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ツール・ド・フランス2017 第4ステージ

207kmの平坦ロングコース。翌日が厳しいステージであることもあり、全体的にゆったりとしたレースになった。少なくともゴール前までは。

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だからと言って、たった1人での逃げになるとは、彼自身も思ってはいなかっただろう。ワンティ・グループゴベールのギョーム・ヴァンケイスブルク。昨年までは7年間FDJに所属していた26歳のベルギー人。今年の春、石畳クラシックレースであるル・サミンで優勝している。

 

集団がペースアップしていく終盤も、時速40km以上をキープし、残り16km地点まで、190kmに及ぶ長距離を単独で逃げ続けた。

当然、敢闘賞を獲得。ワンティはこれで、「毎日逃げる」という公約の達成が継続している。

 

そしてゴールが近づく中、集団の中でポジション争いが展開する。

まず、残り6km辺りから先頭を陣取り始めたのがコフィディス。それに対して、フランス語放送の実況を担当していたローラン・ジャラベール氏は「早すぎる」という評価を下していたらしい。実際、彼らはこの後、勝負所に入る直前で、ブアニを残して崩壊してしまう。

一方、この日の勝利を期待されていたマルセル・キッテル率いるクイックステップ・フロアーズは、勝負所に差し掛かろうとしている間際になっても、集団の中でバラバラ、やや後方に陣取っている、という状況であった。

 

確かに、このゴール前10kmからのポジション争いをするべきタイミング、というのは難しい。だがこの日に限って言えば、事前に現地のサッシャさんが話していたように、「残り3km地点の下りからの左カーブ」と、「残り2km地点からの2回の直角右コーナー&狭い通路」がポイントだったのだろう。

だから、残り3kmに達する直前でトレインを崩壊させてしまったコフィディスは間違いなく早すぎたし、最後に浅田さんが解説してくれたように、残り2km地点の重要なポイントでいまだに前にポジションを上げられていなかったクイックステップは、致命的に遅すぎたのだ。

 

 

そして、この点、最も最適な位置に陣取っていたのが、FDJであった。

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残り2.7km。すでにコフィディスの選手は前におらず、前方はカチューシャ、ロット・スーダル、ディメンションデータなどがトレインを形成して陣取っていた。

その中で、リトアニアチャンピオンジャージを着るコノヴァロヴァスが常に前から3~4番手を維持しつつ、先頭集団の一段後ろにアシスト2名(おそらくチモライとグアルニエーリ?)に守られる形で、デマールが控えている。

 

この位置ならば、アシストを疲弊させることもなく、そして何かがあったときに、アシストの力を借りてデマールを先頭に引き戻すことが可能になる。

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これは残り2.6km。下り終わってからの最初の難関である左カーブにおけるFDJ4名の位置。相変わらず先頭はディメンションデータが牽引するも、しっかりとアシスト2名は健在でデマールを守り、最適なポジションを確保している。

 

逆にクイックステップは、この直後、残り2kmを過ぎた地点の右カーブでのクラッシュにアシストが巻き込まれ、キッテルが一人になってしまったのだ。

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そして残り732m。早い段階から前を牽き続けていたディメンションデータのジャコ・ヴェンターはここで終了。残ったディメンションデータの選手(ボアッソンハーゲン?)の後ろにコノヴァロヴァス。そしてロット・スーダルのアシスト(ルーランツ?)とグライペル、クリストフ、ブアニ、サガンと続き、その後ろにおそらくチモライがデマールを牽引してついてきている。

 

その後はルーランツ、と思われるロット・スーダルのアシストによる強力な牽引。ここでコノヴァロヴァスもチモライも終了してしまうが、それで問題ない。

デマールは、最後に一人で加速して勝利を獲れる選手である。大事なのは、そこまでのアクシデントに対応して引き上げるだけの動きができているか、である。ドーフィネでの勝利もまさにそういう対応の仕方をグアルニエーリがしてくれたおかげで、あとはデマールの力で勝ち取ることができた。クイックステップはそれが、この日はできなかった。(おそらくはサンウェブも)

