りんぐすらいど

ロードレース関連の記事が中心。https://twitter.com/SuzuTamaki

今後のUCIルール変更点まとめ

イギリスの老舗自転車情報サイト『Cycling Weekly』で「2019年シーズンを前に知っておくべき11のUCIルール・レギュレーション変更点」と題した記事が掲載されていたので紹介・解説をしておく。

www.cyclingweekly.com

 

こんなタイトルだが変更点の中にはおそらく2020年以降の内容だろうと思われるものも多いため注意が必要。

また、私の拙い英語力に基づく理解のため、不正確・不適切な部分があればご指摘頂きたく。

また、以下記事内容は@roadtoeurope氏から頂いた情報も参考にしており、この場を借りて感謝申し上げたい。もちろん、内容に関する責任は私が背負うものとなる。

 

  

 

1.選手のユニフォームに関するルールの厳格化

 こちらの記事も参考にされたし。

bikenewsmag.com

 

新しいレギュレーションによると、選手のユニフォームは選手の「形」を変えることは許されず、選手の身体の「保護」「安全」以外のあらゆる目的を持つことを禁止する、と明記されるらしい。これは2019年からの変更。

具体的には上記の記事でも触れられている通り、「ユニフォームの表面の凹凸の高低差は1㎜以下」というルールが追加されるとのこと。

 

これはチーム・スカイの「マージナルゲイン」の考え方と、それによって生じる「不公平」に対する対抗策であろう、と考えられている。

 

賛否両論ありそうなルール改定ではあるが、今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネのチームTTでも見られたような、選手自体の身体能力とは異なった要素で圧倒的な差がつけられてしまう可能性が真に存在するのであれば、そこは調整が必要なのかな、と感じないことはない。

もちろんそれはユニフォームだけでなく、バイク、タイヤなど他機材にも言えることではあるし、どこまでという加減は難しい話である。

なお、ロット・スーダルが使用した「ジェル」については既に禁止されている。

 

 

2.チームプレゼンテーション

レースの前に行われるチームプレゼンテーション。これを、新しいルール下ではレース日の前(ステージレースの場合は初日の前)に開催することが可能になった、とのこと。

このあたり、よく知らないのだけど、むしろ今までは禁止だったの? グランツールに関しては完全に初日以前に行っているけれど、あれは例外だったのかしら。

 

他にも変更点はあって、

  • チームプレゼンテーションには全選手およびスポーツディレクターの参加が義務付けられた。
  • チームプレゼンテーションの時間は最大で1時間とする。

 

記事中でも、後者のルール変更は選手の練習時間や夕食の時間を妨げられないようにする適切な変更点であると評価されている。

 

 

3.第2、第3の区分

ここがイマイチよく分からない内容で、とりあえず原文を以下に貼っておく。

the UCI is also making changes to the three division system, currently made up of WorldTour, Pro Continental and Continental.

Instead from 2019, the second and third divisions will be renamed – pro continental will become the UCI ProSeries division, while continental will become the UCI Continental Circuits division.

UCIはまた、現在『ワールドツアー』『プロコンチネンタル』および『コンチネンタル』と分けられているシステムを変革する。

 2019年より、このうちの2番目と3番目の区分の名称を変更する。すなわち、プロコンチネンタルをUCIプロシリーズに。そしてコンチネンタルをUCIコンチネンタルサーキットに」

 

これだけ読めば、2019年から

  • 現行のプロコンチネンタルチーム ⇒「UCIプロシリーズ」チーム
  • 現行のコンチネンタルチーム ⇒「UCIコンチネンタルサーキット」チーム

 

という名称の変更があるかのように読めてしまう。

しかし、9月末にこれに関するUCIルール改定案の報道があり、以下の記事でも解説されている。

bikenewsmag.com

 

この中では「UCIプロシリーズ」というのはあくまでもレース群の名称であって、チームの名称ではないとされている。

 

また、以下の記事では次のように述べられている。

inrng.com

UCIプロフェッショナルコンチネンタルチームは『UCIプロチーム』に改称される。これは(レース群の名称としての)『UCIプロシリーズ』と対応する形で良い名称とは言えそうだが、同時に混乱も招きかねない。たとえばミッチェルトン・スコットとコフィディスは共にプロのチームだが、新制度下ではコフィディスのみが(名称としては)『プロチーム』となるのだ。プロコンチネンタルチームというのは奇妙な名前ではあったが、それが独特であるという点で有用だった。新制度の名称では、事情をよく知らない人たちにとっては混乱を招く結果を生むだろう・・・」

 

この記事ではプロコンチネンタルチームの名称変更は「UCIプロチーム」となるらしい。しかし記事中でも述べられているように、これはかなり混乱を招きそう・・・昔のUCIの制度もなんか似たような名前だったよね??

そしてその場合、現行のコンチネンタルチームはどうなる? また、この名称の開始時期は、Cycling Newsの元記事ではあくまでも2019年となっているが、それはその、現実的ではないよね・・・?

 

この3番の変更点については現状、謎が深まるばかり。

誰か詳しい人、解説をお願いしたい。

 

こっちも参考に。

 

 

4.補給

2019年より、スタート直後の補給禁止エリアが、現行の50kmから30kmに短縮されるらしい?

実は現行のルールについても良く知らなかったりするので、この解釈が正しいかは若干自信がない。どうでしょう。

また、ラスト20kmでの補給禁止ルールは現行のまま維持とのこと。

(これも賛否あるルールだよね)

 

新しいルール変更(多分)として、

  • スプリントポイント、山岳賞ポイント、補給エリアの1km手前からは補給禁止
  • 山岳賞が設定された登りの山頂での補給は禁止

 

特に後者は割と当たり前の風景として見られたものだったので、この変更は各チームの戦略の変更などにも影響が出そう。

とくに下りは食べ物の消化に良いという話を聞いたこともあるので、絶好の補給ポイントだったんだけどなぁ。

 

この辺りは選手の安全第一ということと、過去にもあったような「補給の隙をついてのアタック」などを防ぐ目的というのもあるのかもしれない。

 

 

5.チームタイムトライアル

こちらも、以下の記事を参考にするとよろし。

bikenewsmag.com

<blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">UCIから次年度以降の世界選チームタイムトライアルの開催概要について正式発表。各国のエリート及びU23カテゴリーから男女それぞれ3名の選手を選出し、国対抗の男女混合チームタイムトライアルレースとする。詳細は以下のリンク参照。 <a href="https://t.co/3zUMvMRLJC">https://t.co/3zUMvMRLJC</a></p>&mdash; ルッカ Yoco (@Lucca196) <a href="https://twitter.com/Lucca196/status/1045011378916847616?ref_src=twsrc%5Etfw">September 26, 2018</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script> <blockquote class="twitter-tweet"><p lang="ja" dir="ltr">UCIから次年度以降の世界選チームタイムトライアルの開催概要について正式発表。各国のエリート及びU23カテゴリーから男女それぞれ3名の選手を選出し、国対抗の男女混合チームタイムトライアルレースとする。詳細は以下のリンク参照。 <a href="https://t.co/3zUMvMRLJC">https://t.co/3zUMvMRLJC</a></p>&mdash; ルッカ Yoco (@Lucca196) <a href="https://twitter.com/Lucca196/status/1045011378916847616?ref_src=twsrc%5Etfw">September 26, 2018</a></blockquote> <script async src="https://platform.twitter.com/widgets.js" charset="utf-8"></script>

 

まあ大体上記のリンクで語りつくされているけれど、改めてまとめると以下の形に。

  • 新しい形式のチームTTでは、男女それぞれ最低2名から最大6名まで、合計で最大12名まで選出し競技を行う。
  • 世界選手権においては国別で男子3名・女子3名の計6名でチームを組んで競技を行う。

 

近年の女子レース地位向上と合わせる形で非常に面白い試みだとは思う。

しかし、うまくいくかどうかはわからない。身体能力も文化も違う男女ロードレーサーチームTTというある意味危険な競技を一緒に行うことに、複数のリスクが生じる可能性はある。また、練習とかってどうするの?的な・・・

 

この後に言及する女子レースの活性化プロジェクトが軌道に乗ってからでもこういう改革はいい気がするんだけどなーと思わなくはない。上記リンク先のUCIのツイートに対しても批判的なコメントが・・・。

 

 

6.ワールドランキング

2019年より新しい世界ランキングシステムを採用するとのこと。

第1に、個人ランキングに関してはワンデーレース用とステージレース用とに分割するとのこと。

これはなかなか、功罪ありそうな勇気ある変革である・・・確かにこの2つをごっちゃにすることの弊害はあったものの、果たしてそこを分けることで「世界一のロードレース選手」を表現することができるのか?

