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パリ~ニース2017 総括

 昨年に引き続き、最終ステージでなお、激しい総合争いが繰り広げられ、数秒差での決着となった2017年のパリ~ニース。

 総合エースクラスの多くのトップライダーがティレーノ~アドリアティコに流れる中、むしろセカンドエース級の選手が多く揃ったからこその、予想がつかない「面白い」展開を十分に楽しめたと言えるだろう。

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左から順に総合2位のアルベルト・コンタドール(トレック・セガフレード)、総合優勝のセルヒオ・エナオ(チーム・スカイ)、総合3位のダニエル・マーティン(クイックステップ・フロアーズ)

 

 一方、ティレーノよりもずっと豪華なメンバーが揃ったスプリント勝負では、むしろ意外なライダーたちによる勝利が立て続いた。

 すべては前半の気象条件の悪さによるものか。多くの波乱に満ちたカオスな展開が、(選手にとっては厳しいものであったであろうが)視聴者にとっては見所満載のレースを生み出すに至った。

 

 今回はこのパリ~ニース2017で活躍した各選手たちを、各賞やステージ勝利者の紹介の形でレビューしていきたい。

 

 

目次

 

 

 

総合優勝 セルヒオ・エナオ(コロンビア、29歳)

  確かに今大会最大の優勝候補の1人であることは予想していた。それでもまさか、本当に勝つとは。

 ステージレースでの総合優勝は7年前のブエルタ・コロンビア以来。それでも昨年・一昨年のバスク1周では2年連続で総合2位、昨年のパリ~ニースでも、総合優勝のゲラント・トーマスを忠実にアシストし、彼以上に登れるところも見せていた。今年、スカイのエースナンバーをつけてパリ~ニースに出場したことは何の不思議でもなかったし、従弟のセバスティアン・エナオや昨年ジロ山岳賞のミケル・ニエベなどの強力なアシストの助けも十分にあった。

 だが、最後に彼の勝利を決めたのはやはり彼自身の強さであった。

 それが最もよく表れたのが、第6ステージのフェイヨンスの登りであった。ポートのアタックに次いで最大勾配20%の「壁」をよじ登るエナオは、最終的にトップから17秒遅れの区間2位を獲得した。この日、アラフィリップとマーティンたちにもタイム差をつけられたコンタドールは15秒遅れでゴールし、ボーナスタイムも考慮するとこの日だけで21秒ものタイム差コンタドールからつけることに成功したのだ。

 翌日のクイーンステージでは逆に、ボーナスタイムを含めて17秒のタイム差をコンタドールからつけられてしまったエナオ。しかし、最終的な2秒というタイム差のことを考えると、フェイヨンスでの快調な走り、あるいはクイヨール峠での粘りが、エナオを勝利に導いたと言えるだろう。

 セルヒオルイス・エナオグランツールでエースを務めることは難しいかもしれないが、今後も各種ステージレースで、総合上位、あるいはエースの強力なアシストとして活躍していくことだろう。

 まずは彼のキャリア最大の勝利に祝福を。本当に強かった、エナオ

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次はバスク1周。昨年はコンタドールに敗れ総合2位。今年はリベンジを果たせるか?

 

 

総合2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、34歳)

 この男は、本当に熱い戦い方をする。もしかしたら昔とは少しタイプが変化したのかもしれない。必ずしもポジティブな評価だけではない男だったのだろうが、まだまだ視聴歴の浅い自分にとっては、コンタドールという男は、「勝利を決して諦めない、戦いを挑み続ける男」というイメージを持っている。常にレースを面白くしてくれる男である。

 昨年の繰り返しのような展開であった。役者だけが少し異なる。昨年のゲラント・トーマスの代わりにセルヒオ・エナオ。ラファウ・マイカの代わりにハリンソン・パンタノ。それでも昨年はエナオコンタドールに負けない登りの力を持っていたように思えたので、まったく同じ展開にはならないだろう、と思っていたが、今年も同じようにエナオが遅れてしまった。それだけパンタノのアシスト力と、コンタドールの登坂力が高かったことが伺える。何しろ第4ステージの登りフィニッシュITTでも、おそらく全選手の中で最も速く山を登ったのがコンタドールだったのだから。

