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クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016

 圧倒的な強さで、しかしまだどこか余裕を見せたまま、2013年・2015年の覇者が3度目の総合優勝を飾った。それはすなわち、3度目のツール・ド・フランス総合優勝に向けての大きな一手でもあった。クリス・フルーム。最強チーム、スカイの絶対的エースが、予定通りの総合表彰台の頂点に立った。

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表彰台に立つフルーム、バルデ、マーティンの3人。jsportsより。

 

 

プロローグ(レ・ジェ~レ・ジェ 全長4km)

 開幕前から大きな話題となっていた「山岳TT」プロローグ。全長4kmと短いが、平均勾配は9.7%、最大勾配は15%を超える激坂登坂TTだ。セオリーに反し前半で出走したフルームは暫定トップの記録を叩き出し、調子の良さを感じさせたが、これを塗り替えたのがアルベルト・コンタドール。フルームを13秒上回る記録を叩き出しての勝利に、今年のコンタドールは一味違う、このままドーフィネも、そしてツールも勝利してしまうのではないか、とも感じさせた。

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暫定1位のフルームを破る記録を叩き出したコンタドール。jsportsより。

 

 しかしここでの勝利を、単純にツール本戦の第18ステージ山岳TTに置き換えることはできない。何しろツール本戦では(すべてが登りというわけではないが)全長17km。対する今大会の山岳TTは4kmと短く、ダンシングを多用するコンタドールの走り方との相性が非常に良かっただけ、とも言えるのだ。近年の走りを見ていると、長い登りではフルームに軍配が上がることが多いように思える。2013年の登りを含んだTTでも(バイク交換の有無も影響したかもしれないが)コンタドールはフルームに敗れている。

 リッチー・ポートも好タイムを叩き出した。フルームと真正面から戦えるライバルとしての存在感をしっかりと発揮した。また、驚きの走りを見せたのがロメン・バルデ。登りとはいえTTには決して強くない印象を持っていた彼の好走は、今年のツール総合表彰台に向けて大きな期待を抱くことのできるものだった。

 一方でピノ、アルといった総合表彰台候補たちの失速は残念極まりない。結果としてこの日の走りの良し悪しがそのまま、今大会の結果に反映されることとなった。

 

 

第1ステージ(クリューズ~サン・ヴルバ 全長186km)

 今大会最初のスプリントステージを制したのは、地元フランスの最強スプリンターの一角、ナセル・ブアニ。アレクサンドル・クリストフ擁するチーム・カチューシャも直前まで良い位置取りを見せていたのだが、ブアニの頭突き攻撃によってあえなく失速し、勝負に絡むことができなかった。

 ブアニは間違いなく強いスプリンターだ。しかし、今大会での勝利がこの1勝のみとなってしまったことは、彼がまだツール本戦で勝利を量産できるようなスプリンターにはなりえないことを示している。やはり1週間の短いステージレースの中でも複数回勝利を重ねられるようなスプリンターでなければ、ツール・ド・フランスでの安定したスプリント勝利はありえないだろう。ツール・ド・スイスでは、ペーター・サガンが早速ステージ2連勝を成し遂げている。そういった、周りの選手とは一段も二段も上回るような圧倒的な強さを持たなければ、ツール・ド・フランスという、魔物だらけの舞台で栄光を掴むことはできない。

 ブアニはまだ、進化の余地が残るスプリンターだ。

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集団スプリントを制したナセル・ブアニ。jsportsより。

 

 

第2ステージ(クレッシュシュルソーヌ~シャルマゼル=ジャンサニエール 全長168km)

 今大会最初の山頂フィニッシュ。とはいえ、その勾配は決してきつくはなく、特に大きな総合争いも起こらない中で結末を迎える。勝利したのはヘスス・エラダ。スペイン選手権を優勝したこともある、25歳の若手。チームメイトをぶち抜いての勢いのある勝利は、彼のこれからのさらなる活躍を期待させる。

 終盤の2級山岳の登りでスカイのクヴィアトコウスキーがアタックを仕掛ける。ランダと並ぶスカイの大型補強メンバーであり、ツールにおける強力なアシストが期待されていた彼であるが、この日のこのアタックを最後に、今大会での存在感がなくなってしまう。まだまだ本調子ではないのか。クラシック以外ではなかなか期待通りの働きを見せられていないクヴィアトコウスキーだが、ツール本戦ではしっかりと活躍の機会があるのだろうか。

