りんぐすらいど

ロードレース関連の記事が中心。https://twitter.com/SuzuTamaki

ジロ・ディタリア2017 第16ステージ

モルティローロ、そしてチマコッピを含むステルヴィオを2回登坂する、文句なき今大会最難関ステージ。

そのステージに相応しい激戦が繰り広げられた。とにかく、あまりにも沢山のことが起きたため、整理するつもりで各登りごとの出来事をまとめていきたい。

f:id:SuzuTamaki:20170522154216j:plain

222kmのロングステージの中に「悪名高き」なモルティローロとヨーロッパで自転車で登れる道としては2番目に標高の高いステルヴィオの登りが2発叩きこまれている。獲得標高は5000mを超える。

 

 

 

 

 

 

モルティローロの登り

2年前コンタドールが「ごぼう抜き」を見せたモルティローロ。しかし今年は反対側のモンノから登るルート。2年前のヴェルヴィオの登りよりも勾配は緩い。下りもそっち方面ではなく、北のグルージオに向かうルートだったようだ。

モルティローロは2010年に、スカルポーニが優勝した峠でもある。それを踏まえ、この峠には「チーマ・スカルポーニ」賞が緊急で用意された。獲得できる山岳ポイントが2倍。当然、山岳賞を狙うクライマーたちにとっては垂涎の的となるはずだったが、登りで先頭を牽引していたルイスレオン・サンチェスがそのまま先頭通過を果たした。結果、ここでの山岳賞暫定1位もサンチェスのものとなった。

山岳賞ジャージを着るオマール・フライレは、争えば先着することは十分可能だったはずだ。しかしそうはせず、周囲の選手たちとも話し合いながら、サンチェスを先行させることに決めた。この春、交通事故で亡くなったスカルポーニと、そのチームメートであるアスタナの選手たちに対する、プロトン全体の敬意の表れであった。

f:id:SuzuTamaki:20170524022056p:plain

山頂を2番手通過した後に、サンチェスに手を置く山岳賞ジャージのフライレ。

 

「第1の山」モルティローロの山頂でさっそくドラマが生まれたわけだが、この出来事は今日この日の濃密な一日のほんの序章に過ぎなかった。

30人近い逃げを追うプロトンも、最長で3分程度の差しか許さないままに、山間の渓流の脇を上っていく。いよいよ次はステルヴィオだ。

 

 

ステルヴィオ1回目の登り(チーマ・コッピ)

いよいよチーマ・コッピである。チーマ・コッピとは、その年のジロの最高標高ポイントであり、獲得できる山岳賞ポイントも、他のどの山岳よりも高くなる、という特徴がある。

今年のチーマ・コッピはこのステルヴィオ山頂の標高2758m。

この時期は確実に雪で閉ざされており、それゆえにステージキャンセルになることも多いが、今年は晴天に恵まれ、除雪の行き届いたコースをプロトンは存分に走れる状態だ。

 

ステルヴィオ南の街ボルミオから登りがスタート。本日のゴール地点を一度越えてからの登り開始だ。この町は古代ローマの時代から温泉が有名で、「バーニ・ヴェッキ(旧き温泉)」と「バーニ・ヌオヴィ(新しき温泉)」と呼ばれる施設が好評を博している。一度行ってみたい。

 

ステルヴィオの登りでは気が遠くなるような九十九折りが・・・

f:id:SuzuTamaki:20170524023454p:plain

この九十九折を越えて、2回目のステルヴィオ登りの頂上となるウンブライル峠も越えて、いよいよステルヴィオの山頂に向かう。

細かく分断された先頭集団の中から飛び出したのはイゴール・アントンミケル・ランダ。勢いをつけて飛び出したアントンを振り切って、ランダがそのままチマ・コッピを征服した。

f:id:SuzuTamaki:20170524024351p:plain

第9ステージの落車によって総合争いから脱落したランダ。その後も怪我の後遺症に苦しんでいたようだが、連日、積極的な走りでもって活躍の機会を探していた。

この日は、共に逃げたチームメート、ヴァシル・キリエンカフィリップ・ダイグナンの献身的な走りにも助けられた。チマ・コッピからのヘアピン・カーブが連続する凶悪な下りにおいても、先行するアマドール以上にキレのあるダウンヒルを見せて我々を驚かせた。その後の2回目ステルヴィオの登りでもクライスヴァイク、ヤン・ヒルトを突き放して独走。2回目のステルヴィオ山頂も先頭通過を果たした。

