な登りに到達した段階で、先頭はクフャトコフスキに交代する。その結果、まずは山岳賞ジャージを着ていたネイサン・ブラウン、さらにはロベルト・ヘーシンク、ワレン・バルギルなどが遅れていく。残り5kmの段階で、ティボー・ピノも遅れ始めた。

このあたりの選手は、今年はステージ優勝を目指す形になるか。

 

残り3.5kmの地点で、トニー・ギャロパン、ピエール・ローラン、ギョーム・マルタンが遅れ始める。クロイツィゲル、マティアス・フランクもここで脱落。

 

 

残り3.1km。ここでクフャトコフスキ脱落。およそ2.5kmにわたって牽引し続け、多くのエース級、トップアシストたちを引き千切った走りを見せつけた。

昨年は不調に苦しみ、ツールでフルームを支えるという役割を果たせなかった彼は、今年こそはフルームを支えたいと常々語っていた。その思いを、しっかりとした働きとして見せることのできた日だったと言える。

先頭はミケル・ニエベにバトンタッチ。直後、バウケ・モレマとジョージ・ベネットが遅れる。

 

残り2.5km。マイヨ・ブランを着るピエール・ラトゥールが遅れていく。

その直後、集団からファビオ・アルがアタック。集団先頭のニエベも追走を仕掛けるが、追い付かない。

残り1.9kmでサイモン・イェーツが飛び出し、これに合わせてスカイはゲラント・トーマスを先頭において追走を仕掛ける。

 

そして残り1.7km。

プロトンで最初に決定的な攻撃を仕掛けたのはクリス・フルーム。イェーツ、フールサン、コンタドール、キンタナはこれに喰らいつけない。

 

だが、フルームの攻撃は破壊力こそあったものの、持続力はかつての彼ほどのものではない。フルーム自身も、ポートらのカウンターを警戒し、牽制を入れた部分はあるものの、かつての彼は牽制など入れずとも自らの力で牽き倒していたことを考えると、いまだその力は完全には戻っていない印象を受ける。

 

 

牽制の結果、アルの勝ちが確定。

5年前、27歳のフルームが、エースのウィギンスを突き放してツール初勝利を遂げた峠で、同じく27歳のアルが、一応のエースであったフールサンが脱落するのを尻目に、ツール初勝利を遂げる。

さらに言えば、かつての先輩である、ニバリが3年前に勝利をした峠でもある。苦しい1年を経て、イタリアチャンピオンジャージを引き継いだアルが、最高の勝利を天に捧げた。

 

昨年は結局イタリア人の勝利がなかったため、その意味でも偉大な勝利であったと言える。

 

 

メイン集団はどうだろうか。

牽制の結果、コンタドールたちも一度はフルームたちに追い付いた。

だが、終盤でポート、そしてマーティンがアタックしたのに合わせて活性化し、再び集団はバラバラになってしまった。

 

以下、リザルトである。総合エースを担いうる選手は黄色、アシストになるであろう選手は青、新人賞争いで重要な選手は白で表した。

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キンタナが大きく遅れる結果に。マイカもやはり厳しいか。マルタンは、この調子ならば、総合20位以内は狙っていけそうだ。

ロットNLユンボの真のエースとして予想していたログリッチェは3分以上遅れて総合争いから早くも脱落。ベネットの方が調子がいいという状態に。しかしベネットも3週間はもたないと思うんだけどなぁ・・・。

新人賞争いはイェーツが一歩リード。メインチェスも悪くないし、マイカもやはり総合上位は厳しそうなので、ブッフマンにも狙い続けてほしいところ。

 

さて、注目すべきはアシストである。まず、チーム・スカイのアシストが上位にひしめき合っているのが印象的。ニエベ、エナオ、ランダはクフャトコフスキと比べるとかなり早い段階で千切れた印象だが、そこまで遅れていないところを見るに、今日は体力を温存した、という見方もできるかもしれない。

 

より驚いたのは、ロッシュが意外と上位にいること。今日はBMC、平坦をひたすら牽いて登りでは存在感を失っていたように見えたが、ロッシュもカルーゾも、スカイと同様に温存作戦に出たのであれば、見方も変わってくる。そのうえでステージ優勝を狙うのであれば、むしろ平坦でしっかり存在感を示すことで、アリバイ作りを狙ったのだろうか?