 

またチームランキングは各チームメンバーの個人ランキングにおける上位10名の点数を合計したもので競うのだとか。

これまでのルールってどんなだっけ? あまり違和感のない内容である。

 

上記の「個人ランキング」「チームランキング」に加えて「国別ランキング」、この3つが新ランキングシステムの3本柱になるとのこと。

また個人ランキングは3つの分類(ワールドツアー/プロシリーズ/コンチネンタルサーキット??)をまたぐ形となり、現行でよく参照されるような「ワールドツアーランキング」に当たるものはなくなる・・・ということだろうか。

 

 

7.クラシックにおけるワールドツアーポイント

これは非常に明確な変更である。以下の2つ。

  1. 5大モニュメントのワールドツアーポイントを現行の500から600に。
  2. ストラーデビアンケのワールドツアーポイントを現行の300から400に。

 

特に疑問を挟む余地もない変更である。

 

 

8.UCIへの重大な侵害を犯したレース主催者に対して

なんかUCIの強い情念を感じるルール改定である・・・。

 

UCIへの「重大な侵害(serious infringement)」を犯したレース主催者に対し、「罰金」「カレンダーからのレース除外」「レースのランクの降格」などの処罰が行われるとのこと。

では何が「重大な侵害」に当たるかというと、「倫理規定違反」「管理期限の超過(failure to meet administrative deadlines)」「チームに対しレース参加費を要求し徴収すること」などが含まれるという。

 

 

9.女子ワールドツアー

現行では「UCI女子チーム」として46ものチームが同じカテゴリに属している女子ロードレース事情。所属選手数も8名から19名とその差がかなり大きい。

その現状を改革するために、女子ロードレースでも「ワールドツアー」ライセンスを発行していこうよ、というのがこの改革の趣旨。

ただしいきなり男子と同じ形に、というのは難しいので、2020年段階ではまず5チームに発行予定なんだとか。

そして各ワールドツアークラスのレース主催者に対しては、2019年~2021年は合計で15チームの招待を義務付け、2022年からは、「全ワールドツアーチーム」を招待することを義務づける(=男子と同じ体制にする)のを目標としているらしい。

 

 

10.チーム規模

これは男子の話だけど、現行のワールドツアーチームの裁定人数が23名のところを、今後は27名~30名のいずれかにしよう、という案らしい。

この曖昧さから言っても、この話もおそらく(早くて)2020年からだろう。

一方で現行の18チーム体制を、最終的には15チームほどにまで削減したいというのがUCI(ラパルティアン)の意向。

とはいえ、別記事では向こう3年間は18チームを維持するという話も出ているので、こちらに関しては2020年からでさえないかもしれない。

UCIプロシリーズ」の話とも絡んできそうな話である。

 

 

11.グランツールワイルドカード

3で触れた話ともかなり関わっている話で、そのときに挙げたリンク先でも言及されている。かなり大きな改革である。

とりあえず原文を引用する。

the two best UCI ProSeries teams will automatically be given the chance to ride in the three-week races.

The three best ProSeries teams will also have the right to take part in the UCI Classics Series and other WorldTour events.

 

先にも述べた「UCIプロシリーズ」がレース群の名称であるとすれば、そのレース群で「上位2組」に入ったチームは自動的にグランツールでの出場権を得られ、「上位3組」に入ったチームは「UCIクラシックシリーズ」やその他のワールドツアークラスのレースへの出場権を得られる、という内容である。

 

気になるのは上記の「UCIプロシリーズ『チーム』」という表記。もちろん、「UCIプロシリーズで上位2組の『チーム』は」という意味にも取れるのだけれど、結局この名称はチームに与えられた名称なのかレース群に与えられた名称なのか・・・。

 

どのグランツールにどう出場権が割り振られるのかなど細かなところがかなり気になる内容ではあるが、そのあたりはこれから明確になる部分が大きいのだろう。

他記事でも言及されている通り、この制度は2020年以降に適用される様子。

 

グランツールワイルドカードに関しては不透明な部分も多く、今年のアクアブルー・スポート解散のきっかけの1つにもなっている。

その辺りのルールの明確化を図れるのであれば、この改革自体は悪くないと思う。あとは変な混乱がないようにしてくれれば・・・。

 

 

と、いうことで Cycling News の記事に基づいて今後のUCIルール変更点をまとめてみた。

不明確な部分も多く申し訳ないが、様々な媒体で発表されるルール変更点を1つにまとめた記事というのは貴重な気がするので、活用して頂きたい。

そのうえで不明確・不正確な部分の修正・確認は随時行っていくべきだと思うので、気になる部分があればぜひご指摘のほどお願い申し上げる。 

ジャパンカップ・サイクルロードレース2018 プレビュー

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来る10月20日・21日の土日に宇都宮で開催される、日本最大の自転車レース「ジャパンカップサイクルロードレース」。 アジアツアーHCクラス、世界各国からトップレーサーの集まるこの大会のレイアウト&注目選手をプレビューしていく。

 

 

 

185mを一気に駆け上がる古賀志林道の登り

ジャパンカップ最大の見所は、何と言っても獲得標高185mの古賀志林道を駆け上るレイアウト。

合計14周するため、総獲得標高は2600m近くに達する。

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http://www.japancup.gr.jp/2018/roadrace-course

 

特にスタート地点から1km~2kmの地点は一気に100m近くを登る激坂区間となっており、毎年この登りでアタック合戦が勝敗を分ける重要なポイントとなっている(冒頭画像)。

古賀志林道の頂上からゴールまでは約8km。

テクニカルな下りを含むそのレイアウトは、まるでミラノ~サンレモやイル・ロンバルディアにも似て、登りの力・下りのテクニック・最後の平坦を逃げ切る独走力・そして小集団で勝ち抜くスプリント力の全てを必要とするバランスの取れたコースレイアウトとなっている。

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過去の優勝者を見てみても、やはりクライマー/パンチャー向きのワンデーレースでの勝利が多い実力者たちが名を連ねている。

 

たとえば2008年の覇者ダミアーノ・クネゴや2010年の覇者ダニエル・マーティンジロ・ディ・ロンバルディア(現イル・ロンバルディア)を制しているし、2015年の覇者バウケ・モレマは同じくクライマー向けのワンデーレースの最高峰クラシカ・サンセバスティアンで優勝している。

それ以外の優勝者に関しても、ロンバルディア前哨戦の1つジロ・デッレミリアで勝っていたり、あるいはグランツールの山岳ステージ優勝者・山岳賞ジャージ獲得者だったりと、世界で通用する登坂力・勝負強さがジャパンカップでも求められていることがよく分かる。

 

それらのデータを踏まえ、以下では今年のジャパンカップで活躍が期待される注目選手を数名、ピックアップしていきたい。

 

 

注目選手① ロベルト・ヘーシンク(チーム・ロットNLユンボ)

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元々予定していたジョージ・ベネットの代わりに出場。

しかし実績で言えば今大会、最もずば抜けた選手である。何しろ、過去5回のグランツール総合TOP10入りを果たし、ツール・ド・フランスでは最高で総合4位にまで登りつめている。

過去のジャパンカップ優勝者とも相性の良い「ジロ・デッレミリア」でも2度勝ち、パンチャー向けワンデーレースの最高峰「グランプリ・シクリスト・ドゥ・ケベック」および「モンレアル」でも優勝している。ジャパンカップ向きの脚質であることは間違いない。

 

つい先日行われたイル・ロンバルディアでもエースのプリモシュ・ログリッチェのための最終発射台を務めるなど調子は万端。逆に、そこから1週間で遠いアジアの地まで移動するという過密スケジュールによる疲れは不安要素でもある。

 

チームメートには昨年4位のアントワン・トルホーク、そして昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ山岳賞のクーン・ボウマンなど、若手の期待株も揃っている。

 

 

注目選手② ジョン・デゲンコルブ(トレック・セガフレード)

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さいたまクリテリウムでの優勝経験もあり、日本人からも愛されるスプリンター。

ミラノ~サンレモやパリ~ルーベなど、ビッグレースでの優勝経験もある。

2年前の事故以来、かつてのような成績をなかなか出せずにいたものの、今年のツール・ド・フランスではパリ~ルーベばりの石畳ステージで優勝するなど、その調子を徐々に取り戻しつつある。

 

本来、ジャパンカップのレイアウトは彼のようなスプリンターには適さない。しかし、昨年マルコ・カノーラが勝った大雨のコンディションのようなカオスが演出される展開においては—―あるいは、非常にスローペースで古賀志林道の登りでのサバイバルな展開が抑えられたときには――「登れるスプリンター」にも数えられる彼の足であれば十分に先頭集団に残ることができるだろう。

 

あるいは、もしも最後の古賀志林道の登りで逃げ集団を前方に許してしまっていたときは・・・我らが別府史之が全力でデゲンコルブを牽引し、先頭集団に追い付かせるという!熱い!展開が!  ・・・見れたらいいなぁ。

 

チームメートでは同じくスプリンターに属する脚質を持ちながらも、ブエルタ・ア・エスパーニャの山頂ゴールで上位フィニッシュするという謎の登坂力をも併せ持つファビオ・フェリーネも今大会とは相性バッチリ。彼の調子が最近あまり良くないことだけが気になる。

 

 

注目選手③ タデイ・ポガチャル(リュブリャナ・グスト・ザウラム)

弱冠20歳。

しかし今年のツール・ド・ラヴニール覇者ということで、注目を集める期待の新星である。来年はワールドツアーチームのUAEチーム・エミレーツへの移籍が決まっている。

 

ラヴニールでのステージ優勝はない。

しかし、山頂フィニッシュでは今年のブエルタ・ア・ブルゴス総合優勝のイヴァン・ラミーロ・ソーサら実力者たちについていく登坂力を見せ、終盤ではリーダージャージを着ながらメイン集団を単独で抜け出してライバルたちに大差をつけてゴールする思い切りの良さを見せつけた。

未知数ゆえに、突然の覚醒を見せ、シーズン終盤の疲れが溜まったベテランライダーたちを出し抜く驚きの走りを披露してくれるかもしれない。

いずれにせよ、ラヴニール覇者というダイヤモンドの原石を間近で見られるチャンスはまたとない。若手有望株好きのファンは彼を見るためだけにジャパンカップに来ても損はないだろう。

 

 

注目選手④ 雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)

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昨年3位。あの雨のコンディションの中、粘りの走りを見せてくれた。

過去にも、畑中勇介が、新城幸也が、3位表彰台に登る走りを見せてくれてはいる。

しかし、1位の座は、1997年の阿部良之以来、一度たりとも日本人の手にはもたらされていない。

今年こそは・・・という思いは多くのファンの胸に秘められた思いであるのは間違いない。

そんな中、この雨澤はわずか22歳という年齢で3位に喰い込んだ。そして今年、つい先日行われたばかりのUCIレース「大分アーバンクラシック」でも3位に入る調子の良さを見せている。ツアー・オブ・ジャパン京都ステージでの優勝も記憶に新しい。

