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ジロ・ディタリア2016 第13ステージ

 かつて所属していたのはバスク人のためのチーム。2013年のチーム解散の翌年からはチーム・スカイでアシストとして尽力した。実力は折り紙付きで、昨年ブエルタでは総合8位。だが絶対的なエースのために忠誠を尽くす必要のある最強チームの中では、なかなか自身の勝利を味わうことができずにいた。

 そんな彼が、このジロで、同じバスク出身のエースのリタイアによって自由を得て、得意の山岳逃げを果たして勝利を掴んだ。

 ミケル・ニエベ。32歳。実に5年ぶりのジロ勝利である。

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ニエベのゴールシーン。jsportsより。

 

 決して簡単な勝利ではなかった。最初の2つの山岳では頭角を現さずひっそりと集団の中に紛れていた。最後から2番目の2級山岳チマ・ポルズスの登りでするりと前に出て、ついてきたジョセフ・ドンブロウスキーも引き離し、30kmにわたる単独走が開始された。

 追いかけるのはモビスターのジョヴァンニ・ヴィスコンティ。元イタリアチャンピオンで山岳にも強い彼の追撃に対し、ニエベもほぼ完璧なコース取りによる巧みなダウンヒルを見せ、タイム差を寧ろ開いていった。どんな速度でカーブに突入すれば最もタイムロスを減らすことができるのか――それを完全に読み尽くした圧倒的な走りは、ニエベというレーサーの持つ、ポテンシャルの高さを感じさせた。

 

 メイン集団も激しい勝負を展開していた。チマ・ポルズスの下りでは総合2位のアマドールのアタックにニバリがついていき、そのアシストのフグルサングがあえてペースを落としてニバリたちとの距離を開こうとすれば、それに気づいたバルベルデが一気にペースを上げ、ニバリたちに追い付く。そして今度はフグルサングが前に出て、主導権をモビスターから奪い返すなど、両チームの戦術戦略がぶつかり合う激しい攻防が繰り広げられた。

 最後の2級山岳ヴァッレの登りでもやはりバルベルデ、ニバリが次々とアタックを仕掛けるも、決定的な差はつかず。しかしその余波を受け、マリア・ローザを着用するボブ・ユンゲルスが遅れ始める!

 これを見て俄然やる気を出したのが、ユンゲルスを24秒差で追う総合2位のアンドレイ・アマドールである。一度は彼もバルベルデたちから引き離されそうになったものの、最後の下りが終わりラスト7kmの平坦が始まるその絶妙なタイミングで集団に復帰し、その後は自ら積極的に集団の先頭を牽引することとなる。他のチームが牽引を手伝ってくれなくともよい。とにかく、ユンゲルスとのタイム差を可能な限り開かなくてはならない。

 ユンゲルスもかなりのリスクを冒しながら下りを突き進み、平坦ではチームメートのブランビッラと合流してアマドールらの集団を追いかける。だが、そのタイム差はむなしくも少しずつ開いていく。結果としてユンゲルスは、アマドールたちから50秒遅れでのゴールとなり、総合でも24秒遅れの2位に転落してしまった。

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ゴールするユンゲルス。jsportsより。

 

 ゴールしたユンゲルスの表情は悔しさに溢れたものであった。だが、彼はまだ23歳。それこそ数日間ピンクジャージを着続けただけでも十分な成果であるとすら言えるのである。彼自身も最初は、そのように感じていたのかもしれない。だが、今日のゴールでの彼の表情は、「できるだけ長く」などではなく、可能であれば最後まで総合争いに食い込んでいきたかった――そのような思いを彼が持っていたがゆえの表情だったのかもしれない。

 今後いつか。きっと彼も、グランツールの総合表彰台を争う選手になっているはずだ。それこそ、同郷の英雄アンディ・シュレクのように、いつかはツール王者としてその名を刻むことすらあるかもしれない。それは決して、遠い未来の話ではないはずだ。

 

 そしてコスタリカ人として(おそらく)初のグランツール総合リーダージャージを着用することとなったアンドレイ・アマドール。もちろん彼にとってこのジロでの役目は、エースであるアレハンドロ・バルベルデをアシストすることである。しかし、昨年のジロでも総合4位。総合表彰台を巡り争うだけの実力は間違いなく持っているのである。いずれにしても彼は、少なくとも明日1日、この栄誉あるジャージを着て国際映像に映し出されることとなる。コスタリカ人として初の栄誉ある姿を、故国にも届けることができるだろう。国際化進むロードレース界のトッププロの裾野が、さらに広がったことを象徴している選手だ。

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表彰台のアマドール。jsportsより。

 

 そしてこの男も執念を見せた。結局は集団スプリントとなったゴールで、こういった場面では常に先着するバルベルデを抑え、ステージ3位、すなわち、ボーナスタイム4秒すら獲得する結果を見せ、アマドール、ユンゲルスに次ぐ総合3位にまで上り詰めたのである。

 ランダもデュムランも去り、ウランも不調の続く今ジロにおいて、残る脅威はバルベルデのみ。明日のクイーンステージで、総合優勝に王手をかけることはできるのだろうか。

 ――いや、やはりチャベスの調子の良さも気になる。チャベスとニバリの差は1分30秒でまだまだ小さい。今後の山岳争いの中で、彼が総合上位に食い込んでくる可能性はまだ十分にありうる。

 最後に勝利するのは誰か。今年のジロは、まだまだ予想できない状況である。

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集団スプリントで先着するニバリ。jsportsより。