 あわやステージ勝利か、というところまでいったトニー・ギャロパンも、この後のステージでも逃げに乗りつつ結果を出せずに終わった。バルデ、アラフィリップといったフランスの若手が活躍する中で、ベテランの域に達したかつての「フランス期待の若手」も、ツール本戦において2年前のような輝きを取り戻してほしいものである。

 

 

第3ステージ(ボエン=シュル=リニョン~トゥルノン=シュル=ローヌ 全長187.5km)

 山岳TTプロローグで思うような走りができず総合争いに入り込めずにいたアルが、驚きの独走逃げ切り勝利を決めた。メイン集団が追おうとしなかったことも勝利に繋がったのだが、10km以上に及ぶ単独逃げを決めたのは間違いなくアル自身の脚力によるものだ。

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強豪スプリンターたちを背景に逃げ切り勝利を決めるアル。jsportsより。

 

 だがそんなアルも、この後のステージではやはり活躍できず。むしろルイス・レオン・サンチェスやディエゴ・ローザといったアシストたちの方がよい走りを見せていたほどだ。アスタナもスカイに匹敵するチーム力を持つため、総合優勝にも期待したいところなのだが、現状、アルの状況は決して良いとは言えないものであるようだ。

 それでも、諦めずに最後まで走り切ってほしい。そうすれば、どこかで大きな勝利を獲得するチャンスも舞い降りてくるであろうから。それこそ、ジロのニバリのように。

 とはいえ、そのニバリがツールにも参戦する可能性が出てきた。そうなるといろいろ、厄介なことにはなりそうである・・・。

 このステージではアルに逃げ切りを許してしまったものの、集団スプリントで1着を獲ったのはブアニではなくクリストフ。彼もまた、昨年果たせなかったツールでの勝利を目指したいところ。だがこのステージ以外での活躍をあまり見られなかったのは残念なところである。

 

 

第4ステージ(タン=レルミタージュ~ベレー 176km)

 ゴール地点のベレーを出身地とするマキシム・ブエが、勇気ある単独走を敢行したものの、残り4km地点であえなく吸収されてしまった。翌日から山頂ゴール3連戦が控えているとあって、最後のチャンスをモノにしようとするスプリンターたちによる激しい集団スプリントが展開された。ブアニの加速を遮り勝利を掴んだのは大柄のノルウェー人、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン。期待されながらのデビューの後、なかなか大きな結果を出せずにいた彼の、復活への第一歩となりうる勝利であった。彼は最終的に、ポイント賞ジャージも獲得する。おそらくはツールに出るとしてもカヴェンディッシュの発射台役となるのかもしれないが、彼の最強伝説復活の重要な引き立て役として大いに活躍してほしいものである。

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右手を高く突き上げてガッツポーズするボアッソンハーゲン。jsportsより。

 

 驚くべきはこのステージ2位につけたジュリアン・アラフィリップ。山岳TTでも好走を見せ、初日から最終日まで新人賞ジャージを守り続けたフランス期待の星である。5月のツアー・オブ・カリフォルニアでも山頂ゴールの勢いのまま総合優勝を果たしたばかりの彼が、この日は強豪スプリンターに交じっての2位となった。クラシックも含めたこの「なんでもできる」感は、バルベルデのような他に類を見ない「強い選手」となりうる可能性を感じさせた。ただ単に、25歳以下で最も走れる選手、というだけではない!

 

 

第5ステージ(ラ・ラヴォワール~ヴォジャニー 140km)

 山岳TTでも勝利をコンタドールに譲り、その存在感をそこまで強くは発揮していなかったフルームがここで牙を剥いた。しかも最初は小さな中切れを起こし、不調か?と思わせてからのカウンターアタックである。ある意味ではいつも通りのフルームのその動きに不意を突かれ、コンタドールは完全に置いてきぼりを喰らった。

 唯一ついていけたのがリッチー・ポート。しかし、ダウンアンダーのウィランガ・ヒルを連勝しているポートの登り加速力すらも凌駕し、ほぼそれを引き千切るかのような勢いのままフルームはゴールに飛び込んだ。