 

雨澤は基本的にはスプリンターであって、昨年のようなカオスな展開でなければ勝ち目が薄いのは確か。そこは、チームメートで今年のツアー・オブ・ジャパン山岳賞の鈴木譲や、同じく若手トリオを形成する岡&小野寺のアシストに期待したいところ。

 

 

注目選手⑤ 山本元喜(キナンサイクリングチーム)

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昨年のジロ・ディタリアを完走し、そして今年、ついに日本最強の座を手に入れた男。

全日本選手権優勝の立役者であった新城雄大ツアー・オブ・ジャパン総合優勝者マルコス・ガルシアも共に連れてきており、かなり本気の布陣で今大会に挑む。

直前のJプロツアー最終戦「南魚沼ロードレース」でも、序盤から積極的に逃げに乗り、激坂をものともしない走りを見せており非常に好調である。

 

 

注目選手⑥ サイモン・ゲランス(BMCレーシングチーム)

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まさかこの男が引退なんて——なかなか信じられない気持ちでいっぱいである。

ツアー・ダウンアンダー総合優勝が4回。グランプリ・シクリスト・ドゥ・ケベック優勝が2回。モンレアル優勝が1回。

それ以外にもミラノ~サンレモ、リエージュ~バストーニュ~リエージュなど、およそパンチャー向きのレースのほぼ全てを平らげているパンチャーの中のパンチャー。キング・オブ・パンチャーである。

ゆえに、ジャパンカップのコースレイアウトとの相性は最高に良い。ここ最近の調子はすこぶる悪いが、そんなことすべて吹き飛ばしてしまうような走りを期待している。

 

だってこれが最後なんだから。彼の走りを見られるのは。

その機会を日本で、目の前で見せてくれる彼の心意気が憎い。

 

本来、オーストラリア人は1月にピークを持ってくる関係で10月は調子がどん底にあることも多い。しかし、引退を控えた彼にその法則は適用されないだろう。

プロ生活最後の勝利をこのジャパンカップで見せてくれ。

 

なお、クリテリウムでの最有力候補でもある。デゲンコルブとサイモン・ゲランスが並んでスプリントをかますクリテリウムとか、最高以外の何ものでもない。

・・・今年はクリテリウムは現地で見ない予定だったけれど、これはやはり行くしかないのでは・・・?

 

 

 

以上、6名の注目選手を概観してみたものの、もちろんこれ以外にも見るべき選手は数多い。

とくに、シーズン終盤ということもあり、実績のあるベテランではなく、意外な若手選手が活躍する可能性も十分にある。そして、そんな選手が、来年以降のワールドツアーレースで活躍する可能性すらあるのだ。2年前の覇者ダヴィデ・ヴィレッラのように。

 

いずれにせよ、最高のコースに、今年も数多くのトップレーサーと、未来の才能たちが集まってきている。

今年もジャパンカップ、必見である。

「ダブルツール」達成! エリア・ヴィヴィアーニ2018の軌跡

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ブエルタ・ア・エスパーニャ第21ステージ。

マドリード周回コースで競い合う恒例のスプリントステージで、エリア・ヴィヴィアーニは今大会3勝目を記録した。

途中、ナセル・ブアニに勝利を奪われた場面もあったものの、それ以外の平坦集団スプリントとなったステージ全ての勝利を手に入れた。

 

ジロ・ディタリアでも4勝しており、今シーズンは出場した2つのグランツールでいずれも「最多勝利」を達成。

2つのグランツール両方で「最強スプリンター」であることを証明したわけである。

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その意味で、ヴィヴィアーニは今年、「ダブルツール」を達成したことになる。

同年に2つのグランツールで「最多勝利数」を記録する、スプリンター版「ダブルツール」。

過去11年のグランツールを紐解いてみると、2008年~2012年の5年間で4回、マーク・カヴェンディッシュが「ダブルツール」を達成している。

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そして今年は、実に6年ぶりとなる「ダブルツール」を、ヴィヴィアーニが達成。

今年29歳となるイタリア人が新たな時代の扉を開いた。

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グランツールの勝利だけではない。

今年はイタリア国内選手権やユーロアイズ・クラシックなどのワンデーレース、デパンヌ3日間のようなクラシックレース、そしてドバイ・ツアーでの総合優勝など、これまでと比べても幅広い活躍を見せている。

今年の勝利数は18*1

これは、彼の9年間のプロ生活の中で最高の数字となっている。

 

 

いかにして今年のヴィヴィアーニはこれほどの勝利を積み重ねたのか。

その要因、そして彼の前に立ちはだかった困難とそれを乗り越えた方法とを振り返りつつ、今年のヴィヴィアーニの走りの「軌跡」を見ていこう。

 

 

 

 

2018年以前のヴィヴィアーニ

2010年にリクイガス・ドイモでプロデビューを果たしたヴィヴィアーニは、5年間をイタリアのワールドツアーチームで過ごす。

その後、当時すでに最強チームの一角として名を馳せていたチーム・スカイに加入。スカイとしても、2012年に在籍していたマーク・カヴェンディッシュのようなエーススプリンターの存在を欲していたこともあるだろう(あるいはイタリア市場へのアピールか)。

移籍1年目に早速ジロ・ディタリアに出場し、念願のステージ優勝。

チームにとってもヴィヴィアーニにとっても、Win-Winな関係を築くことができたシーズンであった。

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しかし、翌2016年のジロでは1勝もできないままに序盤でタイムアウト失格。

シーズン後半はリオ・オリンピックのトラック種目に集中したこともあり、金メダルは獲得したものの、ロードレースでの成績自体は年間2勝と思わしくないものだった。

 

そして、ロードに集中すると宣言した2017年の前半も、相変わらずの2位続き*2

この状況をスカイの首脳陣がどう判断したのかは不明だが、最終的に彼にもたらされた結論は、「2017年のジロ・ディタリアに出場させない」という事実。

ヴィヴィアーニもその決定を「理解できる」と告げた*3

 

しかしそれでもイタリア人として、オリンピック金メダリストの栄光を手に、母国最大のレースの第100回記念大会に出場するという2度とは訪れない最大のチャンスを失ったことは、彼に大きな決断を促すに十分な理由となったのだろう。

 

スカイとの間の契約を1年残したまま、新たな環境――クイックステップ・フロアーズに移籍するという決断を。

 

 

最強アシストの存在

2018年シーズンは、スプリンターたちにとって戦国時代の様相を呈していた。

シーズン緒戦となるツアー・ダウンアンダーではサガングライペル、ユワン、そしてヴィヴィアーニ。

カデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースではジェイ・マッカーシー

2月のドバイ・ツアーではフルーネヴェーヘン、カヴェンディッシュも勝者としてその名を連ねていった。

そして前年まで敵なしの走りを見せていたマルセル・キッテルの絶不調。

もはや、スプリンターの誰が勝つのか、予想のまったくできない状況が続いていた。

 

そんな中、ダウンアンダー1勝、ドバイ・ツアーでステージ2勝と総合優勝、そしてアブダビ・ツアーでも1勝と、他のスプリンターたちと比較しても頭一つ抜け出た成績を残すことができたのがヴィヴィアーニだった。

昨年の同時期、ひたすら2位続きだったのとは、対照的な成績だ。

 

そんな彼の勝利を支えたのが、クイックステップ・フロアーズというチームの力であった。

その中でも特に、ファビオ・サバティーニという最強アシストの存在は、ヴィヴィアーニの勝利に大きな役割を果たした。

suzutamaki.hatenablog.com

 

サバティーニは1985年生まれ。今年33歳のイタリア人スプリンターである。

最初はミルラム、続いてヴィヴィアーニも在籍したリクイガス(キャノンデール)に所属。アレッサンドロ・ペタッキサガン、そしてヴィヴィアーニのリードアウト役を務めてきたベテランの「発射台」である。

 

そんな彼が2015年、在籍していたチームを失ってフリーになったところを、オメガファルマ・クイックステップ(現クイックステップ・フロアーズ)のパトリック・ルフェーブルGMが迎え入れた。

このとき、同チームのエーススプリンターであったマーク・カヴェンディッシュの強い要望があったようである*4

 

翌2016年にカヴェンディッシュはチームを去るが、代わって最強のドイツ人スプリンター、マルセル・キッテルがメンバー入りを果たした。

たちまちサバティーニはキッテルにも気に入られ、彼の勝利の多くを支え、そして今年、チームを去ることを決めたキッテルは、サバティーニに声をかけた。

共にチームを移籍することを。

 

しかし、サバティーニは残留を選んだ。

彼は、かつてのチームメートであるヴィヴィアーニがクイックステップ入りすることを知り、彼を支えることを選んだのだ*5

 

かくしてヴィヴィアーニは最強アシストを手に入れた。

 

 

プレッシャーとの闘い

最強のチームを手に入れたことはヴィヴィアーニにとっては僥倖ではあったが、一方で彼は大きなプレッシャー背負うこととなった。

1月~2月と好調のシーズンを過ごしていく中で、そのプレッシャーは日増しに大きくなっていったことだろう。

そして3月のヘント~ウェヴェルヘム。

直前のデパンヌ3日間では危なげなく勝利し、好調のヴィヴィアーニとクイックステップ・フロアーズ。

石畳の激坂ケンメルベルクなど、ピュアスプリンターには決して優しくはないコースをチームメートたちに助けられながら、ヴィヴィアーニは23名の先頭集団の一員としてフィニッシュを迎えることができた。

先頭集団にはジルベール、スティバール、ランパールトの3名のアシストが含まれており、万全の態勢で最後の勝負に挑むことができた。

 

 

