りんぐすらいど

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宇都宮クリテリウム

  サイクルロードレース初観戦だったが、期待以上に面白いレースだった。勝ったのは地元の宇都宮ブリッツェン、鈴木譲。宇都宮クリテリウムは今年で3年目となるが、地元の宇都宮ブリッツェンはまだここまで勝利を挙げることができていなかった。その中でのこの勝利は、地元で力強く応援し続けてきたサポーターたちにとっても嬉しいことだろう。地域密着型チームの先駆けとして生まれた宇都宮ブリッツェン。地道に蒔き続けてきた種が、今少しずつ花を開き始めているようで、見ていてこちらも嬉しくなってくる。

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ゴール後、サポーターの前で喜ぶ鈴木譲。

 

  決して順調な形での勝利、というわけではなかった。最初に形成された逃げ集団は早々に吸収されて、最終的にできたのは6人の逃げ。その中に、宇都宮ブリッツェンは3人の選手を送り込んでいた。鈴木譲もそのうちの1人だった。

  3人もの選手を逃げに送るというのは、メリットもあるが、デメリットも大きい。逃げは最終的に吸収される可能性も高いし、捕まえられてしまえば最後のスプリントに参加することはまず不可能なほど体力を消耗してしまう。事実、ゴール後のインタビューでも、吸収されてしまうことを前提に、15周目のスプリントポイントを、まずは増田成幸が狙いに行き、これが失敗に終わったので今度は鈴木譲が狙って獲得したのだと。メイン集団にいるエーススプリンターの大久保陣に託すつもりだったと、鈴木譲は語っていた。メイン集団は昨年の覇者であるチームUKYOが完全にコントロールしていたことも、そのような予想を裏付ける材料となっていた。

  しかし事態はそのようには動かなかった。最終周回に入っても埋まらないタイム差。これはもしかして。先頭の6人、宇都宮ブリッツェン3人、マトリックス・パワータグ2人、そしてシマノレーシングのキャプテン入部正太朗は、全力でペダルを回し、集団とのタイム差を残したままゴールに向かう。そして--

  最後は鈴木譲、両手を挙げての歓喜のゴール。4番手に入ったもう1人のブリッツェンの選手(増田?)も両手を挙げてこれを祝福。この瞬間が自分は1番好きだ。リザルトは個人であるものの、チーム全員がその個人の勝利を願う、ちょっと特殊なチーム戦という、ロードレースならではの価値観を反映したこの瞬間。ゴール前に朝から陣取って全力で応援をし続けた地元サポーターたちにとっても、この瞬間は歓喜の頂点に達していたにちがいない。f:id:SuzuTamaki:20160320142627j:plain

ゴール後に監督と抱き合う鈴木譲。

 

  表彰式もシャンパンファイトなどが行われ、盛り上がりを見せた。ここまできっちりやるとは思わなかった。宇都宮クリテリウムだからこそ、なのだろうか。悔やまれるのは、携帯の電池がなくなって表彰式の写真が取れなくなったこと。充電器は絶対持っていった方がいいとはわかっていたのだけれど、探すのをつい面倒くさがったばかりに。。

  いずれにしても、レース初観戦にして十分満足できるものであった。なかなか観戦には行けないものの、次もまた機会があればぜひ行きたい。

  なお、午後のJプロツアーに前に、エリート1クラスのレースもあり、こちらはこの日が初お披露目となった弱虫ペダルサイクリングチームの岡篤志が勝利をもぎ取った。監督で漫画『弱虫ペダル』作者の渡辺航はプロツアー表彰式直前のトークショーで「勝って当然、という雰囲気の中での勝利はプレッシャーだった」と語っていたがまさにその通りだと思う。しかし岡選手は早い段階からアグレッシブに逃げ続けての勝利であり、勝利するに値する走りを見せてくれたように思う。

f:id:SuzuTamaki:20160320111400j:plain₍上)先頭を逃げる岡選手。 ₍下₎エリート1クラスの表彰式。f:id:SuzuTamaki:20160320122522j:plain

  渡辺航氏は少年誌において自転車漫画を描くことで、それまで自転車に興味を持たなかった多くの少年や女性たちに自転車という世界を教えてくれた。かくいう私も妻がそれにハマったのがきっかけでこの世界を知ることができた。『弱虫ペダル』は現実のロードレースとはかなり違う部分も多く描きそれに対する批判もあるものの、その結果として多くの読者が興奮し、楽しみ、興味を持てているのだからその功績は大きい。そして今、その渡辺航氏が新たなロードレースチームを作り上げた。これは営利的な理由では決してなしえないことで、まさに自転車を愛する1人の人物が、自転車界のために尽くしてくれた結果と言えるものだ。今、日本のロードレースが少しずつでも存在感を高められているのであれば、それはこの渡辺氏の献身や、宇都宮ブリッツェンなどの(「地域密着型チーム」というそれまでだれも手を出すことのできずにいた領域への)失敗を恐れないチャレンジ精神があってこそなのだと思う。あとは色んな人びとや色んな地域が勇気を出してチャレンジを重ねていくことで、もっともっと、日本のロードレース界は広がりを見せていくはずだ。まだ蝋燭の火は少しずつその勢いを強めていっている段階に過ぎない。それがいつ突然、消えてしまってもおかしくはない。それでも私は、この火がいつか強く誇り高く燃え続ける火を待ち望み続けるつもりだ。