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ティレーノ~アドリアティコ2017 第5ステージ&第6ステージ

 ラスト50kmに20%超えの激坂区間が連続するというハードな丘陵ステージ。アルデンヌクラシックイル・ロンバルディアに匹敵するこの難関ステージを制したのは世界王者ペーター・サガン

 彼以外にはキンタナやウラン、モレマといった総合ライダーたちが肩を並べる中での勝利である。

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ピノとのスプリントを制したサガン。ピノもこのメンバーの中で、区間2位と健闘した。

 

 とくに残り3km地点に位置する最大22%の超激坂「レプトロ通り」を超えて、総合ライダーばかりの小集団になってから追い付いてくるのだから、この日のサガンは本当にスペシャルであった。f:id:SuzuTamaki:20170212115450j:plain

ラスト5kmのレイアウト。ラスト3km地点に最大勾配22%の区間が。

 

  この日の勝利は、彼が将来的にリエージュ~バストーニュ~リエージュイル・ロンバルディアの勝利を狙ううえでの、大いなる布石となったように思う。

 彼にはもはや不可能はない。

 史上4人目の、そしてベルギー人以外では初となる、モニュメント制覇者となることも、決してありえない話ではないだろう。

 

 

 そしてもう1人、この日の走りに期待を持てたのはティボー・ピノである。

 サガンを除く小集団中のスプリントで先頭を取ったのがこの男であった。

 

 思い起こせばブエルタ・ア・アンダルシア第2ステージも、コンタドールとともに最終盤の山頂に辿り着いたピノが、最後のスプリントマッチを制して今期初勝利を飾った。そのときの最高時速は勾配2%の緩い登りにも関わらず48km近く出ていたとシクロワイアードの記事では語られている。

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アンダルシア第2ステージ。最後の直線でコンタドールを追い抜き、勝利を飾ったピノ。

 

 2014年のツール総合2位以来、大きな勝利をあまり出せていないピノであるが、昨年あたりから少しずつ変化が表れ始めている。昨年のドーフィネやツールでも、最終的にはうまくいかなかったものの、ステージ勝利や山岳賞獲得への積極的な動きを見せていた。そのときの彼は実に強かった。

 そして今年に入ってから目立つのがこの、スプリント力の向上である。もしかしたら彼は、3週間のステージレースを戦い抜いて総合上位を目指すよりも、こういった起伏を多く含んだワンデーレースで終盤まで残り、スプリントで勝負する方が向いているのかもしれない。実際、彼はイル・ロンバルディアではそれなりの上位でフィニッシュすることが多く、昨年のロンバルディアは同じくスプリント力の高いエステバン・チャベスが優勝している。

 今年のイル・ロンバルディアは本気で狙いに行くべきではないだろうか。

 あるいはアルデンヌクラシックへ――ワンデーレースへの注力こそが、ピノにとって大きな結果を得る方法なのかもしれない、とも思う。

 

 ただ、今年はステージレースにおいても期待できる走りを見せてくれている。先のアンダルシアでは結果的に総合3位。また、昨年からのTT能力の向上も間違いなく、今回のティレーノ~アドリアティコも最終ステージのTTが非常に楽しみである。総合首位キンタナとのタイム差は50秒。かなり厳しいとは思うが・・・それでも、もしかしたら、ということもあるかもしれない。

 

 

 なお、このステージでもう1人、注目に値する走りを見せたのがアンドローニ=ジョカットリ・シデルメクイーガンアルリー・ベルナル(Egan Arley Bernal)。

 まだ20歳という驚異的な若さでチームのエースを務め、最強しか生き残れなかったはずの今日のステージをたった6秒遅れの11位でゴールしている。そもそも昨日のテルミニッロも13位でゴールしており、この2つの難関ステージを上位でゴールしたことにより、新人賞ジャージをボブ・ユンゲルスから奪うことに成功した。

 昨年ツール・ド・ラヴニールでは総合4位。彼もまたコロンビア人である。また1人、将来有望な若者が出現した。

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大胆不敵な笑みを浮かべるベルナル。数年後には彼の名がプロトンの中心で輝くときが来るかもしれない。