ヴィヴィアーニはここで選択のミスをした。

彼はマッテオ・トレンティンとアルノー・デマールに照準を絞り、彼らの後輪を捉えることにした。

最終的にヴィヴィアーニはデマールの背後から飛び出し、これを軽々抜き去って先頭に躍り出ることができた。

・・・左方よりサガンが恐ろしい勢いで抜け出てくることさえなければ。 

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ゴールの瞬間、悔しさに何度もハンドルを叩きつけるヴィヴィアーニ。

さらに、彼はゴール後に座り込み、涙を流した。 

 

ジルベール、イヴ、スティバールがどれだけ前を引っ張って僕のポジションを守ってくれていたか。ニキがレース全体を通してどれだけ僕を守ってくれていたか。僕は結果に対する責任を持っていた。なのに、僕は敗北した・・・彼ら完璧な仕事を果たしてくれたのに。後悔は何もない。ただ悲しみだけが押し寄せてくる*6

 

最高の仕事をしてくれる仲間たちに支えられているからこそ、ヴィヴィアーニは大きな責任と重圧を背負うこととなった。

その結果が敗北であれば、たとえ2位という十分に大きな結果であっても、彼はこれまでに感じたことのないような深い失望に襲われることになるのである。

 

 

そんな彼が挑む、2年ぶりのジロ・ディタリアは、それこそ想像を絶するプレッシャーとの闘いであっただろう。

このジロ・ディタリアは、プレッシャーの要因となる要素が少なくとも3つあった。

 

  • チームは総合リーダーを置くことなく、ヴィヴィアーニのスプリントに全力を注ぐ体制を準備した。
  • 昨年はガビリアがステージ4勝+マリア・チクラミーノ(ポイント賞)を獲得している。
  • キッテル、サガングライペル、フルーネヴェーヘン、ユワンといった一流スプリンターたちがジロを回避し、ヴィヴィアーニにとっては「勝って当たり前」という空気が存在していた。

 

しかし、彼はこのプレッシャーを跳ね除けた。 

最初のスプリントステージとなった第2ステージで、見事先頭を取って勝利したヴィヴィアーニは、インタビューに対して次のように答えた。

 

「出走前のインタビューで、僕は落ち着いていると答えていたが、あれは嘘だった。でもこれだけ早く勝利を得ることができて、プレッシャーの8割をなくすことができた*7

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その言葉通り、以降は伸び伸びとした走りで3つの勝利を掴み取り、合計4勝。

マリア・チクラミーノ(ポイント賞)も獲得し、チーム内の若きライバルに対して自らがまったく遅れをとっていないことをチームにも証明した。

 

 

進化するヴィヴィアーニの走り

以後のヴィヴィアーニの躍進は、誰にも止められない勢いだった。

6月イタリア国内選手権ロードレースでは、ゴール前の登りでアタックしたジョヴァンニ・ヴィスコンティの後輪を捉えて離さず、そのままゴール前のスプリントを制してナショナルジャージを手に入れた。

3位はポッツォヴィーヴォ、4位はサンタロミータ。どう考えてもピュアスプリンターが勝てるようなレイアウトではなかったレースで、これまでにない走りを見せたヴィヴィアーニが初めての栄光を掴み取った。

 

イクラシック・ハンブルクでは2年連続となる勝利。

そして6年ぶりの出場となったブエルタ・ア・エスパーニャでは再び彼のためのチームを用意してもらい、見事にステージ3勝。

とくに最後のマドリードの勝利は、ゴールに至る道でチームメートを失い、ブアニに敗れた第6ステージと似たような展開に陥ったものの、このときの彼は冷静に状況を判断し、サガンの後輪にしっかりと飛び乗った。

 

そして、これを抜き去っての勝利。

まるで、ヘント~ウェヴェルヘムのリベンジのような鮮やかな勝利であった。

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ヴィヴィアーニ自身、「今までで最高のシーズンだった」と振り返る2018年。

しかし一方で、彼は次のようにも述べている。

 

「今年は最高のシーズンだった。けど、来年以降も、これ以上の成績を出していかなければならない*8

 

 

気になるのは、ツール・ド・フランスにおけるエースの座。

今年はヴィヴィアーニがジロを優先し、昨年目覚ましい活躍を見せたガビリアがキッテルの代わりにツールに出場することとなった。

しかし、今年のガビリアは正直、思うような結果を出せずに終わった。シーズン序盤は怪我で苦しみ、ツールも2勝したもののそれはマクシミリアーノ・リチェセという天才的なアシストの賜物だったとも言える。

suzutamaki.hatenablog.com

 

そしてガビリアはアルプスの厳しい山岳を前にしてリタイアを喫することにもなった。

この調子が来年も続くようであれば、ヴィヴィアーニがツールのエースの座を獲得したとしても不思議ではなさそうだ。

 

 

その他にも、彼が今年「取り損ねた」栄光はまだまだある。

たとえばミラノ~サンレモ。あるいは今年は敗れたヘント~ウェヴェルヘムなど・・・。そのときこそ彼は、カヴェンディッシュにも並ぶ「最強スプリンター」となることだろう。

 

2019年も、その圧倒的な走りを見せてくれるか。

楽しみにしているぞ、ヴィヴィアーニ。

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2018シーズン 9月主要レース振り返り

ブエルタ・ア・エスパーニャから始まり、世界選手権で終わったこの9月。

大きな2大レースに挟まれて、カナダで行われたワールドツアーワンデーレース2連戦、あるいはフルームとトーマスも出場したツアー・オブ・ブリテンなど、細かなレースでも注目すべきレースは十分にあった9月。

いよいよシーズンも終盤。これまでにない顔ぶれの活躍も見られ、面白さはより加速しつつあるロードレースシーズンを振り返り!

  

 

 

ブエルタ・ア・エスパーニャ(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:スペイン

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サイモン・イェーツがジロ・ディタリアで悔しい思いを経験したとき、私は別のところで書いた記事で、「トム・デュムランも似たような経験をしたのちに今の地位に辿り着いた。きっとサイモンもまた、リベンジを果たせるときが来るはず」というようなことを書いた。

しかし、まさか同年にそれを果たしてしまうとは! その執念、勢いには脱帽以外のものがない。

彼以外にも、総合2位のエンリク・マス、総合3位のミゲルアンヘル・ロペス、そしてまさかのステージ勝利を記録したオスカル・ロドリゲスなど、例年にも増して若手が大活躍してみせたブエルタだったように思う。

今大会における若手選手の活躍については、以下の記事に詳しく書いている。

suzutamaki.hatenablog.com

あとはエリア・ヴィヴィアーニがステージ3勝を挙げ、ジロに続く、年間2つのグランツールにおける「最多勝利者」となった。これはすなわち、スプリンターにおける「ダブルツール」と形容しても良い。近年でダブルツールを達成しているスプリンターといえばマーク・カヴェンディッシュくらいだが、今年ついにヴィヴィアーニはこの伝説のスプリンターと同じレベルにまで達したのだ。来年はガビリアがクイックステップ・フロアーズを去るという話も少し出ており、ツールにおけるエースは、彼が掴む可能性は非常に高そうだ。

ほかにもベンジャミン・キング、マイケル・ウッズなど、死力を尽くした走りで栄光を掴んだ中堅選手たちの活躍にも感動を覚える、「最も面白いグランツール」という評判に恥じない3週間だったと言える。

そしてティボー・ピノ。目標を明確に据えた走りで堂々たるステージ2勝。やっぱり君は、魅せてくれる男だ。

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ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー

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100年以上の歴史をもつベルギーの伝統的ワンデーレース。セミ・クラシックとも呼ばれる。昔はパリ~ブリュッセルと呼ばれていた。

13に及ぶ登りが用意されてはいるものの、いずれも短く、また最後の登りがゴールまで25km残した地点にあるため、スプリンターたちによる集団スプリントでの決着が多い。過去にもボーネングライペル、フルーネヴェーヘン、デマールなど、ブエルタへの出場を断念したピュアスプリンターたちがその名を連ねている。

元ベルギーチャンピオンのオリバー・ナーゼン(AG2R)を含む6名の逃げが生まれ、のちにレミ・カヴァニャ(クイックステップ・フロアーズ)らも合流し、先頭は最終的に8名に。ラスト25kmの最後の登りでカヴァニャが抜け出そうとする姿も見せたものの、ゴールまで10kmを残した時点ですべての逃げは吸収されてしまった。

 

ディフェンディングチャンピオンのアルノー・デマールを擁するグルパマFDJと、今期絶好調のアッカーマンを擁するボーラ・ハンスグローエとが互いに競り合う形で最終スプリントに。

ラスト250mで早駆けを仕掛けたロレンツォ・マンザン(ヴィタルコンセプト)の後ろにアッカーマンがつくと、その背後でクラッシュが発生。デマールはこれによって足止めを受け、逆にアッカーマンは万全の態勢で抜け出した。

スタイフェンが喰らいつこうともがくが、影も踏ませぬままアッカーマンが突き抜けた。圧倒的な勝利だった。彼にとっては初となる、ベルギーでの勝利だった。

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グランプリ・ド・フルミー(1.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:フランス

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前日のブリュッセル・サイクリング・クラシックに続き、ベルギー国境沿いにある北フランスを舞台にしたワンデーレース。こちらは今年で90周年を迎える、やはり伝統的なセミ・クラシックレースである。

過去にはナセル・ブアニやマルセル・キッテルなどが勝者に名を連ねている。

グルパマFDJのダヴィ・ゴデュやニッポ・ヴィーニファンティーニのマルコ・カノーラなど、集団スプリントに持ち込みたくないアタッカーたちが次々と攻撃を仕掛けるも、クイックステップ・フロアーズやボーラ・ハンスグローエが支配する集団がその全てを飲み込んでいく。

