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アムステルゴールドレース2017

誰もが、クフャトコフスキの勝利を疑わなかった。

ミラノ~サンレモでも見せた、クフャトコフスキの必勝パターン。

ジルベールとの差は、一車身以上あったのではないか。

 

それを、彼は執念で喰らいついた。

だけでなく、これを抜き返しさえしたのである!

 

あれだけ、集団を牽引し続けていたにも関わらず!

「四度目の勝利」を示すハンドサインと共にゴールするジルベールアムステルゴールドレース最多勝利数記録タイまで、あと1勝だ。

 

 

ジルベールの勝利は、もちろん彼が「強かった」というのもあるだろう。

だが、強いだけならクフャトコフスキも、追い付けはしなかったが後続のヴァンアーヴェルマート、バルベルデも同様である。

 

それでもジルベールが勝てたのは、彼の16年間のプロ生活の中で培われた判断力と、そして「ただ勝つ」以上を求める、「勝ち方」への執念の強さゆえであったのかもしれない。

 

彼はその意味で、真のベルギー人であることを、再び証明した。

 

 

 

第1の展開「クルイスベルグ」

今年で52回目を迎えるアムステルゴールドレースは、2013年以来の大改革を行った。

すなわち、レースの「顔」であった激坂「カウベルグ」を、ゴール前から排除する、という方策である。

 

結果、ゴール前19km地点のカウベルグを最後に、以降は強烈な坂が存在しない形となった。

この日、勝利を期待されていたのはスプリンターたち、とくに「登れるスプリンター」の代表格であり、過去のアムステルでも上位に入っているマイケル・マシューズであり、あるいは、先日のブラバンツ・パイルで優勝したソニー・コルブレッリなどであった。

 

だが、この「スプリンター有利」という予想が、プロトンの動きを思いがけぬ方向へと動かすことになる。

 

 

すなわち、残り39km地点。

29番目の坂「クルイスベルグ」で、ロット・ソウダルのティース・ベノートがアタックを仕掛ける。

これに反応したのが、チーム・スカイのセルヒオルイス・エナオ

ここまでは良かった。

ここまでは、それぞれ大本命のエースではなく、セカンドエースに準ずる選手が飛び出しただけなのだから。

 

だが、問題が、この動きに対し、フィリップ・ジルベールが反応したことである。

ジルベールはもちろん、今大会の優勝候補の1人であった。何しろアムステルは過去に3度優勝を果たしているのだから。

 

だが一方で彼は、過去のアムステル勝利を全て、「カウベルグ」で決めていた。

彼は「アルデンヌの王」であり、アルデンヌにつきものの激坂が存在しない今年のアムステルにおいて、最終盤で自ら勝利を掴むのは、至難の業のように思えた。

それゆえに私自身も、そこまで彼の勝率は高くないのでは、と考えていた。

 

 

だからこそ、彼はここで飛び出す必要があった。

ゴールまで残り40kmも残っている。

だが彼は2週間前に果たしている。ありえないと思われた、ロンド55km独走勝利を。

 

 

だから、彼を逃がすわけにはいかなかった。

しかしこの不意打ちに反応できたのは、ヨン・イサギレ、ホセホアキンロハスミヒャエル・アルバジーニ、ネイサン・ハース、ベルトヤン・リンデマンの5人だけ。

優勝候補のグレッグ・ヴァンアーヴェルマートも、アレハンドロ・バルベルデも、後続に取り残されてしまったのだ。

 

 

とはいえ、このジルベールたちの逃げも、どこまで通用するかは甚だ不安であった。

残り30kmを切った段階でタイム差は10秒ちょっと。

ここでもう1つの決定的な動きが生じる。すなわち、クフャトコフスキのブリッジである。

彼の加速に、ヴァンアーヴェルマートはついていけなかった。

ベノートとリンデマンを失い、新たにクフャトコフスキを加えた先頭7人を、ヴァンアーヴェルマート、バルベルデ、ティム・ウェレンス、ファビオ・フェリーネ、ワレン・バルギル、ルイ・コスタ、そしてボブ・ユンゲルスの7人が追走する。

