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ツール・ド・フランス2016 総括

総合について

 下り、平坦、登り、TTのすべてにおいてライバルに差をつけ、文句ない形でのマイヨ・ジョーヌを勝ち取ったクリス・フルーム。これで3度目、2年連続の総合優勝となる。今後は「5勝クラブ」への仲間入りを目指していくこととなるだろう。

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今年の四賞を獲得した選手たち。いずれも貫禄ある名選手たちであり、その中で、イェーツが将来有望であることがわかる。jsportsより。

 

 今年は、第1週終了時点でのタイム差が、例年に比べて小さかったことに注目が集まった。アンドラ・アルカリスやモン・ヴァントゥー、フィノー・エモッソンといった難関山岳ステージでも、最終盤まで残るマイヨ・ジョーヌグループの人数が例年に比べて多いような気がした。

 しかし「ついていく」だけに終わったのもまた事実である。例年以上に積極的な攻撃が見られず、アタックが仕掛けられたとしても、即座にスカイのアシスト陣が難なく吸収してしまう。

 結果、フルームの総合優勝を脅かすチーム、選手は最後まで現れず、むしろ表彰台争いが白熱する結果となってしまった。

 

 その中で、今大会「2番目に強かった」選手であり、唯一「フルームに喰らいついていくことができたかもしれない」選手として、私はリッチー・ポートを挙げたい。

 彼はもちろん表彰台には上がれなかったが、それも序盤のメカトラブルによる部分が大きく、それさえなければ総合2位に上がれたタイム差でもあった。

 事実、登りでは先述した難関山岳ステージすべてでフルームについていく走りを見せ、TTでも安定した結果を出し、さらには第18ステージの山岳個人TTでは、ベルナール・イノー賞(第1計測地点トップタイム通過)を獲得するほどの走りを見せた。

 前哨戦となったクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでもいい走りを見せながら終盤で失速したように、3週間を安定して走り続けることができない不安定さを心配されていたが、今大会においては問題なくその実力を発揮することができた。

 もう一人のチームエースであるティジェイ・ヴァンガーデレンが大きくタイムを落としてしまったのに対し、ポートは確かな結果を見せつけることができ、今後、BMCの唯一のエースとして、大きな活躍を期待できる選手となった。

 しかしそんな彼も、やはりフルームには勝てないのではないか。

 そう思わせるほどに、今のフルーム、そしてチーム・スカイは圧倒的すぎるように感じる。

 (最新情報ではニコラ・ロッシュが来期BMCに移籍することが決定したらしい。BMCが課題であるチーム力を改善することができれば、ポートの総合優勝ないしは総合表彰台への期待もより大きく膨らむことになるだろう)

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第17ステージ、超級フィノー・エモッソンに登る頂上ゴールにて。ポートだけが唯一、フルームとのタイム差をつけずにゴールできた。jsportsより。

 

 

 

スプリンターについて

 今年は何と言ってもカヴェンディッシュの復活劇である。実に4勝。そしてもう1人、ペーター・サガンの、ツール・ド・フランスにおいては3年ぶりとなる勝利を皮切りに決めたステージ3勝。まるで、2012年に戻ったかのようなこの「古豪(と、サガンについて形容するのはさすがに問題があるが)」の復活劇に、誰もが胸を熱くしたに違いない。

 とくにサガンマイヨ・ジョーヌ着用は興奮の極みであった。それも、アルカンシェルジャージを着て、「キング・オブ・クラシック」ロンド・ファン・フラーンデレン優勝を果たしたこの年に、というのがまた感極まる。ぜひこのまま、来年もマイヨ・ヴェールを獲得し、エリック・ツァベルと並ぶマイヨ・ヴェール最多獲得者となり、歴史に名を刻んでほしい。

 もちろん、カヴェンディッシュにはメルクスを超える記録を目指してほしい。

 

 本当はもう1人、フランスの若き才能、ブライアン・コカールにも期待していた。昨年も積極的に中間スプリント勝負、あるいはゴール勝利に絡み、最終日シャンゼリゼにおいても、勝利したグライペルにあとわずかまで迫る脅威の走りを見せた。キッテルやグライペルに比べると小柄な体型から爆発的な走りを生み出すための、彼独特のダンシングスタイルは迫力満点だ。

 今年はローランなきディレクトエネルジーにおいてエースナンバーを着用し、大いに期待をかけられての参戦。結果は、第4ステージにおいて、キッテルとの間にわずか数センチのタイヤ差で敗北。

 そして最終日シャンゼリゼにおいても、期待を一身に浴びながら、ゴール前数キロ地点でまさかのパンク。勝負に参戦すらさせてもらえなかった。

 それでも、「最強」の集まるツール・ド・フランスでここまで勝利に近い位置にい続けられるだけ彼は凄い。そして彼はまだ若い。今後、確実に、ツール・ド・フランスにおける勝利を得られる日もあるはずだ。

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(上)第4ステージにおけるごく僅差でのキッテル勝利。判定結果が出るまでかなりの時間がかかり、勝利を知ったキッテルは雄叫びを見せ、コカールは激しく落胆した様子を見せた(下)。jsportsより。

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  昨年までのツールで存在感を発揮していたドイツ人2人、すなわちマルセル・キッテルアンドレ・グライペルは、今ツールでは力を出し切れずにいた。2人が今年調子が悪い、というわけでは決してない。両名とも先立つジロ・ディタリアでは他を寄せ付けない圧倒的な走りを見せていた。

 だがツールでは、その勝利のチャンスを悉くカヴェンディッシュに奪われた。キッテルはなんとか1勝をもぎ取った。ではグライペルは?