最後のストレートを先頭で入ってきたのはグルパマFDJ。その番手を巡ってラポートとアッカーマンが争うが、ポジションの死守に成功したアッカーマンが定石どおりにデマールの背後から抜き去って勝利。前日はデマールがアクシデントで足止めをされた中での勝利だったが、今回はこのフランス最強のスプリンターに真っ向から挑んだ結果の勝利ということで、アッカーマンの底知れなさを改めて思い知らされた。

 

これにて、ベルギー・北フランスでの連戦を共にこの24歳のドイツ人が制することに。この両日を制した選手は過去に1名だけ。スプリンターの代名詞たるロビー・マキュアン会長である。その名に並ぶ、偉大なる成績だ。

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アッカーマンはプロ2年目だが、プロ勝利は今年から。その今年でいきなりの8勝。しかも、その中にワールドツアークラスでの勝利が5つ。他の追随を許さない急成長ぶりである。

 

【参考】アッカーマンの今年の勝利レース一覧

  • ツール・ド・ロマンディ(2.WT) 第5ステージ
  • クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(2.WT) 第2ステージ
  • ドイツ国内選手権ロードレース
  • ライドロンドン・サリークラシック(1.WT)
  • ツール・ド・ポローニュ(2.WT) 第1ステージ
  • ツール・ド・ポローニュ(2.WT) 第2ステージ
  • ブリュッセル・サイクリング・クラシック(1.HC)
  • グランプリ・ド・フルミー(1.HC)

 

 

ツアー・オブ・ブリテン(2.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:イギリス

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イギリス最大・最古のステージレース。イギリスという土地柄、険しい山岳地帯は存在せず、例年、ブエルタ・ア・エスパーニャへの参加を避けたトップスプリンターたちが覇を競い合う舞台となる。だが今年はツール山岳賞のジュリアン・アラフィリップやツール総合4位のプリモシュ・ログリッチェ、そして何より、ツール総合優勝&総合3位のゲラント・トーマス&クリス・フルームという、超豪華なメンバーを迎えてのガチバトルが展開された。

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総合優勝は今期絶好調のジュリアン・アラフィリップ。しかし、彼以上にその活躍に心沸き立たせてくれたのはBMCレーシングチームのパトリック・ベヴィン。

2016年パリ~ニースのプロローグではマイケル・マシューズ、トム・デュムランに匹敵するタイムを叩き出し、当時の実況に「どちらさま系」と呼ばれた意外な存在。さらには翌年のツール・ド・スイスでは連日上位に入る走りでスプリンターとしての才能も見せつけ、今年はティレーノ~アドリアティコで一時リーダージャージを着用した。

個人TT・スプリント共に高い総合力を持った選手だったが、今回のブリテンではスプリントステージもパンチャー向けステージでも上位に連続して入り、エースナンバーをつけるステファン・クンを差し置いて2日間総合リーダージャージを着用した。

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だが、チームとして得意としているはずのチームTTで大崩れ。最終的にはアラフィリップから42秒遅れの総合4位ではあったが、もしもこのチームTTで優勝していれば、総合首位まで4秒差近くにまで迫れていたのだ。そう考えると、今回のブリテンは彼にとっては大きなチャンスであっただろう。それだけに悔しい。

 

ベヴィン以外にも、グライペルやユワンなど、今年ちょっとうまくいかない思いを過ごしてきていた選手たちが軒並み結果を出していたのは嬉しかった。逆に、ガビリアは勝てず。第1ステージではラインを取れず仕方なく残り300mから早駆けするが、その距離からのスプリントは彼にとっては必敗ライン。アシストなしでは勝てないという、今年の彼の「不調」を象徴する敗北を喫した。第8ステージも位置取りが悪かった。

 

あとは個人的にスゲー!と思ったのは第3ステージ。アラフィリップの勝利。というか、アラフィリップというか、それを500m以上牽引し続けたボブ・ユンゲルスが凄すぎる。あの位置からのユンゲルスのリードアウトはそりゃあ、反則だよね。

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今年は結構コンビを組むことの多いこの2人。彼らやイェーツが牽引する1992年世代も、90年世代に匹敵する黄金時代だ。

  

 

グランプリ・シクリスト・ド・ケベック(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:カナダ

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2010年より開催されている、カナダのフランス語圏ケベック州にて開催される周回型ワンデーレース。獲得標高は3000m弱。2日後に開催されるグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルよりはアップダウンが抑え目ではあるが、過去の優勝者を見るとフィリップ・ジルベールやサイモン・ジェラン、ペテル・サガンなどのパンチャー系の選手が名を連ねている。昨年はサガンが2年連続の勝利となり、ファンアフェルマートが2年連続の2位を喫していた。

今年はサガンブエルタ・ア・エスパーニャに出場中のため、ファンアフェルマートにとっては絶好のチャンスとなった。

 

カナダ人3名を含む5名の逃げが決まるが、残り2周で集団から抜け出したピーター・ケノー(ボーラ・ハンスグローエ)が独走を開始。ラスト1kmのゲートを5秒以上の差をつけて超えたが、残り400mで捕まえられてしまった。

混沌とした集団スプリントで、ラスト200mから先頭に出たマシューズが、これに追いすがろうとするファンアフェルマートを突き放して勝利を掴んだ。2015年には2位、昨年は3位と、優勝候補でありながら勝ちきれずにいた彼にとっては歓喜の勝利。一方、ファンアフェルマートは3年連続4回目の2位に沈んだ。

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マシューズは今年、あまりにも辛いシーズンを過ごしていた。8月に入るまでの勝利はツール・ド・ロマンディでの個人TT(プロローグ)のみ。

8月半ばのビンクバンクツアー「ミニ・ロンド」ステージでの勝利から少しずつ調子を取り戻し、今回の勝利。このまま10歳年上の先輩サイモン・ジェランに続く、ケベックモンレアル制覇を期待したいところだが、果たして。

 

 

グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:カナダ

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2日前のケベックに続き、同じケベック州の都市モンレアル(モントリオール)で開催されるワンデーレース。1974年の世界選手権、1976年のモントリオールオリンピックで使われたのと同じコースを使用する。

ケベックに比べるとよりアップダウンが激しく、ケベック以上のパンチャー向けのレースとなっている。

 

ゴール前600mは勾配4%の登りスプリント。このようなレイアウトを得意とするマシューズ、コルブレッリ、ファンアフェルマートがほぼ同時にスプリントを開始。最も先頭からスタートできたコルブレッリがリードするものの、その番手にマシューズが入り込み、もう一段階の加速を見せた。

単純な強さだけでなく、冷静に状況を分析し、戦術を組み立てるクレバーな走りでカナダ2連戦で2連勝を果たした。

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なお、このカナダ2連戦で2日続けて上位に入り込んだティモ・ローセンにも注目すべきだ。

今年絶好調のディラン・フルーネヴェーヘンの信頼する発射台でもある彼だが、ドバイ・ツアーのハッタ・ダムステージなど、ピュアスプリンターのフルーネヴェーヘンが対応できない登り系スプリントではエースを張れる実力をもつ。

パンチャー向けのステージレース、ツール・ド・フィヨルドでも今年、総合6位の実力を見せつけている。

もちろん、発射台としても、例えば8月に行われたフェーネンダール・フェーネンダール・クラシック(1.1)ではフルーネヴェーヘンのためのラスト1kmの牽引の凄まじさが強烈な印象を残している。

チーム・ロットNLユンボにとっては、フルーネヴェーヘンのアシストとしても、単独で勝利を狙えるパンチャー/スプリンターとしても、今後の更なる成長が楽しみな選手でもある。

 

 

ツール・ド・ユーロメトロポール(1.HC)

ヨーロッパツアー HCクラス 開催国:ベルギー

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ベルギー・ワロン地方のフランス国境沿いで行われる伝統的なレース。2016年以降はワンデーレースとして開催されているが、ディラン・フルーネヴェーヘン、ダニエル・マクレーとピュアスプリンターが連勝している。

今年は雨の中、荒れた展開に。最終周回に入る直前の残り14km地点で、ベノート、ドラッカー、ナーゼン、アルノー・デマール、アレックス・キルシュ、そしてヤスペル・スタイフェンという強力な6名による逃げが生まれる。

さらにそこにペダースンがブリッジを仕掛け、チームメートのスタイフェンと共に抜け出す。スタイフェンのために積極的に前を牽くペダースン。しかし、この逃げはゴールまで届かず、吸収されてしまう。

残り2kmでベノートが強烈なアタックを見せ、勝負は決定的になってしまったかのように思えた。

だがここから、先ほどは助けられていたスタイフェンが、今度は自分の番だとばかりに集団を牽引。このお膳立ての結果、最終ストレートでベノートを捕まえた集団の中から飛び出したペダースンが、ドラッカーやナーゼンの猛追を振り切り、そのまま先頭でゴールした。

まさにチームワークの勝利! そして、途中ブリッジを仕掛けスタイフェンのための牽きまでやってのけたペダースンが最後までスプリントする体力を残していたことにも驚き。

悪天候もありサバイバルなレースとなったことが功を奏したか。今年のフランドル2位の実力者でもあるペダースンの今後の活躍にも期待が集まる。

 

 

UCIロード世界選手権

世界選手権 開催国:オーストリア

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今年も若手からベテランまで、幅広く大きな活躍を見せてくれた白熱の世界選手権。今大会で個人的に注目すべき勝者は3名。

まずは個人タイムトライアルで前大会覇者デュムランに1分以上ものタイム差をつける圧倒的な勝利を記録したローハン・デニス。

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今年は完全にこの世界主権に焦点を当てて調整をしてきたのか、今年獲得している7勝すべてが個人TTである。直前のブエルタでも2つの個人TTの両方を制している。

正直、これまではデニスというのは、どちらかというと短距離が得意なタイプだと感じていた。しかし今回のこの52kmというとんでもない距離に対してもばっちりと合わせてきているあたり、今年の彼の本気度は間違いがなかったということだろう。