 そして最後のエズ峠の山頂では、コンタドールエナオのタイム差は50秒にまで広がった。

 昨年はこの後の下りで、元トラック選手のゲラント・トーマス必死の追い上げでタイムを詰められて敗北してしまった。しかし今年はクライマーのエナオである。しかも昨年のオリンピックでは下りで落車をしている。これだけのタイム差は、簡単に詰まることはないだろう。そう、思っていた。

 しかし思い返してみれば昨年のエズ峠の下りでも、トーマスだけじゃなく、エナオも積極的にダウンヒルを手伝っていた。そしてエナオの、勝利に対する執念が、下りへの恐怖をかき消したのか。最終的に21秒差でエナオたちはゴールし、総合成績ではわずか2秒というタイム差でエナオが勝利した。

 実にきわどい戦いだった。それでも、コンタドールも、死力を尽くしたのは間違いない。その結果としてのこの敗北。レース後のインタビューでも「勝てなかったけれど、この美しいレースに参加できたことは嬉しい。集団の後ろで競うのではなく、何かを試すこと、リスクを取ること、それが自分のやり方なんだ」と語っていた*1

 今期ブエルタ・アンダルシアに次ぐ総合2位。次は昨年総合2位のカタルーニャ1周と昨年総合優勝したバスク1周。とくにバスクではエナオとのリベンジマッチとなる予定。楽しみである。

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エズ峠の登りで、ハリンソン・パンタノに牽引されるコンタドール。パンタノは実に頼れるアシストであった。グランツールでも同じく活躍してくれるか。

 

 

総合3位 ダニエル・マーティン(アイルランド、30歳)

 長年在籍していたガーミン/キャノンデール系列からクイックステップへと移籍した昨年は、カタルーニャ1勝と総合3位、ドーフィネ総合3位、ツール総合9位と久々にステージレースでよい結果を出すことができた。期待されて迎えた今シーズンは、早速アルガルヴェで1勝を決めるが、ITTで大幅にタイムを失い最終的には総合6位。昨年ほどではないのか?という不安を抱きながらも、フェイヨンスの登りで5位、クイヨール峠の登りでは3位とやはり登りでの好調ぶりをアピールしてくれた。そして総合3位。

 あとは総合優勝経験のあるカタルーニャでどれだけの走りを見せられるか。今年もツール・ド・フランスでは総合エースを担えそうなので、しっかりと調子を上げていきたいところだ。

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最後のチーム表彰で胴上げされるマーティン。このチーム雰囲気の良さがクイックステップの魅力でもある。マーティン、アラフィリップ、デラクルスの総合3傑のチームワークもばっちりであった。

 

 

ポイント賞&新人賞 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、24歳)

 アラフィリップの覚醒が見られた1週間であった。前半の好調は疑問を呈するまでもないが、第4ステージのITTで大差をつけて勝利できたのはあまりにも驚きだった。今までITTではそこまで実績のなかったアラフィリップの、新たな才能が発掘された瞬間であった。

 フェイヨンスの登りでも、ポートのアタックに反応しいい動きを見せた。しかし最終的にはエナオに突き放され、ポートにも抜かれて4位に終わり、彼の限界を見たような気がした。次ぐクイーンステージのクイヨール峠の登りで大失速。やはりまだ厳しい山岳で一流クライマーたちと張り合うのは難しいのか。

 アラフィリップを見ていると、クフャトコフスキとイメージが重なる。若いころから真の意味でのオールラウンダーとして期待されてきた男。しかし、いずれも中途半端な結果に終わり、ただのワンデースペシャリストとして終わるのではないか、と危惧されていた。アラフィリップもそんな雰囲気がある。

 しかし今年、クフャトコフスキは登りでもいい走りを見せている。昨年は散々に終わった彼に復活の兆しが見えている。彼が今年本当に成功を果たすことができれば、アラフィリップにも期待していけるだろう。

