りんぐすらいど

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ドバイ・ツアー2017 総括&「スプリンターの2月」レビュー

キッテルが前に飛び出したとき、その後ろに貼り付いたのがマーク・カヴェンディッシュ

加速するキッテルに、彼は必死で喰らいついていった。

最も最適なタイミングでキッテルの背後から飛び出すために――しかし、キッテルの加速は決して弱まることはなく、ついにカヴェンディッシュは、全身の力を抜き、項垂れ、諦めてしまった。

キッテルの絶好調の走りは、ツール4勝の男ですら、まったくついていけないものだった。

そしてキッテルは、昨年ツールの借りを、しっかりと返した形となった。

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勝利を手にしたマルセル・キッテル。その背後で、カヴェンディッシュが首を垂れている。

 

 

ハッタ・ダム頂上に登る第4ステージがキャンセルになったことで、完全にピュアスプリンター向けのステージレースとなった2017年のドバイ・ツアー。

開催された4ステージ中、実に3ステージでの勝利を掴んだマルセル・キッテルが、2年連続の総合優勝に輝いた。

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総合優勝とポイント賞を獲得したマルセル・キッテルのほか、新人賞及び総合2位に輝いたのがディラン・フルーネヴェーヘン(右から2番目)。そしてバルディアーニCSFのニコラ・ボエム(右端)は、本レース独自の賞である「中間スプリント賞」を得ている。

 

 

カヴェンディッシュ、デゲンコルブ、ヴィヴィアーニといった一流スプリンターが集まったこのレースで、これだけの成果を出したキッテルが、現時点で最強スプリンターと呼ばれる存在に最も近いと言えるかもしれない。

しかし、ステージ優勝に着目するだけでなく、各ステージでの着順に注目してみると、以下のようなデータが現れてくる。

 

※ポイント計算式:1位から順に10ポイント、9ポイント、、、と与えていく。

 

勝利こそ1回のみだが、4位→4位→1位→5位と、常にステージ上位に入り込んでいたデゲンコルブに対し、キッテルは第3ステージで11位に沈んでしまったため、結果として上位のような形となった。

もちろん、これは計算式のルールによって評価が大きく変わるものとなるため、あくまでも参考に過ぎないわけだが、少なくとも今、ジョン・デゲンコルブが、怪我で苦しんだ昨シーズンを乗り越え、再び第一線で活躍できるだけの力を取り戻しつつあるということを意味している。

それも、彼が他のライダーと比較して優位に立ちやすい登りスプリントではなく、あくまでもピュアスプリントの結果のみを見たうえで、である。

今シーズンにおけるデゲンコルブの活躍に、期待せざるをえないであろう。

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カンチェラーラを手放した新生トレック・セガフレードで、2015年シーズンを超える実績を期待しているぞ、ジョン!

 

 

また、同じ計算式でチーム毎・国籍毎の結果を集計してみたのが以下の表である。

 

 

キッテルのクイックステップ、デゲンコルブのトレックを抜いて1位に立つロットNLユンボは、フルーネヴェーヘンだけでなく、昨年ハッタ・ダムを制した元モヴィスターのフアン・ホセ・ロバトが、純粋スプリントでも多く上位に入っていたためである。 

山での勝負が主体となるモヴィスターではそこまで活躍しきれなかった彼が、新たなチームではアシストを中心に存在感を示していくことができるかもしれない。

 

また、国籍別で言うと、ステージ勝利を出した唯一の国であるドイツ、ではなくイタリアが結構な差をつけてトップに立った。

元々バルディアーニやウィリエールなど、イタリア籍のチームの出場も多かった(そしてジロ・ディタリア主催者が主催するレースでもあった)このレースで、イタリア人の活躍が多く見られるのは必然でもある。

それはそうとしても、イタリア人が持つロードレースに対する実力の高さがはっきりと示された結果でもあった。

イタリア人の中でも特に上位に入っていたのが、エリア・ヴィヴィアーニソンニ・コルブレッリヤコブ・マレツコサッシャ・モドロといった選手である。アスタナのリカルド・ミナーリも上位常連となっている。

 

 

期待していた、15年度覇者のマーク・カヴェンディッシュは、イマイチ結果を出し切るができなかった。

第2ステージ終了後には「キッテル同様に、左から抜け出ることができると感じていた。しかし別の選手のタイヤと接触したことで、それを諦めたんだ。目標とする7月のレースに向けて、こんな時期に落車するわけにはいかないからね」といったようなことをコメントしている*1。 

さらに、冒頭で書いたように、最終ステージで項垂れた様子を見せていたカヴェンディッシュだが、どうやら今調べたところ、ゴール直前でメカトラブルに遭っていたようだ*2

いずれにせよ、不運に繰り返し見舞われたカヴェンディッシュ

今後のレースでの挽回に期待する。

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2月は世界各地で多くのレースが開催されている。

その中には、ドバイ・ツアーには参戦しなかった一流スプリンターたちが活躍しているレースもある。

 

たとえば、フランスで開催されているエトワール・ド・ベセージュ(2.1)。

今日までに4ステージを消化したこのレースで、昨年ミラノ~サンレモの覇者であるルノー・デマールが、すでに2勝している。

このデマールと熾烈な争いを繰り広げ、ステージ1勝も果たしているのがアレクサンドル・クリストフ

いずれも、今年のグランツールでの活躍が期待されるトップスプリンターである。

 

オーストラリアで開催されているヘラルド・サン・ツアー(2.1)では、初日プロローグで、ダウンアンダーでは勝利を得られず悔しい思いをしたダニー・ファンポッペルがリベンジを果たしている。プロローグは個人TTの形ではあるものの、2km程度の超単距離のため、TTスペシャリストよりもスプリンター有利の仕組みとなっている。

 

さらに、スペインの地で開催されているヴォルタ・ア・バレンシア(2.1)の数少ないスプリントステージでは、マグヌス・コルト・ニールセンブライアン・コカールナセル・ブアニといったグランツールでも活躍する選手たちを押しのけて勝利を掴んでいる。

ニールセンは昨年ブエルタでも勝利をしており、オリカ・スコットの成長株の1人だ。

今後の活躍に、更なる期待を寄せていこう。

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一瞬のうちに勝敗が分かれる、ときに命懸けの戦いを繰り広げるスプリンターたち。

彼らの輝きを、これからもしっかりと目に焼き付けていきたい。

 

そして「スプリンターの2月」はまもなく、「クライマーの2月」へと変貌していく。

その第一手となったのが、ヴォルタ・ア・バレンシアナ第4ステージにおけるキンタナの勝利である。

今年、ジロへの2度目の挑戦を果たそうとしている彼の、今年最初の活躍が今まさに始まった。

その話はまた、次の記事で…

 

*1:Dubai Tour: Cavendish stuck in the chaos as Kittel wins the sprint | Cyclingnews.com

*2:Dubai Tour: Mark Cavendish left empty-handed after more bad luck | Cyclingnews.com

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