逆に、今年はグランツールにも本気を出してきていたデュムランは本人も認める悔しい走りに終わってしまった。山岳のために絞り過ぎた結果だったのだろうか。

逆にデニスも、今回ついにこのアルカンシェルを手に入れた以上、次の目標はグランツールに据えていく必要があるだろう。TTに全てを注いだ今年に反して、来年以降は山岳への対応力をつけていかなければならない。来年は29。そろそろ、グランツールを本気で狙える時期の終盤に差し掛かってきている。

来年以降の更なるデニスの変貌に期待していきたい。

 

また、男子エリートロードレースではアレハンドロ・バルベルデが優勝。これまで、2位や3位を繰り返し取り続けていた男の、38歳にしてついに掴んだ栄光。

彼の走りやそのライバルたちの走りについては、以下の記事に詳細を載せている。

suzutamaki.hatenablog.com

 

最後に注目すべきは、男子ジュニアのロード&TTを完全制覇したベルギーの超新星レムコ・イヴェネプール。彼の凄まじさについては既に多くのことが語られており、ここで詳述する必要はないかと思うが、とにかく同世代においては頭一つも二つも三つも飛び抜けた存在であることがわかる。

衝撃のレムコ・イヴェネプール。サッカーへの絶望からアルカンシェルまでの物語とは? - サイバナ

来年はすでにクイックステップ・フロアーズへの移籍が決まっている。今年もネオプロが大活躍しているこのチームで、じっくりと着実に成長していってほしい。 

ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 U25活躍した選手ベスト5!

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平均年齢24.3。

これが、今年のブエルタ・ア・エスパーニャにおける、総合表彰台3名の平均年齢である。

過去10年のグランツールのデータをひっくり返してみても、これほどに平均年齢の低い総合表彰台は初めてである(2014年ジロ・ディタリアのキンタナ、ウラン、アルのときも平均年齢25歳と非常に低かった)。

また、初出場や若めの選手の出場が多いブエルタではあるが、かと言って総合表彰台の平均年齢が他2つのグランツールと比べて低いわけでもなく、今回のブエルタのこの結果は、新たな時代の幕開けを象徴するものであったと言える。イェーツ兄弟、ユンゲルス、アラフィリップといった「92年世代」以降の世代の存在感が、今後のグランツールでもより高まっていくかもしれない。

 

【参考】過去10年間のグランツール総合表彰台年齢データ

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そんな、新時代到来を予感させる今ブエルタにおいて、特に目立った活躍をした「25歳以下の選手たち」を5名ピックアップし、独断と偏見に基づいてランキングしてみた。

総合優勝争い以外の観点も含んだごちゃまぜミックスのランキングではあるが、各分野で注目のこれら若手選手が、今後数年間の間でより力を示していくのは間違いない。今から注目しておいて、損はないだろう。

 

なお、ミゲルアンヘル・ロペスは昨年すでに台頭しているということでランキングからは除外しているので悪しからず。

 

それでは行ってみよう。

 

 

第5位 セップ・クス(24)

アメリカ、チーム・ロットNLユンボ 

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今年のツアー・オブ・ユタで圧巻のステージ3勝と総合優勝をもぎ取ったネオプロ。ラリー・サイクリング所属時代の昨年のツアー・オブ・カリフォルニアにて、既にその才能の片鱗を見せていたとはいえ、驚きの結果であった。

その成績でもって選ばれた、初のグランツールという檜舞台。その最初の山場である第9ステージの山頂フィニッシュにて、チームの2大エース、ステーフェン・クラウスヴァイクとジョージ・ベネットを堂々と前で牽引する姿はとても印象的であった。一時はクラウスヴァイクがつき切れしかねないほどの勢いだったのだ。

 

とはいえ、さすがにその勢いは2週目以降は続かなかったように見える。終盤ではクラウスヴァイクがほぼ1人で頑張る場面も。さすがに初のグランツール、というか初のワールドツアーチームでの大きな舞台である。むしろ、しっかり完走しただけでも十分スゴい。

来期はさらなる活躍に期待。 

 

 

第4位 イヴァン・ガルシアコルティナ(23)

スペイン、バーレーンメリダ・プロサイクリングチーム  

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ネオプロで出場した昨年のブエルタでも終盤の山岳ステージで逃げに乗っており、その潜在能力の高さに驚かされていたガルシアコルティナ。

今年も、地元アストゥリアスを走る第15ステージで、残り8kmまで独走するより進化した走りを見せてくれた。ステージ優勝を得るまで、あと一歩というところまで来ているのかもしれない。

そして今年の彼は、スプリンターとしての可能性も見せつけてくれる年だった。ライドロンドン・サリークラシックでは強豪スプリンターたちに混じっての4位。今回のブエルタでも、第6ステージ(ブアニ勝利)で6位、第10ステージ(ヴィヴィアーニ勝利)で7位、そしてギリギリの逃げ切り勝利が決まった第18ステージでは5位と、ピュアスプリンター顔負けの上位入賞を繰り返していた。

さらにはバルベルデが勝利した激坂スプリントとなった第8ステージでも9位に入り込むなど、80㎏の重量級とは思えない軽快な走りを見せるなど、その脚質はもはや、定義不能である。

エンリク・マスがコンタドールの後継者と称されるならば、このガルシアコルティナという男は、もしかしたらアレハンドロ・バルベルデの後継者とも言うべき存在なのかもしれない。偉大なる存在に負けぬよう、そのポテンシャルの成長をこれからも見せてほしいところ。

 

 

第3位 リチャル・カラパス(25)

エクアドル、モビスター・チーム  

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ジロ総合4位も十分凄かったが、何よりも今回、最終盤まで常にキンタナ、バルベルデの傍らに控え、ときに彼ら以上の実力を感じさせる走りで最後までサポートし続けたそのアシスト力に脱帽。ときに前から降りてきて牽き、ときにオールアウトするまで牽引する。アシストの鏡である。

そもそも今年のパリ~ニースにおけるソレルの総合優勝も、カラパスの助けなくしては成し得なかった可能性もある。

カラパスとソレルという2人のエース候補が控えているモビスターの未来は今のところまだ明るい。

 

 

第2位 オスカル・ロドリゲス(23)

スペイン、エウスカディ・ムリアス 

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誰もが驚く成果を叩き出した。

何しろ、20%超えの超激坂で、 マイカとディラン・トゥーンスを抜き去って勝利したのである。しかも、プロ1年目で。

これまで目立った勝利はない。ジュニアやU23でのタイトルもない。経歴として認められるのは、スペインのパレンシア州で行われたアマチュアレースで優勝歴くらいか。一応、エンリク・マスやティシュ・ベノートなどが上位に入ったこともあるレースではあるが・・・。

現状は来年もエウスカディ・ムリアスの契約が残ってはいるが、安定した成績を出せれば2020年にはワールドツアーチームへの昇格も十分ありうるだろう。20年代注目のクライマーの1人となるはずだ。

 

  

第1位 エンリク・マス(23)

スペイン、クイックステップ・フロアーズ 

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というわけで、今大会最も意外な結果を叩き出した男は間違いなくこの人物だった。チームですら彼の躍進を想像できていなかったのは、(ブエルタにも関わらず)ヴィヴィアーニのスプリントに全振りをしたチームメンバーにも現れている。

そんな彼がたった一人で勝利を掴んだのは、ひたすら冷静に無理をせず、チャンスを掴んで飛び出すその戦術眼の鋭さだったと思う。最後の最後でステージ優勝を取ったのも、巧みにラストコーナーのインを取る走りのお陰だった。

この嗅覚は「単独で走る」環境においては最適なもののように思える。その意味で彼は、結構デュムランとかと近いタイプなんじゃないだろうか。

しかし腕、長いなぁ。

 

 

ブエルタらしくスペイン人の若手の躍進が目立つ。

暫く「次代の成長がない」と嘆かれていたはずのスペインが、今にわかにその未来を輝かしいものとしている。

 

そこに来て、スペイン人の大ベテラン、バルベルデの世界選手権優勝。

偉大なる老兵からの導きを受けて、新たな時代のスペインの才能たちが活躍することはできるか。

バルベルデはなぜ勝てたのか、彼以外はなぜ勝てなかったのか――UCIロード世界選手権2018 男子エリートロードレース

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衝撃的な勝利だった。

38歳にして、世界チャンピオン。

10も年の離れた若者たちの猛攻撃にも振り落とされることなく凌ぎ続けた大ベテランは、最後まで先頭を譲ることなく走り切り、ゴールに飛び込んだ。

プロ17年目。世界選手権ロードには12回挑戦した。それまでに獲得したメダルは、銅が4つに、銀が2つ。そして今回、ついにその頂点を手に入れることができた。

 

バルベルデは確かに今大会最も優勝に近い選手の1人であった。

彼が勝利したという事実だけを見れば、そこには何の意外性も存在しない。

それでも、その勝利の瞬間に、多くの視聴者が驚き、そして彼に敬意を表した。

それだけ偉大なる勝利。そしてこの勝利が、なぜもたらされたのか。

――彼以外の優勝候補はなぜ勝てなかったのか。

 

今回はこの世界選手権男子エリートロードレースの終盤を振り返りつつ、その理由を探っていこうと思う。

 

  

 

総合力が試される好レイアウト

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今大会はオーストリア西部、アルプス山中のインスブルックを中心にしたコースレイアウトで、その山岳の厳しさは前もって注目されていた。

登坂距離7.9kmという長めの登り「イグルス」を合計7回登り、最後は平均勾配11%、最大勾配28%の登り「グラマルトボーデン」が待ち受ける。

総獲得標高は4670mで、過去の世界選手権においても10本の指に入る厳しさを誇る山岳コースとなったという。

 

だが、だからといって単純に、クライマーばかりに有利なレイアウト、とも言えなかった。確かに総獲得標高は厳しいものの、1つ1つの登りはグランツールの山岳ほどの標高を誇るわけでもなく、なんとかこなし切ってしまえば、純粋なクライマーでなくても越えられる可能性はあった。

さらに、山頂がゴールなのではなく、最後のグラマルトボデーデンの山頂からゴールまでは8kmの下りと平坦。登りの力だけでなく下りの力、および平坦で逃げ切るだけの独走力を求められるなど、ロードレーサーとしてのあらゆる能力が試される、バランスの取れた非常に優れたコースレイアウトだったように思う。

 

山頂フィニッシュでないがゆえに、最後は小集団でのスプリント決戦となる可能性が最も高く、その意味で、クライマーたちの中でも突出したスプリント力も勝利には必要不可欠であった。

そういった、登坂力・下り・独走力・スプリントの4要素を兼ね揃えたオールラウンダーとして、今大会最有力候補に挙げられていたのがアレハンドロ・バルベルデであった。

 

 

アラフィリップはなぜ負けたのか?