 

ロッシュは大丈夫だろうかと不安に思っていたが、少なくとも今日の結果からは、悪くないかもしれない、と判断を変えることができそうだ。

逆にコンタドールのアシストが不安である。モレマは早々に遅れ2分差。本日まったくその姿を現さなかったパンタノは4分30秒遅れの54位である。これも、温存であればいいのだが、スイスでの状況を見るに、悲観的な想像をしてしまう。

 

それを言えばモビスターも、である。キンタナの次に上位に来ているのがベタンクールで、2分50秒遅れの42位。

バルベルデがリタイアしたことで、山岳アシスト1番手になるはずのアマドールは、10分50秒遅れの104位となった。

 

 

チーム全体の状況で言えば、フルーム、ポート、バルデ、そこにアスタナの2人が喰らいつく、そんな構造が見えてきた第5ステージである。

 

とはいえ、さすがに致命的なほどのタイム差がついたわけではないステージなので、第9ステージの状況次第で、また大きく形勢は逆転しそうである。

 

 

とりあえずアル、おめでとう!

今年こそ、大躍進の年にしてもらいたい。

ツール・ド・フランス2017 第4ステージ

207kmの平坦ロングコース。翌日が厳しいステージであることもあり、全体的にゆったりとしたレースになった。少なくともゴール前までは。

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だからと言って、たった1人での逃げになるとは、彼自身も思ってはいなかっただろう。ワンティ・グループゴベールのギョーム・ヴァンケイスブルク。昨年までは7年間FDJに所属していた26歳のベルギー人。今年の春、石畳クラシックレースであるル・サミンで優勝している。

 

集団がペースアップしていく終盤も、時速40km以上をキープし、残り16km地点まで、190kmに及ぶ長距離を単独で逃げ続けた。

当然、敢闘賞を獲得。ワンティはこれで、「毎日逃げる」という公約の達成が継続している。

 

そしてゴールが近づく中、集団の中でポジション争いが展開する。

まず、残り6km辺りから先頭を陣取り始めたのがコフィディス。それに対して、フランス語放送の実況を担当していたローラン・ジャラベール氏は「早すぎる」という評価を下していたらしい。実際、彼らはこの後、勝負所に入る直前で、ブアニを残して崩壊してしまう。

一方、この日の勝利を期待されていたマルセル・キッテル率いるクイックステップ・フロアーズは、勝負所に差し掛かろうとしている間際になっても、集団の中でバラバラ、やや後方に陣取っている、という状況であった。

 

確かに、このゴール前10kmからのポジション争いをするべきタイミング、というのは難しい。だがこの日に限って言えば、事前に現地のサッシャさんが話していたように、「残り3km地点の下りからの左カーブ」と、「残り2km地点からの2回の直角右コーナー&狭い通路」がポイントだったのだろう。

だから、残り3kmに達する直前でトレインを崩壊させてしまったコフィディスは間違いなく早すぎたし、最後に浅田さんが解説してくれたように、残り2km地点の重要なポイントでいまだに前にポジションを上げられていなかったクイックステップは、致命的に遅すぎたのだ。

 

 

そして、この点、最も最適な位置に陣取っていたのが、FDJであった。

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残り2.7km。すでにコフィディスの選手は前におらず、前方はカチューシャ、ロット・スーダル、ディメンションデータなどがトレインを形成して陣取っていた。

その中で、リトアニアチャンピオンジャージを着るコノヴァロヴァスが常に前から3~4番手を維持しつつ、先頭集団の一段後ろにアシスト2名(おそらくチモライとグアルニエーリ?)に守られる形で、デマールが控えている。

 

この位置ならば、アシストを疲弊させることもなく、そして何かがあったときに、アシストの力を借りてデマールを先頭に引き戻すことが可能になる。

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これは残り2.6km。下り終わってからの最初の難関である左カーブにおけるFDJ4名の位置。相変わらず先頭はディメンションデータが牽引するも、しっかりとアシスト2名は健在でデマールを守り、最適なポジションを確保している。

 

逆にクイックステップは、この直後、残り2kmを過ぎた地点の右カーブでのクラッシュにアシストが巻き込まれ、キッテルが一人になってしまったのだ。

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そして残り732m。早い段階から前を牽き続けていたディメンションデータのジャコ・ヴェンターはここで終了。残ったディメンションデータの選手(ボアッソンハーゲン?)の後ろにコノヴァロヴァス。そしてロット・スーダルのアシスト(ルーランツ?)とグライペル、クリストフ、ブアニ、サガンと続き、その後ろにおそらくチモライがデマールを牽引してついてきている。