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最後はポートを突き放しゴールしたフルーム。jsportsより。

 

 このステージでアタックの口火を切ったのはダニエル・マーティンであった。残念ながらその攻撃はあえなく吸収されてしまうが、この後のステージでも本当にきついところでの積極的な攻撃を見せ続けた。そのうえでしっかりと競合集団についていく走りも見せ、初日の山岳TTでの好走も功を奏し、嬉しい総合3位につけることができた。

 それはポートの不安定さも原因であった。この日、フルームに喰らいつくほどの実力を見せたポートだが、この後の2ステージではむしろタイムを失う結果となってしまった。底力はあるのに、その力の発揮の仕方にムラのあるリッチー・ポート。対して積極的な走りを見せながらも大崩れしないダニエル・マーティン。その安定感の差が、最終結果に結びつくこととなった。

 そしてツール本戦で、ポートはどうなるのだろうか。もちろん、ヴァンガーデレンとのダブルエース体制でしばらくは様子を見られるのだろうが、爆発力はともかくとして安定感ではヴァンガーデレンの方が上手のように思えなくもない。となれば、彼をポートにアシストさせる形が最もBMCの結果をよくしそうなものに思えるが・・・。そのあたりは、ツール・ド・スイスにおけるヴァンガーデレンの走り次第と言えるかもしれない。

 そしてこの日、やはり実らなかったにせよ、ランダがアタックを仕掛けた。ジロでは残念な途中リタイアとなった彼だが、この日の積極的な走りと、続く第6・第7ステージにおけるアシストとしての力量はやはりピカイチで、ポートを失った穴をしっかりと埋める存在であることが再確認でき

 しかしなんだ、ランダもポートと同じく、アシストでこそ光る存在なのかもしれない。ランダにしてみても、決して崩れないエースを支えるというのは、アシスト冥利に尽きるものなのかもしれない。

 

 

第6ステージ(ラ・ロシェット~メリベル 141km)

 前ステージで圧倒的な強さを見せつけたフルームはこの日、一切の攻撃を行わず静かにステージを終えた。フルームの反撃を恐れ、その出方を窺い続けたライバル勢は、前半のマドレーヌ峠でこそコンタドールの積極的なアタックが繰り出されたものの、後半においては何もすることができないままゴールを迎えた。「強烈な先制攻撃を喰らわせ、あとは鉄壁に守り続ける」というスカイの黄金パターンがハマったステージであった。それを支えたのが、ポエルス・ランダ・エナオモントーヤといった、スカイの最強のアシスト陣である。

 そんなクイーンステージで大きく飛躍したのが、まずはロメン・バルデである。初日TTでの好走にも関わらず、第2ステージでチームメートの落車に巻き込まれるという不運に見舞われた彼が、この日は大きなタイム差をつけてのゴールで、マイヨ・ジョーヌとまではいかないものの、ポートと並ぶ総合3位の座にまで上り詰めた。

 そしてそんなバルデをスプリントで振り切って勝利したのがティボー・ピノ。初日TTの失敗とその後も上がらぬ調子によって総合争いからは完全に脱落していた彼が、実力を見せつけてしっかりとステージ勝利を飾った。だが、それですべての体力を使い果たしたのか、せっかく手に入れた山岳賞ジャージを守り切る努力もできずに次ステージでもずるずるとタイムを失ってしまった。

 それでもいい! 昨年ツールで見せつけた不屈の闘志でもってピノは戦い続ける。たとえ総合ではバルデに負けても、ステージ優勝をしっかりと飾り、バルデ以上に格好いいガッツポーズを決めればそれでいいのだ! がんばれピノー! 負けるなピノー!