しかし、同じような脚質をもつ選手はもう1人いた。

ジュリアン・アラフィリップ。

今年のフレッシュ・ワロンヌバルベルデを破り、また似たようなレイアウトをもつクラシカ・サンセバスティアンでも優勝した男。

そして、今年のツール・ド・フランスで山岳賞を獲得し、例年より確実に登坂力を身に付けつつある男。

勢いから言っても、彼が今大会の最有力候補の1人であることは間違いがなかった。

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だが、彼は最後のグラマルトボーデンで、失速した。

ティボー・ピノ、ロマン・バルデと共に、最有力国フランスのエース3名が終盤に残るという理想的な形で挑んだ激坂で、マイケル・ウッズ、バルデ、バルベルデについていくことができず、ずるずると引き離されてしまったのだ。

 

激坂に弱いわけではない。むしろ、彼は今年のフレッシュ・ワロンヌバルベルデを倒したのだ。

結局、4600mという異常なまでの獲得標高をこなしてきた足が、最後の最後でピュアクライマーたちについていくことができない事実を突きつけたのだ。

クラシカ・サンセバスティアンと似たような終盤のレイアウトとは言え、あちらは4000m弱の獲得標高。今大会はそれよりも一段上であった。

ツール山岳賞とは言え、それはあくまでも逃げの集団の中での走りによるものだった。全力の勝負をこなしてきた総合上位勢たちの、最後の登りでの打ち合いにおいてついていけるだけの足が、今大会の最後の登りでは必要とされたということなのだろう。

だからバルベルデとバルデが残ったのだし、逆に十分に才能を見せていたジャンニ・モズコンも、やはりまだまだパンチャー上がりのオールラウンダー初級生。

グランツール総合上位争いの経験がないモズコンとアラフィリップでは、歴戦の強者たちを前にして、地力の差が露呈してしまったのだ。

 

 

ウッズの驚異的な走り

その意味で、バルベルデとバルデの2人に喰らいつき、あわや優勝かというところまで迫ったマイケル・ウッズの強さは、ある意味今大会最も驚くべきものだったのかもしれない。

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つい先日のブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージでの勝利も記憶に新しい今年32歳のカナダ人。あのステージでも、激坂での攻防戦を制しての勝利だった。

2016年にキャノンデール・プロサイクリングチーム(現EFエデュケーション・ファースト)に移籍してプロデビュー。初年度にツアー・ダウンアンダーで総合5位を獲得し、同年のパリ~ニースの個人TTで才能を見せつけたパトリック・ベヴィンと共に、「キャノンデールが引っ張り上げてきた謎の実力者」として注目を集めていた頃が懐かしい。

その後も2017年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合7位に登りつめ、解散の危機に瀕していたチームの雰囲気を、山岳賞ダヴィデ・ヴィレッラと共に明るくする働きをしてみせた彼だが、2016年のミラノ~トリノ2位、2017年のGPミゲル・インドゥライン2位、そして今年のリエージュ~バストーニュ~リエージュ2位と、クライマー向けのワンデーレースでも着実に成績を出し続けていた。

グランツールの総合上位争いもこなし、かつクライマー向けワンデーレースでもきっちりと結果を残す彼の実力は、今大会の表彰台に立つに相応しい十分なものであったのだ。

 

それでも、ほとんど選手のいないカナダというチームで、終盤まで力を保ったまま残り続けていたのはやはり凄い。

2週間後に控えるイル・ロンバルディアには出場するのだろうか。

もし出場するのであれば、その優勝候補の1人であることは間違いない。

 

 

それでもやっぱり凄いバルベルデ

結局、勝負を分けたのは最後の登りグラマルトボーデンであった。

その登りで、本当に厳しい山岳ステージでの地力の違いを見せつけられたアラフィリップとモズコンは崩れ、また激坂適応力の差でトム・デュムランも一旦遅れてしまい、のちに追い付けたものの最後の勝負に挑めるだけの力を残すことができなかった。

 

そして、グラマルトボーデンで生き残ったのは3名。バルベルデと、ウッズと、そしてバルデであった。

 

この3名での勝負であれば、バルベルデが圧倒的に有利であることは間違いがなかった。彼にとって恐れるべきは自らと似た脚質をもつアラフィリップと、未知数な強さをもつモズコンだけであったが、彼らはすでに振り払っていた。

そしてバルデにとっても、この千載一遇のチャンスを掴み取るためには、最後のスプリントで真っ向勝負を挑むわけにはいかないことは分かっていた。

 

だからこそ彼は、グラマルトボーデンの登りが終わったのちの下りで、一度仕掛けようと動きを見せた。

しかし、バルベルデもまた、下りを得意とするベテラン。バルデの狙いも分かりやすく、この攻撃が成功することはなかった。

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あとは、バルベルデにとって、後ろのモズコンたちが追い付かないように注意しつつ、脚を使い過ぎない立ち回りをすれば良いだけだった。

 

だがここで、彼は、いつもの彼がするような、ツキ位置からの牽制をあまり行うことがなかった。むしろ積極的に前を牽く姿を見せつけていた。少なくない視聴者が、そんな彼の動きに驚きを覚えたようだった。

実際、牽制し過ぎればモズコンやアラフィリップに追い付かれる危険性は十分にあった。とくにバルデは、どことなくアラフィリップを待つような動きを見せてもいた。チームで対抗されれば、フランスが最強なのは間違いない。バルベルデにとって、勝利を確実にするためには、多少の足を削ってでも、このタイミングで前を牽く必要性があったと言えるだろう。

 

そして、最後の直線においても、彼はバルデたちによって集団の先頭に立たされた。

普段のバルベルデからすれば、あまり経験のないシチュエーションだったに違いない。

だが、彼は最後の最後まで、懸命にもがき続き、そして踏み切った。

結果、彼は一度も前を譲ることなく、勝利を掴んだのであった。

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再び、38歳という言葉が脳裏をよぎる。

スプリントも激坂も、普通に考えれば年齢の差が大きく出るはずのポイントである。

そこを、10も離れた若者を前にして勝利を譲らなかったのだ。

さらに言えばバルベルデは、つい先日まで3週間のレースで総合表彰台争いを続けていたのだ。

そういうことを考えると、このときのバルベルデの勝利は、「脚質から言って当然の結果」とはやはり言えない結末だったように思う。

 

彼の勝利は、彼のもつ強い思い、執念が実を結んだものだったと言えるだろう。

 

だからこそ勝利の後、フレッシュ・ワロンヌで見せる余裕そうな姿でもなく、いつものステージレースの表彰台の堂々とした姿でもなく、ただひたすら、20代前半の若者のように、無邪気に喜びを表現していた。

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それは最後の表彰台で、前年優勝者ペテル・サガンからメダルを受け取るシーンでも、顕著に表れていたように思う。

サガンもまた、バルベルデより10歳年下のまだまだ「若造」である。

そんな彼からメダルを首にかけられ、肩を叩かれるアルカンシェルジャージ姿のバルベルデは、やはり20代中ごろの若手選手のような表情を見せていた。

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17年目にして、ついに果たされた世界の頂点の称号。

これまで彼が手に入れてきた数多くの栄誉もまた偉大なものであったが、そんな彼にとっても、今回の勝利がいかに価値高いものであるかを表した表情であった。

 

それでも、まだまだバルベルデの栄光を求める走りは終わることがないだろう。

彼が目指す、次の目標はすでに決まっているようだ。

すなわち、2020年東京オリンピック

今回のインスブルック世界選手権同様、厳しい山岳が待ち受けるコースであり、その意味で、バルベルデにとっても大きなチャンスとなる大会である。

 

その頃には彼は40歳。普通に考えればあまりにも厳しい年齢のように思えるが、それが無茶な野望でないことを、今大会の勝利で証明してくれた。

 

 

東京で待ってるぜ、バルベルデ

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UCIロード世界選手権2018 男子エリートロードレース プレビュー

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いよいよ本日から開幕した、2018年UCIロード世界選手権。オーストリア西部の都市インスブルック(チロル州)を舞台に、8日間の日程で開催される。

そして、その最終日となる9月30日(日)に行われるのが、男子エリートロードレース。

4連覇のかかるペテル・サガンを始め、注目選手たちが集う今年の世界選手権男子ロードを徹底プレビュウしていく。

 

  

 

コース詳細

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コースはインスブルック市の北東90kmの街クーフシュタインを出発し、インスブルック中心地とその南北の山岳地帯を利用した周回コースで決着を迎える。

  1. ラインレース
  2. 周回コースを7周回
  3. 最後の周回のみ北の登りを使用

という流れとなる。

 

全長265km。総獲得標高は4670mの非常に厳しい山岳コースレイアウトである。

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ポイントとなる登りは3つ。

 

1.グナーデンヴァルト(Gnadenwald)