 

その後はルーランツ、と思われるロット・スーダルのアシストによる強力な牽引。ここでコノヴァロヴァスもチモライも終了してしまうが、それで問題ない。

デマールは、最後に一人で加速して勝利を獲れる選手である。大事なのは、そこまでのアクシデントに対応して引き上げるだけの動きができているか、である。ドーフィネでの勝利もまさにそういう対応の仕方をグアルニエーリがしてくれたおかげで、あとはデマールの力で勝ち取ることができた。クイックステップはそれが、この日はできなかった。(おそらくはサンウェブも)

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あとは、個の力の戦いである。

残り300mを切って、ルーランツが終了。

その背後から、最も良い形で飛び出せたのが、クリストフ。

だが、今年のクリストフの調子では、300mからのスプリントでは勝つことはできない。

その意味で、デマールの飛び出すタイミングは完璧だった。

あとはサガンサガンには、敵わないような気がしていた。

 

 

だが、ここで起きてしまったのが、あのアクシデントである。

コース右端を走るサガンの右脇の狭い隙間に入り込もうとしたカヴェンディッシュが、サガンの肘を受ける形で落車してしまう。

倒れ込んだカヴェンディッシュは、その背後からデゲンコルブとスウィフトによって乗り上げられてしまい、そのときに指も大きく傷つけてしまったようだ。

レース後のサッシャさんの情報によると、「指の切断に近い怪我」を負ったらしい。病院に直行。おそらく、明日はDNSとなるだろう。

 

 

サガンはこのアクシデントにより、加速が遅れたのは否めない。

結果、デマールがクリストフを抜き去り先着。ツールで11年ぶりとなる、フランス人スプリンターによる勝利となった。

 

まずはデマール、おめでとう。その勝利は、チームメートの力とチームの戦略、そしてデマール自身の力の全てが嚙み合って得られた勝利であった。

今年のFDJスプリンターチームの実力は間違いなくトップクラス。今大会、2勝以上挙げることも十分可能なように思える。

 

 

ただ、先のアクシデントと、さらにゴール2km手前での、マイヨ・ジョーヌも巻き込んだ集団落車など、後味の悪い結果になってしまった。

 

今日は、移動ステージで平穏な日に終わるはずだった。

しかしあまりに平穏過ぎたために、各スプリンターチームのトレインが数と力を残しており、狭く曲がりくねったコースの中で大量のスプリンターとアシストが密集した結果、2度の落車を呼び寄せてしまったのだ。

 

スプリントに最適な日が、大きな落車を伴うことは珍しいことではない。

だからこそ、こういったステージで勝つための可能性を広げるためには、今回のFDJのような戦術が必要になったのだ。

 

ちなみに、この落車を必然として含むスプリントステージに対し、コースの悪さを指摘するのはなかなか難しいように思う。

たしかに、低クラスのレースの中には、ゴール300m手前に直角カーブがあるなど明らかに悪いレイアウトもあったりはするが、今回がそこまでひどいレイアウトだったとは思えない。

ゴール前数kmをひたすら直線にするだけであれば、ロードレースである意味も薄らいでしまう。

もっと重要なことは密度を減らすことであり、その意味で、来年の1チーム人数上限を下げることは、正しい方向への改革だと思う。

 

 

なお、結果としてカヴェンディッシュに肘を当ててしまったサガンには、2着による30ポイントの取り消しと、ペナルティとしての50ポイントのマイナスが与えられ、合計80ポイントの減点を受けることになったらしい。

これで、この日ポイント賞ジャージを着ることになったデマールの124ポイントに対し、サガンは15ポイントの23位にまで転落してしまうことに。

かなり厳しい処分だとは思うが、果たして。

 

 

少なくともサガンの、ゴール直後に謝罪に向かった姿勢は適切なものだったと思う。

気を取り直し、改めて勝利を掴みに行ってほしい。

 

すべてひっくるめてレースである。

これはガードレールのない坂道を時速80kmで下るような危険なスポーツであり、そこに全力をぶつける彼らの獣のような闘争心をこそ、我々は楽しんで観ている。

それを忘れるつもりはない。

 