 

ランダは絶好調だった。しかし、この後、プロトンに、誰も予想できなかった展開が訪れる。

 

 

ステルヴィオ2回目の登り

チーマ・コッピを越えた一団は、そのまま北東のボルツァーノ自治県に向けて下っていく。そうしてボルツァーノ西方の街グロレンツァを経由してスイスに入国。そこからウンブライル峠を登るというコースをとる。この、ウンブライル峠をスイス側から通る登りはジロ初登場なんだとか? 先頭集団の展開は前述した通り、クライスヴァイクらを千切ったランダの独走、といったものだったが、その頃後方のメイン集団では、大きな動きは巻き起こっていた。

 

すなわち、マリア・ローザを着るトム・デュムランの不調である。

確かに直前まで、集団の後ろにいたり、苦しそうな表情をしたり、チームカーにつかまって何やら話をしている様子は見えていた。

どうやら彼は、耐えがたい急な腹痛に襲われていたらしい。どうしようもなくなって一度自転車を止めざるを得なくなったデュムラン。一気に、メイン集団とのタイム差が1分以上に開く。

 

その後、できる限り早く復帰したデュムランであったが、やはり体調は優れない。唯一残っていたローレンス・テンダムがアシストに降りてくるが、彼も2回目ステルヴィオの登りの序盤で力尽きてしまう。あとはデュムラン独りでプロトンに追い付くしかない。

 

このときプロトンでは、どうするべきか迷う空気があった。ザッカリンが一度アタックを仕掛けるも、さすがにすぐ矛を収めた。次いでヴィンツェンツォ・ニバリも積極的な動きを見せるが、それらの動きが起きた瞬間にキンタナが反応し、その出鼻を挫いたうえで彼自身もペースを落とす、というようなことを繰り返した。ニバリとキンタナが何やら言い合うシーンも何度か見られた。

f:id:SuzuTamaki:20170524025800p:plain

これは推測に過ぎないが、このときキンタナは、ニバリたち集団に対して、デュムランを待つように説得したのではないか。少なくとも、攻撃的なアタックはやめよう、と進言したように思われる。

 

キンタナの調子が悪いわけでは決してなかったように思える。ニバリたちの攻撃にはすぐ反応し、その前に出ることは十分できていた。だが、そこから彼のいつものような鋭いカウンターアタックが出るわけでもなく、ただ抑えにかかっていたように思う。頃合いよく前方からは逃げていたアナコナ、そしてアマドールたちが降りてきて、そこから全力の牽引をすることで理想的な前待ちからの攻勢を仕掛けることもできたはずだった。

だが、キンタナは行かなかった。ギリギリまで集団コントロールに努めていた。事実、デュムランと彼らとのタイム差は、(デュムランがずっと独りだったにも関わらず)2分差が固定されたままほぼ変わることがなかった。すでにデュムランが遅れ始めてから結構な時間が経ち、さすがにもう、これ以上待つ必要はない、という段階に至ってもなお、キンタナは積極的な攻撃を仕掛けなかった。

 

これもすべて、第14ステージで見せたデュムランのキンタナに対する「待ち」があったからではないか、とも思える。あの場所でデュムランが紳士的に振舞ったからこそ、今日のこのキンタナの「待ち」があったのでは、と。その意味でデュムランのあの判断は、デュムランにとってかなりのリターンを生んだことになるだろう。

 