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あとは、個の力の戦いである。

残り300mを切って、ルーランツが終了。

その背後から、最も良い形で飛び出せたのが、クリストフ。

だが、今年のクリストフの調子では、300mからのスプリントでは勝つことはできない。

その意味で、デマールの飛び出すタイミングは完璧だった。

あとはサガンサガンには、敵わないような気がしていた。

 

 

だが、ここで起きてしまったのが、あのアクシデントである。

コース右端を走るサガンの右脇の狭い隙間に入り込もうとしたカヴェンディッシュが、サガンの肘を受ける形で落車してしまう。

倒れ込んだカヴェンディッシュは、その背後からデゲンコルブとスウィフトによって乗り上げられてしまい、そのときに指も大きく傷つけてしまったようだ。

レース後のサッシャさんの情報によると、「指の切断に近い怪我」を負ったらしい。病院に直行。おそらく、明日はDNSとなるだろう。

 

 

サガンはこのアクシデントにより、加速が遅れたのは否めない。

結果、デマールがクリストフを抜き去り先着。ツールで11年ぶりとなる、フランス人スプリンターによる勝利となった。

 

まずはデマール、おめでとう。その勝利は、チームメートの力とチームの戦略、そしてデマール自身の力の全てが嚙み合って得られた勝利であった。

今年のFDJスプリンターチームの実力は間違いなくトップクラス。今大会、2勝以上挙げることも十分可能なように思える。

 

 

ただ、先のアクシデントと、さらにゴール2km手前での、マイヨ・ジョーヌも巻き込んだ集団落車など、後味の悪い結果になってしまった。

 

今日は、移動ステージで平穏な日に終わるはずだった。

しかしあまりに平穏過ぎたために、各スプリンターチームのトレインが数と力を残しており、狭く曲がりくねったコースの中で大量のスプリンターとアシストが密集した結果、2度の落車を呼び寄せてしまったのだ。

 

スプリントに最適な日が、大きな落車を伴うことは珍しいことではない。

だからこそ、こういったステージで勝つための可能性を広げるためには、今回のFDJのような戦術が必要になったのだ。

 

ちなみに、この落車を必然として含むスプリントステージに対し、コースの悪さを指摘するのはなかなか難しいように思う。

たしかに、低クラスのレースの中には、ゴール300m手前に直角カーブがあるなど明らかに悪いレイアウトもあったりはするが、今回がそこまでひどいレイアウトだったとは思えない。

ゴール前数kmをひたすら直線にするだけであれば、ロードレースである意味も薄らいでしまう。

もっと重要なことは密度を減らすことであり、その意味で、来年の1チーム人数上限を下げることは、正しい方向への改革だと思う。

 

 

なお、結果としてカヴェンディッシュに肘を当ててしまったサガンには、2着による30ポイントの取り消しと、ペナルティとしての50ポイントのマイナスが与えられ、合計80ポイントの減点を受けることになったらしい。

これで、この日ポイント賞ジャージを着ることになったデマールの124ポイントに対し、サガンは15ポイントの23位にまで転落してしまうことに。

かなり厳しい処分だとは思うが、果たして。

 

 

少なくともサガンの、ゴール直後に謝罪に向かった姿勢は適切なものだったと思う。

気を取り直し、改めて勝利を掴みに行ってほしい。

 

すべてひっくるめてレースである。

これはガードレールのない坂道を時速80kmで下るような危険なスポーツであり、そこに全力をぶつける彼らの獣のような闘争心をこそ、我々は楽しんで観ている。

それを忘れるつもりはない。

 

 

※追記※

サガン、失格が決定されました。

サガンの行為自体は、危険を指摘されながらも何度も繰り返されてきた斜行・肩によるプレッシャー・頭突きと比べて「極めて悪質」とは判断しづらいものと思われる。

となれば、カヴェンディッシュを落車させ、後続のデゲンコルブ・スウィフトの落車にも繋がった、という「結果」に対する処罰であったように思う。

 