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最後のスプリントでバルデを差し切ったピノ。jsportsより。

 

 

第7ステージ(ル・ポン=ド=クレ~シュペール・デヴォリュイ 151km)

 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016最終ステージで、圧巻の60km独走逃げ切り勝利を決めたのはスティーブ・カミングス。今シーズンも繰り返し勇気ある単独逃げを見せていた彼だが、この日も1時間半以上におよぶ「個人タイムトライアル」の結果勝利を掴み取った。きっと前日のバルデとピノの逃げを見てハートに火がついたのだろう。いずれにしても強い走りだった(昨年ブエルタ第20ステージといい、最終ステージにおける長距離単独逃げ切り勝利というのはぐっとくるものがある)。

 そして総合争いにおいても最後の最後まで気を抜けない展開が続いた。まずはアラフィリップとアダム・イェーツの新人賞争い。最後の1級山岳ノワイエの登りでイェーツに差をつけられたアラフィリップだが、その後の、スカイのアシスト3人衆(ポエルス、ランダ、エナオモントーヤ)の集団復帰トレインに無賃乗車し、まんまとイェーツらを含むメイン集団に復帰を果たした。イェーツも集団先頭を自ら牽引しタイム差を広げようとしたのだが、フルームやコンタドールらの非協力的な態度の結果、その努力も水の泡となってしまった。やはりオリカ・グリーンエッジの総合エースは最後の最後でチーム力に泣かされる運命にあるのか。

 そしてもう一つ、過熱したのが総合表彰台争い。同タイムで2位・3位につけるポートとバルデ、そしてこれを9秒差で追うダニエル・マーティンとの三つ巴の戦い。カミングス以外の逃げはすべて吸収しているためボーナスタイムも絡んでくるため、最後の3級山岳山頂ゴールは、超高速での集団登りスプリントの舞台となった。

 そしてここでまさかのポート失速。フルームらスカイのトレインとの絡みによるものとも言えるが、運が悪いのか、詰めが甘いのか。結局マーティンが2位ゴールを果たし、総合3位に滑り込んだ。バルデも3位ゴール。ドーフィネ総合2位という自身最高の結果を叩き出し、ツールでの総合表彰台への可能性が大きく広がった結果となった。

 あとは平坦TTで大崩れせず、余計なトラブルにさえ巻き込まれなければその夢はきっと叶えられるだろう。今大会で最も期待以上の活躍を見せてくれたのが、このマーティンとバルデの2人であった。(そして最も期待外れの結果となったのがアルとピノだったわけだが・・・)

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ラストのスプリントを制しステージ2位に入ったマーティンと3位のバルデ。jsportsより。

 

 

総評

 とにかく王者フルームの圧倒的な力を見せつけられた一週間であった。そして彼の対抗馬となるべきコンタドールもポートもアルも、今大会の結果だけを見れば、結局は王者を倒すことはできないのではないか、と思わざるをえなかった。

 しかしではフルームのツール総合3勝目は盤石か、というとそうでもない。このドーフィネには出場しなかったナイロ・キンタナこそが現時点で唯一、フルームを真正面から倒しうる存在であると言えるだろう。あるいは、スイスに出場しているティジェイ・ヴァンガーデレンが、昨年果たせなかった「5強」としての総合首位争いに強烈な一撃を加えてくれるかもしれない。

 そしてコンタドールも、決して敗北したわけではない。間違いなく今年のコンタドールは、これまで以上の調子の良さを持ってここまで来ている。ドーフィネでも敗れはしたものの、積極果敢な走りを最終ステージまで見せつけていた。あとはチーム力の差をなんとかするだけだ。クロイツィゲルと、そしてドーフィネ不在のマイカの走りがカギを握るかもしれない。

 あるいは総合表彰台争いも過熱するだろう。アルやピノが不調であればその座を誰が射止めるか。それはもしかしたらバルデかもしれないし、アラフィリップやイェーツ兄弟などの若手かもしれない。あるいはマーティンだって、今回の走りからすると、十分にツール総合表彰台を狙っていける。

 いずれにしても今年のツールは、第1週目から大きく総合が動き出しそうなステージ構成で、しかも2週目にはモン・ヴァントゥー、3週目には山岳TT含むアルプス難関山岳ステージ連戦が待ち構えている。最後の最後まで気が抜けない総合争いが展開される可能性は十分ありうるし、最後にどのような展開が待ち構えているかわからない、という真実は先のジロにおいても証明された。

 

 個人的にはキンタナの勝利を期待している。そしてバルデの総合3位。本当はピノ、と言いたいところだが、彼にはステージ優勝を飾っていただければそれでよい。

 あるいはキッテル、グライペルサガンカヴェンディッシュといったスプリンター頂上決戦もまた見所である。

 いよいよ、1年で最も熱い3週間が近づいてきている。

 

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