 

 

 

第6ステージ

 今大会唯一といっていい平坦ゴールステージ。当然、集団スプリントによる決着が期待されたものの、ゴール前7~8km地点には最大勾配8%の区間を含む登りが待っているレイアウト。

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  まさに「ミラノ~サンレモ前哨戦」に相応しいこのステージで、やはり劇的な展開が待っていた。

 

 まずは登りでヴィンツェンツォ・ニバリがアタック。彼は昨年のミラノ~サンレモでも積極的な走りを見せていたはずだ。だがこれはニキ・テルプストラファビオ・フェリーネによって捕まえられる。サガンもその直後にアタックを仕掛けるがやはり捕まえられる。

 結局のところ集団のまま最後の平坦3kmを走ることになり、その先頭をクイックステップ・フロアーズロット・ソウダルといったベルギースピードチームが隊列を組んで走り抜ける。

 最終的に勝利を捕まえられたのは、マッテオ・トレンティンのアシストを全面に受けたフェルナンド・ガヴィリア

 最後まで並走しあとわずかというところでサガンは敗れ、ガヴィリアがいつもの勝利ポーズを決めた。

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わずかの差でサガンに競り勝ったガヴィリア。その勝利を完璧にアシストしたトレンティンも背後でガッツポーズ。

 

 この日の勝利は、1週間後に迫ったミラノ~サンレモ本戦とどれだけ相関性があるだろうか。少なくとも今日、活躍したトレンティンは昨年ミラノ~サンレモでもガヴィリアをアシストしつつ10位入賞している。今年もガヴィリアと共に終盤まで残り、今日のように彼をサポートすることも十分可能なはずだ。

 

 ガヴィリアが昨年の借りを返すミラノ~サンレモ勝利を飾るのか、サガンが世界王者としての意地を見せて2つ目のモニュメント勝利を奪い取るのか。はたまたそれ以外の選手が活躍するのか。

 実に楽しみな週末である。

 

 

 また、クイックステップ・フロアーズは、パリ~ニース最終日におけるデラクルスの勝利と合わせ、今期早くも15勝目をマークした。

 相変わらずクラシックではいいところまでいって・・・なパターンも見せてはいるが、その強さは今年も健在なようである。

 

 

最終ステージに向けて

 さて、ティレーノ~アドリアティコもいよいよ最終日を迎える。

 最終ステージは例年通り全長10km程度の短い個人タイムトライアル。

 起伏の一切ない、ド平坦ステージである。

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 しかし総合タイム差は、総合首位のキンタナに対してティボー・ピノが50秒差で2位、ローハン・デニスが1分6秒差、プリモシュ・ログリッチェが1分15秒差、トム・デュムランが1分19秒差である。

 特に世界最強レベルのTTスペシャリストであるローハン・デニスが1分6秒差である、というのはキンタナにとってはかなりの不安材料であるだろう。

 参考までに、2015年のティレーノ最終ステージ、同じレイアウトのTTでは、優勝したファビアン・カンチェラーラに対しキンタナは55秒差をつけられている。

 また、同年のツール・ド・フランス初日のITTでは、13kmと少し長いが同様にド平坦であり、優勝のローハン・デニスとキンタナとのタイム差は1分1秒差であった。

 

 そう考えると、1分5秒というタイム差は、キンタナが勝利を掴むにあたって持つべきタイム差をギリギリでなんとか持っている、という状態であると言えるだろう。2年前よりも確実にTTが改善してるであろうキンタナ、総合優勝の可能性は十分以上に高いが、それでも最終ステージ、最後のキンタナがゴールするその瞬間まで、見逃すことのできない熱い戦いとなるだろう。

 

 そして単純にステージ優勝も気になる。デニスか、デュムランか、はたまたカストロヴィエホか、ログリッチェか、もしかしてピノかも? 個人的に一番注目したいのはとビアス・ルドヴィクソンである。

 キャノンデールのパトリック・ベヴィンにも期待したいところだったのだが、テルミニッロでリタイアしてしまっている。うーん、以前もそんなことがあったような・・・厳しい山岳を含んだステージレースでは活躍できないのかしら。

 

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