 

※追記※

サガン、失格が決定されました。

サガンの行為自体は、危険を指摘されながらも何度も繰り返されてきた斜行・肩によるプレッシャー・頭突きと比べて「極めて悪質」とは判断しづらいものと思われる。

となれば、カヴェンディッシュを落車させ、後続のデゲンコルブ・スウィフトの落車にも繋がった、という「結果」に対する処罰であったように思う。

 

なれば、今回のサガンのこの結末は、「運が悪かった」と結論づけるしかない。ロンドの落車や、ルーベのパンクや、2年前のモトカメラに轢かれたことと同様に、ね。

 

 

ちなみに「そもそもデマールやブアニの斜行が悪いんやで。サガンにばかりペナルティ与えてフランス人にお咎めなしはどうなの。所詮フランス人は斜行とかしないと勝てないの?」的なコメントもあったりしてちょっと(;_;) なので、一応擁護的なことをば・・・デマール、味方少なそうなので(笑)

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まずゴール前290mのこの時点。先頭からルーランツ、グライペル、並んでクリストフ、その後ろにブアニ、サガン、デマール、カヴェンディッシュと続いている。

この時点でデマールはサガンの後ろにいるので、斜め前に進行方向を取ることによって進路を確保しようとする。

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ちょっと暗くて見づらいが、ここでデマールはサガンの横に並んでいる。たとえばこの行為を、カヴェンディッシュに対する「斜行」とみなすことは難しいだろう。ちなみに、この時点で先頭も含め全体的にコース右側に詰まってきていることに注意。

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サガンカヴェンディッシュ接触直前のこの場面。ここがいわゆる「斜行」とみなされる場面なんだろうが、やはりこれも、目の前のブアニを避けて右から通過しようとしているだけ、とみなすことができる。必然性がない、後続を邪魔しようとして行う斜行とは区別されるべきだろう。昨年パリ~ニースのブアニとかのね。

ちなみに、じゃあこれはブアニが斜行したからデマールもこう動かざるを得なかったのか、というとそれも違うと思う。ブアニも目の前のグライペルを右から抜いて進むうえで必然的な進路であった。そもそも無罪とされてしまいそうなクリストフの一にも注目。序盤と比べると明らかに右側に移動してきている。必然性が少ないといえばこちらの方がより・・・ではないか? コースが全体的に左カーブであれば仕方ないとは思うが。

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木で隠れて見えないが、黄色の丸で示されている場所にデマールがいる。

完全にサガンたちの進路が塞がれているのがわかる。しかし、ここまでの流れから、デマールがこの位置にいるのは必然である。元はサガンの後ろにいたデマールが、自らの足でポジション取りをした結果である。

しかし元々コースの左側にいた集団がなんでこう右端によるかな(笑)

デマールはここでクリストフに次ぐ位置にまできたが、クリストフの右側にも、もはやスペースは残っていない。

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ので、デマールが選んだ道は、「クリストフの右側から無理に行く」ではなく、クリストフとブアニの間の隙間を縫って前に進む、というやり方である。

スプリンターが勝負するときによくやる行為である。これも、ブアニらに対する斜行としてみなす?

 

 

スプリンターたちがゴール前、危険な動きをすること自体はもはや当たり前の行為となっている。それはジロのガヴィリアも同様だ。何事も起きなければ賞賛されて、何か酷い事態が起きれば非難される?

じゃあそもそも危険のないよう規制しよう、とすれば、そこには一体何が残るのだろう。「ゴールから500m手前からは、進路を変えることは許されない」とか? いやそうなったら、その手前の位置取り争いがより危険になるだけで、何も変わらないだろう。

 

とりあえず、今回の一連の流れで、誰かを犯人に仕立て上げるのは難しいと思われる。誰か正しいとも言えない。クリストフの動きだって十分「原因」である。

 

だから自分は、今回のサガンは「運が悪かった」と思っている。UCIの裁定を信じるなら、今回のサガンが特別に重い判決を下されたのであれば、それはそういう結果を招いた不運にこそ原因がある。こんな言い方はカヴェンディッシュファンや巻き込まれたデゲンコルブ・スウィフトのファンにも大変失礼かもしれないが、ただただ今回は「運が悪かった」のである。サガンの行為にも、デマールの行為にも、カヴェンディッシュの行為にも、行為自体には非はない。UCIはそういう判決を下したのだ。