60~70km地点、ラインレース中に登場する登りで、登坂距離2.6km、平均勾配10.5%

厳しい登りではあるが、まだまだレースも序盤であり、大勢に影響を与える登りとはならないはずだ。

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2.イグルス(Igls)

インスブルック市内に入ってからの周回コースに登場し、全部で7回登る。

登坂距離7.9km、平均勾配5.7%

決して厳しい登りではないが、短くもなく、着実にスプリンターや並のパンチャーたちの足を削っていく。

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3.グラマルトボーデン(Gramartboden)

最後の周回にのみ登場する、最も厳しい登り。

登坂距離2.8km、平均勾配11.5%、最大勾配25%

最大の勝負所となるのは間違いない。各国の有力クライマーたちが全力で駆け上る中、サガンがこれについていくのはさすがに至難の業であるように思える。

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そして、最後のグラマルトボーデンの山頂からゴールまでは8km。

 

上記のようなコースレイアウトのため、勝負は「7回のイグルスの登りで足を削られていく中、最後のグナーデンヴァルトで抜け出した1人、ないしは数名が逃げ切りか小集団スプリントで決着をつける」パターンか、「グナーデンヴァルトで生き残った十数名の小集団が抜け出した選手を捕まえたうえでスプリントで決着をつける」パターンのどちらかが考えられるだろう。

よって、勝利する選手のパターンとしては、激坂を含む登りでアタックして抜け出せる力と下り・平坦独走を得意とする脚質や、クライマーたちについていけるだけの足をもつパンチャータイプもしくはスプリントを得意とするクライマーのどちらかとなるだろう。

果たしてサガンはその中に含まれるのか否か。

 

また、コースレイアウト的には、同じく獲得標高が多く最後に登りからの下り、その後の平坦が用意されたようなレイアウトをもつ「イル・ロンバルディア」「クラシカ・サンセバスティアン」もしくは2年前の「リオ・オリンピック」などが近いものとして挙げられるだろう。

 

それらを踏まえ、以下では注目すべき選手をピックアップしてプレビュウしていく。

 

 

注目選手たち

ヴィンツェンツォ・ニバリ(イタリア)

おそらく今大会のコースレイアウトに最も近いであろうワンデーレース、「イル・ロンバルディア」を2度制している男。しかもいずれも、得意とする「下り」での決着である。

そして、同じく山岳レイアウトの国際的な大会となった2年前の「リオ・オリンピック」でも、最後の登りでマイカエナオと抜け出して先頭に躍り出たものの、最後の下りで落車しあえなく勝機を逃した。

このときの下りは他にも有力選手の落車が相次いだ問題コースであり、同じような轍を踏むことはないだろう。なお、エナオも共に落車し、唯一生き残ったマイカは平坦での独走力に難があり追走をしてきたフールサンやファンアフェルマートに追い付かれてしまった。一方のニバリは独走力も十分であり、最後の登りの山頂からゴールまで12kmあったリオと比べれば、今大会は8km。単独でも十分に逃げ切れる距離である。

さらに今年は、同じく「登ってから下って平坦」のレイアウトであるミラノ~サンレモでも逃げ切り勝利。

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直前のブエルタ・ア・エスパーニャでも、総合争いには挑まない走りで体力を温存しつつ、得意の下りでライバルチームたちにダメージを与える場面もあるなど、彼らしさを十分に発揮した好調ぶりを見せていた。

 

今大会、最大の優勝候補と言ってよい。

 

チームメートは今のところ、ペリゾッティ、ヴィスコンティ、ポッツォヴィーヴォといったチームメートたちもリスト入りしている。彼らが共に走ってくれればニバリにとっては心強いことこの上ないであろう。

また、ブランビッラ、モズコン、ヴィレッラといったアタッカーたちがかき回し役としては非常に優秀のはず。先日のジロ・デッラ・トスカーナで優勝した調子の良いモズコンは、手綱を握るのが難しいタイプの選手ではあるものの、その強さでもって自分勝手に動いた結果が、ニバリにとってプラスになる可能性も十分にある。

 

なお、もしも今回、ニバリが優勝することができれば、フェリーチェ・ジモンディ、エディ・メルクスベルナール・イノーに続く、史上4人目の「3大グランツール制覇・モニュメント勝利・世界選手権勝利」の選手となる。

 

 

ジュリアン・アラフィリップ(フランス)

元々はサガンと同じく、登れるスプリンターからパンチャーといった辺りでクライマーとは言えないタイプの選手、という印象だった。

しかし今年はツール・ド・フランスで山岳賞を獲得して大変身。今回のインスブルックのコースレイアウトにも十分対応できる力を感じさせた。

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元より、激坂には強い脚質。今年はついにバルベルデを実力で打ち破ってのフレッシュ・ワロンヌ制覇と、今大会にも似たレイアウトをもつクラシカ・サンセバスティアンで勝利。9月に入ってからもツアー・オブ・ブリテンとオコロ・スロベンスカでともに総合優勝を果たすなど、調子をしっかりと上げてきている。

 

実績だけでなく、その勢いから言えば最も優勝に近い選手であると言える。

 

チームメートには下りが得意で同じく優勝候補(だけど平坦が苦手なので飛び出しても途中で捕まえられそうという意味ではアラフィリップの引き立て役には最適な)ロマン・バルデや、平坦牽引やアタックを得意とするトニー・ギャロパンなどがリスト入り。ワレン・バルギルも、よく分からないところでアタックするなど、うまくハマればいい感じに場をかき乱してくれる魅力があるため、味方にすると心強い。

 

 

ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)

基本的にはアラフィリップと似た脚質をもち、アラフィリップ同様、今年(も)とても調子の良い姿を見せている。ただ、ツール山岳賞を獲得している今年のアラフィリップと比べ、最後のグラマルトボーデンの登りをこなせるかは微妙なところ。クフィアトコフスキって確か、激坂耐性あまり強くなかった印象もあり・・・。

勝利の可能性を考えるうえで参考になるのは2017年のミラノ~サンレモ。最後の登りで飛び出したサガンにアラフィリップと共についていき、最後のスプリントを制した。

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もちろん、ミラノ~サンレモと今大会とでは、獲得標高も最後の登りの難易度も全然違う。クフィアトコフスキの勝利に期待するのは、いわば2年前のリオのファンアフェルマートの勝利に期待するようなものだ。

また、チームとして順当に勝利を狙える選手としてはそのリオで最後の登りで抜け出す力をもっていたラファウ・マイカブエルタでも勝てはしなかったが調子は悪くはなかったので、うまくいかないことが続いたシーズンの最後に栄光を掴みたいところ。

それ以外のチームメートはフランスやイタリア、スペインなどと比べるとやや力不足。

 

 

マイケル・マシューズ(オーストラリア)

世界選手権前哨戦としても位置付けられているカナダの2連戦で連勝。勢いで言えば最もある選手だ。元々オーストラリアの優勝候補はリッチー・ポートだったが、その彼が体調不良からの練習不足のため出場を断念。一気にマシューズがエースとなりうる可能性が浮上した。

とはいえ、彼はあくまでもサガン同様のパンチャータイプ。最後の登りをこなせるか否か、こなせたとして、そのときはサガンと競うことになりそうだというのが懸念点である。

とはいえ、やはりその勢いに期待したくもなる。

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プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア)

イタリアのニバリ、フランスのアラフィリップ、そしてスペインのバルベルデといったところが優勝候補国・選手の大本命だとすれば、このスロベニアのログリッチェは、「優勝候補最右翼」からは一歩外れた、しかし十分に優勝を狙える可能性があると多くの人が認める「裏優勝候補」と言えるだろう。

登りの強さは昨年ツール・ド・フランスの山頂フィニッシュ勝利、そして今年のツール総合4位で証明済み。そのツールでも昨年のバスクでも見せた下りの強さと積極性、そして当然、平坦での独走力と、ニバリと並んで今年の優勝候補とも言うべき要素を兼ね揃えた選手である。

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今年のコースレイアウトが彼にとって最大のチャンスであることは彼自身もよくわかっているようで、昨年2位で今年もチャンスであるはずの個人タイムトライアルへの出場を蹴ってまで、ロードに集中しようとしている。

だからこそ今年、我々は見るかもしれない。元スキージュニア世界チャンピオンが、自転車ロードレースの世界チャンピオンとして表彰台の頂点に立つ姿を。

 

また、スロベニアにはもう1人、重大な優勝候補が存在する。今年の国内選手権ロードを制し、ビンクバンクツアーとドイツ・ツアーも総合優勝を果たした男マチェイ・モホリッチ。

登坂力も独走力もずば抜けているわけではないが、サガンにも匹敵するダウンヒルテクニックに加え、持ち前の「体力」によって、執念で終盤まで先頭集団で生き残り、意外なアタックを見せてくれるかもしれない。彼もまた、その勢いから、優勝する姿を思い浮かべられる選手の1人である。

 

 

 

 以上、5名(+2名)の注目選手をピックアップしてみた。

もちろん、それ以外にも、もっと本命と言うべき選手たちも存在する。スペインのアレハンドロ・バルベルデやヨン・イサギレ、ベルギーのファンアフェルマート、コロンビアのウランやエナオ、キンタナにミゲルアンヘル・ロペスブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝を果たしたサイモン・イェーツと最強のアシストであったアダムももちろん注目を集めている選手たちだ。地元オーストリアにも、グロースシャルトナ―やミュールベルガー、ペストルベルガーなどの実力者が揃っている。

 

そもそも、世界王者サガンの勝機も十分に残されてはいる。

 

ただ、少なくとも言えるのは、昨年までとは全く違った展開を今年のロードレースでは見ることができるだろうという期待。

そして、同じ山岳レイアウトということで、2年後の「東京オリンピックロードレース」に向けて、その優勝候補を占うレースにもなりうるという点でも、優勝者以外も含めて注目していきたいレースである。