 まずはアルデンヌクラシックやカリフォルニアなど、彼が得意とするレースで結果を出したい。そして昨年新人賞のドーフィネからツールに向けてどれだけ存在感を発揮できるか。だが個人的に最も期待しているのは――世界選手権である。昨年オリンピック4位、ヨーロッパ選手権2位の彼であれば十分に狙えるはずだ。もしそれが実現すれば――フランス人としては実に20年ぶりの世界チャンピオンである。

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新人賞と共に、わずか1ポイントの差でポイント賞も獲得したアラフィリップ。スプリントでも上位に入れる脚質は確かにポイント賞にも向いている。

 

 

山岳賞 リリアン・カルメジャーヌ(フランス、24歳)

 アラフィリップと同様の24歳フランス人が表彰台に立った。フランス開催のレースとしては実に望ましい結果であり、未来への希望となった。

 カルメジャーヌという男は今まさに注目に値する新星である。昨年プロ入り初グランツールとしてのブエルタ・ア・エスパーニャ区間勝利。そして今年に入ってからはエトワール・ド・ベセージュ区間勝利と総合優勝、さらにはこのパリ~ニースでの山岳賞。これだけの短期間でこれだけ存在感をアピールできる選手というのはそうそういない。これだけでトップレーサーの仲間入りを果たしたと言える。

 ローランが移籍し、ヴォクレールの引退も間近に迫っている中で、ディレクトエネルジーにおける総合エースの座は間違いないだろう。そのためにはもっと経験を積んでいく必要があるだろう。まずはツール・ド・フランス出場だ。

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Stage1優勝 アルノー・デマール(フランス、25歳)

パリ~ニース2017 第1ステージ アルノー・デマール、その勝利の秘訣 - りんぐすらいど

 正直、この男にあまりいい印象は持っていなかった。同じ若手フランス人スプリンターとしてはブアニの方が勝利を掴み取っているイメージがあったし、昨年のミラノ~サンレモは凄かったものの、その直後に浮上した魔法の絨毯疑惑がどうしても頭にちらついて、その勝利を100%評価することができずにいた。

 だが、今回のこの第1ステージの勝利は、そんな彼に対する印象を180度転回させるほどのインパクトがあった。何しろあの、アルデンヌ名手アラフィリップのアタックに喰らいつき、ラストも前を牽き続けていた中でしっかりとスプリンターとしての足を見せて勝利を掴み取った。実に強い1勝であった。

 彼ならば今後も多くの勝利を見せてくれるだろう。今後はミラノ~サンレモはもちろん、昨年5位のヘント~ウェヴェルヘムなどにも注目したい。

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Stage2勝利 ソンニ・コルブレッリ(イタリア、26歳)

パリ~ニース2017 第2ステージ - りんぐすらいど

 悪天候の中、キッテルなどトップスプリンターが全力を出し切れない中で、パワーと気迫と執念で勝利をもぎ取った。昨年ワールドツアー個人ランキング14位。今年初めてのワールドツアーチーム加入。気合は十分だった。それでも、ニッコロ・ボニファツィオにエーススプリンターとしての地位は奪われてしまうかもしれない・・・そんな不安もあった中で、先に勝利を掴んだのは大きかった。その後も第5ステージ9位、さらにはエズ峠を越えた先の第8ステージを後続集団の先頭を取る4位ゴール。

 やはりこういった、山岳含みのコースでこそ彼は輝くのかもしれない。ミラノ~サンレモも上位入賞が多いため、期待したい。  

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Stage3勝利 サム・ベネット(アイルランド、27歳)

パリ~ニース2017 第3ステージ - りんぐすらいど

 こちらも昨年までプロコンチネンタルチームだった男の勝利である。しかも、後方にキッテル、デゲンコルブ、クリストフといった最強スプリンターたちを従えての、力づくの勝利。まさしくこの日、最も強かった。

 同時期のティレーノ~アドリアティコでもサガンが2勝。そしてこのベネットの1勝と、ボーラのスプリント陣営の強さは今年のツール・ド・フランスでは大注目である。何しろこの日は本当に、ツール最強メンバーに勝ったのだから。