なれば、今回のサガンのこの結末は、「運が悪かった」と結論づけるしかない。ロンドの落車や、ルーベのパンクや、2年前のモトカメラに轢かれたことと同様に、ね。

 

 

ちなみに「そもそもデマールやブアニの斜行が悪いんやで。サガンにばかりペナルティ与えてフランス人にお咎めなしはどうなの。所詮フランス人は斜行とかしないと勝てないの?」的なコメントもあったりしてちょっと(;_;) なので、一応擁護的なことをば・・・デマール、味方少なそうなので(笑)

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まずゴール前290mのこの時点。先頭からルーランツ、グライペル、並んでクリストフ、その後ろにブアニ、サガン、デマール、カヴェンディッシュと続いている。

この時点でデマールはサガンの後ろにいるので、斜め前に進行方向を取ることによって進路を確保しようとする。

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ちょっと暗くて見づらいが、ここでデマールはサガンの横に並んでいる。たとえばこの行為を、カヴェンディッシュに対する「斜行」とみなすことは難しいだろう。ちなみに、この時点で先頭も含め全体的にコース右側に詰まってきていることに注意。

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サガンカヴェンディッシュ接触直前のこの場面。ここがいわゆる「斜行」とみなされる場面なんだろうが、やはりこれも、目の前のブアニを避けて右から通過しようとしているだけ、とみなすことができる。必然性がない、後続を邪魔しようとして行う斜行とは区別されるべきだろう。昨年パリ~ニースのブアニとかのね。

ちなみに、じゃあこれはブアニが斜行したからデマールもこう動かざるを得なかったのか、というとそれも違うと思う。ブアニも目の前のグライペルを右から抜いて進むうえで必然的な進路であった。そもそも無罪とされてしまいそうなクリストフの一にも注目。序盤と比べると明らかに右側に移動してきている。必然性が少ないといえばこちらの方がより・・・ではないか? コースが全体的に左カーブであれば仕方ないとは思うが。

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木で隠れて見えないが、黄色の丸で示されている場所にデマールがいる。

完全にサガンたちの進路が塞がれているのがわかる。しかし、ここまでの流れから、デマールがこの位置にいるのは必然である。元はサガンの後ろにいたデマールが、自らの足でポジション取りをした結果である。

しかし元々コースの左側にいた集団がなんでこう右端によるかな(笑)

デマールはここでクリストフに次ぐ位置にまできたが、クリストフの右側にも、もはやスペースは残っていない。

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ので、デマールが選んだ道は、「クリストフの右側から無理に行く」ではなく、クリストフとブアニの間の隙間を縫って前に進む、というやり方である。

スプリンターが勝負するときによくやる行為である。これも、ブアニらに対する斜行としてみなす?

 

 

スプリンターたちがゴール前、危険な動きをすること自体はもはや当たり前の行為となっている。それはジロのガヴィリアも同様だ。何事も起きなければ賞賛されて、何か酷い事態が起きれば非難される?

じゃあそもそも危険のないよう規制しよう、とすれば、そこには一体何が残るのだろう。「ゴールから500m手前からは、進路を変えることは許されない」とか? いやそうなったら、その手前の位置取り争いがより危険になるだけで、何も変わらないだろう。

 

とりあえず、今回の一連の流れで、誰かを犯人に仕立て上げるのは難しいと思われる。誰か正しいとも言えない。クリストフの動きだって十分「原因」である。

 

だから自分は、今回のサガンは「運が悪かった」と思っている。UCIの裁定を信じるなら、今回のサガンが特別に重い判決を下されたのであれば、それはそういう結果を招いた不運にこそ原因がある。こんな言い方はカヴェンディッシュファンや巻き込まれたデゲンコルブ・スウィフトのファンにも大変失礼かもしれないが、ただただ今回は「運が悪かった」のである。サガンの行為にも、デマールの行為にも、カヴェンディッシュの行為にも、行為自体には非はない。UCIはそういう判決を下したのだ。

 

 

誰かに石を投げて誰かを守るようなことは、極力避けていきたいものだ。