そしてこの日のキンタナのこの動きが、今日の勝者を決定付けた、と言ってもいいかもしれない。登り最強のキンタナが動かなかったことで、この男が最高のタイミングで飛び出すことができたのだ。

 

 

決着

残り20kmで、いよいよニバリが飛び出した。先頭のランダとのタイム差は40秒ちょっと。残りわずかな登りをこなし、ダウンヒルに先行して入ることができれば、ニバリ得意の下りによってキンタナたちを突き放すことができる。まさにニバリの必勝態勢であった。

f:id:SuzuTamaki:20170524030656p:plain

ニバリのアタックはやはりすぐにキンタナに捕まえられる。だがそれでよかった。ニバリにとってみれば、先頭で下りに入ることこそが目的だったのだから。

そして事実、あの凶悪な九十九折を下るダウンヒルを、ニバリは命知らずな走りで突き抜けていく。あっという間にランダに追い付き、キンタナとの距離を開く。途中、水で濡れた路面をバニーホップで飛び越えるなど、大胆さの中にも冷静さをしっかりと保った走りで、最強ダウンヒラーの称号が古臭いものではないと証明してみせた。

 

そして勝負は、ランダとニバリの一騎打ちに。

ゴール前の直角カーブの連続をこなし、最後の直線に入った瞬間はわずかにランダがリード。

しかしそこからのスプリントで、力強い走りを見せつけたのがニバリ。

第16ステージにしてようやく、ジロ第100回記念大会におけるイタリア人の勝利をもたらした。

 

 

ニバリという男は、決して桁違いに強い選手ではない。

実績だけで言えば、現役選手の中では彼とコンタドールしか該当しない、全グランツール覇者ではある。昨年ジロの総合優勝者であり、ゼッケン1をつけるディフェンディングチャンピオンでもある。

しかし、だからといって今大会、本当の本当に総合優勝最右翼かというと決してそんなことはなかった。ツールでの総合優勝はフルーム、コンタドール、キンタナといった強豪のいない中での優勝ではあったし、人格的な部分で攻撃されることも度々あった。毀誉褒貶の激しい人物である。

 

だが、強い選手が多いイタリア人の中でも、イタリアのファンたちを沸き立たせるような劇的な勝利をもたらしてくれるのは、やはりニバリだけのような気がする。職人のような巧みさや、安定感とは程遠いかもしれないけれど、民衆を歓喜させる力は飛び抜けているように感じる。

だからこそ、イタリアの道端には常に「ヴィンツェンツォ!」と叫ぶ観客がいて、彼がポディウムに立てばまるで総合優勝したかのような歓声が沸き上がるのである。

彼はイタリアの紛うことなきヒーローだ。

完璧でないところも含めて、彼はとても人間的で、庶民の傍に立つヒーローなんだと思う。

 

そしてミケル・ランダ。とても惜しかった。残念だった。

それでも、決して諦めることのない戦いを、この後のステージでもしてほしい。

スカイを、悔しいままで終わらせてほしくはない。

 

 

激動の第16ステージを終えて、総合順位は以下の通り。

 

デュムランにぐっと近づいたキンタナ。もちろん、このタイム差を残したまま最終日に突入しても勝てない。最終日を踏まえて勝つことを考えるのであれば、あと1分30秒は最低でも欲しいところ。勝負所は残り第18ステージ、あるいは第19ステージといったところか。

f:id:SuzuTamaki:20170524110657p:plain

また、ニバリもじりじりと近づいてきている。昨年のことを考えるとこれも警戒せざるをえない対象だ。何しろ彼は「3週目の男」なのだから。

 

総合表彰台争いも白熱するかもしれない。4位以下、ポッツォヴィーヴォまで30秒差以内に収まっている。どの選手も、総合ベスト10、だけでは満足しえないだろう。このあとの猛攻に期待したい。

 

新人賞争いも、ユンゲルスとイェーツとのタイム差は2分半もない。ここには載っていないがフォルモロもイェーツから17秒しか遅れていない。こちらもユンゲルス安泰とはいかなそうだ。