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Stage5勝利 アンドレ・グライペル(ドイツ、34歳)

ティレーノ第2ステージ&パリ~ニース第5ステージ - りんぐすらいど

 パリ~ニースここまであまりよいリザルトを出せていなかったグライペルが執念の勝利。これで今期3勝目。宿敵キッテルとの勝利数差が1に迫った。

 ロット・ソウダルといえば強力なトレインからのスプリントというイメージが強かったが、グライペルは単独で集団の中を上がっていく力も非常に強い。この日もグルーネウェーヘンやデマールといった強力なスプリンターたちの背後を巧みに取り、最後にそこから力強く飛び出していった。

 一方のキッテルはトレインが機能しなかったことで勝負に出ることができず。カオスな環境の中では、グライペルの方が一枚上手と言えるだろうか。

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Stage6勝利 サイモン・イェーツ(イギリス、24歳)

パリ~ニース2017 第6ステージ - りんぐすらいど

 彼もまた24歳であり、着実に成績を積み上げている。今大会ではクイヨール峠では4分以上も遅れるなど、昨年ブエルタほどの調子の良さは見られなかったものの、それでもこの第6ステージの判断力はさすがである。最後のフェイヨンスの登りではエナオに30秒も詰められてしまったけれども、それまでのアドバンテージの結果、見事勝利を掴むことができた。

 最終結果は総合9位。ティレーノでは新人賞でいい成績を出していたアダムが途中リタイアとなってしまったが、今年のジロに挑もうとする双子は十分にいい状況であると言えるだろう。

 あとはジロまでにどんなレースを出るのか楽しみだ。アダムの体調が早く復帰すればいいのだが・・・。

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Stage7勝利 リッチー・ポート(オーストラリア、32歳)

 昨年ツールでフルームの次に登れていた男が、今年もよい状態でシーズンを迎えつつある。まずはツアー・ダウンアンダーで2つのクイーンステージを制しての総合優勝。そしてこのパリ~ニースでも、序盤で大きく遅れてしまったものの、もしそれがなければ総合優勝も狙えていたのではないか、という走りを見せてくれた。とにかく登りでの爆発力がすごい!

 多くのトップライダーがジロから出場を考えている今年、ツール・ド・フランスにおける総合表彰台を今年こそ手に入れたい。あわよくばその頂点を――そんなことも、十分に考えられるだけの選手だ。

 残る課題はアシスト陣。その意味で、新加入のロッシュの走りはなかなか期待できる。

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Stage8勝利 ダヴィ・デラクルス(スペイン、27歳)

 Jspotsの放送上では、その複雑な動きにより一躍注目を集めたスペイン人。しかし昨年ブエルタでも区間勝利をもぎとりマイヨ・ロホの着用も。最終的には総合7位という結果を叩き出す。また、今大会中もアラフィリップを献身的に牽く場面が見られるなど、今後クイックステップにおけるマーティン、アラフィリップに次ぐ総合エースとしての活躍、あるいは彼らのアシストとしての活躍が十分に期待できる選手である。

 また、共に逃げていたモヴィスターのマルク・ソレルも昨年ラヴニール総合優勝の注目株である。今日のこの日は経験の差でデラクルスにしてやられたが、これからの成長に期待したい。

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総括

 様々なトラブルもあり、結果として最強が最強を見せつけて勝利を飾る、という形にならなかったパリ~ニース。だからこそ見応えがあったといえる。まるでブエルタ・ア・エスパーニャのように。

 ここで活躍した新たな才能の今後の姿に期待すると共に、また来年、どんな熱い戦いが見られるのか楽しみである。

 

 このあとはカタルーニャ1周、バスク1周とまだまだ楽しみなステージレースが控えている。今回活躍した選手のほか、アレハンドロ・バルベルデクリス・フルームなど、さらに楽しみな選手が合流してくる。

 いよいよ本格的なロードレースシーンの開幕。目を離すことはできない。