 

 

誰かに石を投げて誰かを守るようなことは、極力避けていきたいものだ。

ツール・ド・フランス2017 第3ステージ

前日のゴール地点リエージュを出発し、ルクセンブルクを経由してフランスのルクセンブルク国境沿いの街ロンウィに到達する212.5kmのロングステージ。

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アルデンヌ・クラシックの舞台も近く、非常にアップダウンの激しいコースプロフィールとなっている。

こういったステージのお約束として、逃げも人数が多め。

最初に飛び出したのはニルス・ポリッツ(カチューシャ・アルペシン)、ロマン・シカール(ディレクトエネルジー)、ネイサン・ブラウン(キャノンデール・ドラパック)、フレデリック・バッカールト(ワンティ・グループゴベール)、ロマン・アルディ(フォルテュネオ・オスカロ)、そしてアダム・ハンセン(ロット・スーダル)の6名。

さらに残り60kmを過ぎた頃に、プロトンから追加の3名が飛び出す。リリアン・カルメジャーヌ(ディレクトエネルジー)、ピエールリュック・ペリコン(フォルテュネオ・オスカロ)、そしてトーマス・デヘント(ロット・スーダル)。

 

実力で言えばデヘントが頭一つ抜けているような印象もあったが、残り22kmの、カテゴリのない登り区間。平均勾配5%くらいあるのかな?そんな区間をおそらく時速40km以上のハイスピードでカルメジャーヌが牽引し、これについていけなかったデヘントとアルディが遅れていく。

その後、最後に残ったペリコンも突き放して、カルメジャーヌはたった1人で、残り10km地点まで逃げ続け、敢闘賞を獲得した。

昨年ブエルタで1勝し、今年既に区間3勝、総合優勝3勝と、パリ~ニース山岳賞を獲得している24歳の若き才能である。

このツールでヴォクレールが引退し、コカールもチームを離れるとのことだが、ディレクトエネルジーにおける新たな時代のエースとして、今後の活躍が期待できる。

 

 

ちなみに山岳賞は、途中の3級山岳の先頭通過を果たしたネイサン・ブラウンが、チームメートのタイラー・フィニーから受け継ぐ形で獲得。

25歳のアメリカ人クライマー。独走力も高くオールラウンダーの素質もあり、昨年のジロは総合48位と悪くない、こちらも有望な選手の1人である。

 

 

さて、今日のフィニッシュ地点は注目の登りスプリント。

途中勾配11%の激坂部分もあり、登れるスプリンターが有利なのか、それともフレッシュ・ワロンヌなどを制するクライマー・パンチャー系が有利なのか・・・判断が難しいレイアウトとなった。

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残り2kmを過ぎて登りに入ったとき、最初に主導権を握ったのは優勝候補ヴァンアーヴェルマートを含んだBMC。

しかし、ヴァンアーヴェルマートはかなり早い段階で先頭に出て、むしろエースのリッチー・ポートをアシストする役回りに。たしかに、ポートが得意とするウィランガ・ヒルのように、短くて厳しい登りであることは間違いない。

事実、ポートが途中、飛び出すシーンも見られたが、これにすかさず飛びついたのが・・・コンタドールか? その後ろにおそらくマイカ、そしてサガンが続いた。

残り360mを切ったところで、サガンが先頭に。予定以上に早く前に出てしまったらしいサガンはここで、後ろを振り返りながら様子見。

ヴァンアーヴェルマートが加速したのを見て再びペダルを踏みこもうとするが、そこでなんとクリートが外れる!

 

だがそのあとのサガンも冷静だった。1秒も立たずクリートを嵌めなおし、再び加速。

後方から猛烈な勢いで追い上げを見せたダン・マーティン、そしてマイケル・マシューズに追い抜かれることなく、そのまま勝利を掴んだのである。 

サガン・キラー」ヴァンアーヴェルマートも、ポートのアシストという仕事もこなさなくてはならなかった今日は、さすがに勝ち目が薄かったようだ。

2年前にサガンを倒したロデズの登りゴール(第14ステージ)で、リベンジを果たしたいところ。

 

 

いやあ、やっぱり強い、サガン

常に我々の想像を超える勝ち方をしてくれる。今年は果たして、何勝するのか。