 そのグライペルも、最終日シャンゼリゼで見事な勝利。フランス人による第19ステージの勝利も含め、本当にツールは、劇的な展開をしっかりと用意してくれているものだ。

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最終日にして念願の勝利を掴んだグライペル。きっと彼にとってこの勝利は、初のシャンゼリゼ勝利となった昨年以上の喜びだっただろう。jsportsより。

 

 各分野の「最強」が惜しみなく集まるツール・ド・フランスにおいて、総合優勝を巡る争いはむしろ力の差がはっきりと出てマンネリ化すら生んでしまうのに対し、スプリンター勝負においては(現在が「戦国時代」と形容されるほどに強い若手がどんどん輩出されていることもあって)どのグランツールよりも白熱の戦いが演じられ、非常に見ごたえのあるものとなっている。

 そんなツールにおける「スプリント争い」で勝利することは、他のステージにおける勝利以上に価値のあるものだと思う。

 エドワード・トインズ、フルーネウェーヘンといったさらなる若手の活躍も見れたツール序盤戦の魅力は、山岳にひけをとらない。

 

 

 

ステージ優勝について

 そしてもう1つ、グランツールの華と言えば、とくに中級山岳以上のコースで巻き起こる、総合争いとは別の「もう1つのレース」の存在。すなわち「逃げ」によるステージ優勝争いである。

 今大会において印象的だった勝利は3つある。

 1つは、第9ステージ。クイーンステージであるアンドラ・アルカリスの頂上ゴールステージで、雹すら降り注ぐ悪天候の中、一流クライマーたちを尻目に独走逃げ切り勝利を決めたトム・デュムランである。

 彼はその後、本命の第13ステージ個人TTでも危なげなく優勝を決め、今大会最も活躍した選手の1人となった。

 残念ながら終盤戦の落車で怪我を負い、オリンピック出場は可能とは言われたものの、ツールで見せた力をすべて発揮できるかわからない状態ではある。

 なんとか回復し活躍する姿を見せてほしい。そして来年こそは、いずれかのグラン・ツールでの総合優勝を期待している。

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第9ステージ。雨のアンドラで見事な独走勝利。実はツール初勝利。喜びに浸る。彼はもう間違いなく総合系選手である。jspotsより。

 

 2つ目は、やはり何といってもこの人。ハリンソン・パンタノ。

 コロンビア人としてその力は以前から認められていたものの、今年、下りという彼の新たな武器が発掘され、終盤のツール・ド・フランスを大いに沸かせた。

 所属チームであるIAMサイクリングは今年で解散とのことだが、彼は間違いなくどこかのトップチームで活躍してくれることだろう。

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第15ステージで共に逃げたマイカを差し切って勝利したパンタノ。この後も山岳ステージで幾度となく逃げに乗り、その驚異的な走りの力を見せつけた。jsportsより。

 

 そして最後に挙げるべき勝利は第11ステージ。

 マイヨ・ヴェールサガンが横風分断作戦で逃げ、そしてマイヨ・ジョーヌクリス・フルームがこれに乗っかったという、なかなかない光景による勝利だった。

 最後はステージ勝利を奪おうとしたフルームをサガンが差し切り2勝目を飾る。わずかなタイム差をも積極的に狙っていくフルームの姿勢と、純粋スプリントでは勝てないと踏んで自分にとって有利な戦いを常に推し進めて3勝を獲得したサガンの戦略とが反映された、ある意味で今大会を最も象徴するステージとなった。

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王者の貫禄を見せ勝利するペーター・サガン。その背後にはマイヨ・ジョーヌ。今大会最も魅力的なゴールシーンだと個人的に思っている。jsportsより。

 

 残念だったのは、第16ステージ、ベルンにゴールするこのステージで、地元出身選手であり今年引退を表明しているファビアン・カンチェラーラが勝利できなかったことである。

 もちろんこのステージも、石畳と起伏というテクニカルなコースで勝機を見出したサガンが3勝目を獲得した、というのは嬉しかったのだが、それでもカンチェラーラに再び栄光を掴んでほしかったように思う。

 

 人はいずれ衰えを見せる。いつもでも「最強」のままではいられない。

 サガンもまた、来年以降も同じように勝てるかはわからない。

 だが、そのたびにまた、新しい「最強」が現れていくことを見るのもロードレースの楽しみ方だ。

 

 来年のツールもきっと、最高に熱い戦いになるはずだ。

 今からもう1年後が、待ち遠しい。