 

優勝候補と思われていたマシューズとコルブレッリは、遥か後方に置き去りにされてしまった。

 

 

 

第2の展開「ローテーション」

一時は視界に入る位置にまで追い込まれた先頭集団。

実際に、クフャトコフスキという強敵を、招き入れることにもなってしまった。

 

だが、これ以上、後続の強力なライバルに追い付かれないために。

ジルベールはここで、自ら全力でローテーションを回すことにした。

 

 

ベルギーチャンピオンの積極的な走りを見せつけられて、 後続に優勝候補バルベルデを抱えるロハス以外の6人は、協力せざるをえなかった。

 

このとき、最後の勝敗を分けるうえで重要だったのは、チーム・スカイが、アシストのエナオだけでなく、クフャトコフスキもローテーションに加わったことである。

 

それも仕方なかった。何しろ、ジルベールは追走集団にチームメートのボブ・ユンゲルスがいる。

追走集団でローテーションに加わらず足を貯めているユンゲルスが、追い付いてきたと同時にカウンターアタックで前に飛び出せば、一気にクイックステップのペースに持ち込まれてしまう。実際に、ドワルスドール・フラーンデレンではそういった勝ち方を、クイックステップはやっていたのだから。

 

だから、クフャトコフスキも全力でペースを上げざるをえなかった。結果、7人中6人が完璧なローテーションを組むことができた先頭集団は、ユンゲルスやバルベルデといった積極的には回す必要のないメンバーを含む追走とのタイム差を、どんどん開いていくことができたのである。

ある意味で定石と外れたこの積極的な動きによって、ジルベールは最終的な勝利を掴むことになる。

このあたりは、ベテランのベテランたる経験に培われた判断力の賜物だったと言えるだろう。

 

ゴール後に彼は語っている。

 

「逃げグループ全員が力を合わせたおかげで、今日の勝利を手に入れることができた*1

 

全員に力を合わせさせたこと、これが今日のジルベールの勝因であった。

 

 

 

一方で、判断力だけでなく、「とにかく自ら前を行く」というジルベールのベルギー人らしいアグレッシブさが、勝利を掴んだ例だったといえるだろう。

ジルベールのその姿勢は昔からで、だからこそときに「タレ」てしまうような展開もあった。

今年も、パリ~ニースの頃くらいまでは、同じような雰囲気だった。

だが、そのあとのクラシックでの活躍を見るにつれ、その積極性がうまくかみ合うシーンが増えてきたように思う。

 

それはもしかしたら、チームメートの信頼がゆえだったのかもしれない。

もし自分が「タレ」ても、自分の代わりに勝利を掴んでくれるであろうチームメートが、常にそこにいる。

そういった、チームへの信頼感ゆえに、彼に全盛期の走りを蘇らせているのかもしれない。

チームが現在、最多勝利数をぶっちぎっていることも、彼に大胆な走りを許す環境を与えているのだろう。

 

だから最後のクフャトコフスキとの一騎打ちでも、彼は冷静だった。

まず最初に自ら先頭を牽き、あえてクフャトコフスキの得意パターンに持ち込ませ、その背後を捉えた。向かい風だった。「だから僕は混乱しなかった。少しずつ僕は近づいて近づいて・・・最後は僕にとって完璧だったよ*2」。 

 

 

「アルデンヌの王」が、実にベルギー人らしい走りと勝ち方を見せてくれた。

この後のアルデンヌ・クラシックの走りにも、ぜひとも注目したいところである。

 

2011年以来のアルデンヌ制覇、なるか?

*1:"All of us deserved the win today because we really worked together." Amstel Gold Race 2017: Results | Cyclingnews.com より。

*2:"it was a headwind so I didn’t panic, and I saw I was getting closer and closer, and it was perfect for me in the end." 引用元同。