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ポスト・フルームのグランツールライダーたち

クリス・フルームがツール4勝目を飾った。

 

戦前は様々な不調説も唱えられ、総合争いにおいて大きな波乱が起きるかもと予想されていたが、ライバルの脱落や不調も手伝って、最終的には問題なくこの「最強の男」が勝利を手に入れた。

 

これで、「5勝クラブ」入りまであと一歩。

そして、それは決して不可能なことではないと、誰もが考えていることだろう。

あと1勝。それは来年かもしれないし、あるいはその次の年かもしれない。

 

 

だが、フルームももう既に32歳。来年は33歳である。

近いうちに、彼が第一線を退くことは間違いない。

そうなると期待してしまうのが、「その次の世代」である。

 

 

 

今回は、2020年代以降のグランツール総合争いで活躍しそうな、「未来のグランツールライダーたち」を確認していこうと思う。

 

 

 

「90年世代(ゴールデン・エイジ)」

ここ近年、もっともプレゼンスを発揮しているのがこの、1990年生まれの世代である。

この世代の特徴は、第一線で活躍する選手の数もさることながら、注目される時期が早かった、というのもあるだろう。早い選手であれば5年前からツール・ド・フランスでも話題になり始め、ここ最近では「まだ強いの!?」と思ってしまうくらいの息の長さを誇っている。

 

既にグランツール総合争いで結果を出している「90年世代」は以下のとおり。

 

  • ナイロ・キンタナ(ジロ総合優勝、ブエルタ総合優勝、ツール総合2位×2)
  • ファビオ・アル(ジロ総合2位、ブエルタ総合優勝)
  • ロマン・バルデ(ツール総合2位・総合3位)
  • エステバン・チャベス(ジロ総合2位、ブエルタ総合3位)
  • ティボー・ピノ(ツール総合3位)
  • トム・デュムラン(ジロ総合優勝)

 

さらに、その他ステージレースで活躍したメンバーとしては、ツアー・オブ・ダウンアンダー総合優勝とティレーノ~アドリアティコ総合2位を果たしているローハン・デニスや、今年ツアー・オブ・カリフォルニアを総合優勝しツールでも力強い走りを見せたジョージ・ベネットなどがいる。

 

彼らは来年で28歳。

28歳というと、様々な統計で「もっとステージ勝利を挙げている」年齢であることがわかる。

もちろん、ステージ勝利など、彼らのレベルにとってはそこまで重要ではない。

しかし、ここ10年のツール・ド・フランス総合優勝者の平均年齢を算出すると29.5歳

つまり、フルームがその衰えをどうしても隠し切れなくなるであろう2~3年後に、この「90年世代」はピークを迎える可能性があるのだ。

 

その意味で、やはりこの世代こそが「ポスト・フルーム」時代を創造していく鍵となることがわかる。 

 

 

この世代で、最初に頭角を現したのは、キンタナ、バルデ、ピノといった「クライマー系」の選手たちである。

その中でもキンタナは、最も早く、そして最も多くの成績を上げている。

しかし彼はツール・ド・フランス総合優勝まであと一歩、というところにまで迫りながら、いまだにそれを手にしてはいない。

今年のツールに関して言えば、ジロからの連戦ということもあっただろうが、それにしても散々な結末を迎えることとなってしまった。

辛い3週間を過ごすこととなったキンタナ。来年の復活はあるのか。

 

 

キンタナはかつて、フルームに唯一匹敵できるだけの登坂力をもった男として讃えられた。一方で、フルームに大きな差をつけられてしまうポイントが、個人タイムトライアルに関する能力であった。20kmもあればフルームに対して簡単に1~2分のタイム差をつけられてしまうその独走力における力量差が、キンタナのツール制覇、そして今年のジロ制覇における 大きな壁となって立ちはだかってしまった。

 

また、近年のツールの、登りでは大きな差をつけることができないという傾向もまた、彼にとってマイナスな要因ともなっているだろう。

それは、もう1人のツール制覇有力選手ロマン・バルデに関しても同様だ。今年のツールも、決して得意ではない個人タイムトライアルにバッド・デイが重なったことで、総合2位どころか危うく総合表彰台すら失いかねない事態に発展してしまった。

 

 

だから、「ポスト・フルーム」を考えるうえで重要になってくるのは個人タイムトライアル(個人TT)に関する能力である。

実際、今年、フルームを唯一倒し得る存在として期待されていたのは、キンタナではなく、リッチー・ポートであった。彼が不運な落車に見舞われなければ、フルームを倒していたとしても決して不思議ではない。それは、フルームに匹敵する登坂力もさることながら、直前のドーフィネではフルームを実際に打ち倒した、その個人TT能力があったからである。

 

 

そういった点を考えると、やはり今後、「90年世代」で最も「ポスト・フルーム」に近い選手としては、トム・デュムランの存在が挙げられる。

実際に彼は、今年のジロで、「90年世代」最強と目されていたキンタナを打ち倒し、初めてのグランツール優勝を飾った。登りでもキンタナに喰らいつき、とくにそれを乗り越え、さらには2年前のブエルタで敗因とされていたチーム力も、予想以上の力を発揮した仲間たちの活躍によって補った。歴史的な勝利であった。

グランツール総合争いへの本格参戦を開始したデュムラン。ツールへの挑戦も近いはずだ。

 

 

2015年のように極端に個人TTが短い(あるいはチームTTの比率が大きい)コースでない限りは、デュムランの優位性はツールでも発揮されうることだろう。

場合によっては来年、フルームに挑んでそれを打ち倒すことすら可能ではないか、とも考えている。

 

逆に、個人TTが短ければ、キンタナやバルデにとっても総合優勝のチャンスが大きく広がる。アルはいまだ3週間を安定して過ごすことができずにいるが、基本的にはこの3人とデュムランが、この黄金世代において最もツール総合優勝に近い選手であると言えるだろう。

 

 

そして、デュムランに匹敵する個人TT能力をもつ選手として、ローハン・デニスの存在も注目に値する。

まだグランツール総合争いにおいて大きな実績のない彼ではあるが、今年のティレーノ~アドリアティコの山岳ステージでも悪くない走りを見せており、あと数年、グランツールでの経験を積むことで、デュムランやキンタナに十分に対抗できる存在となるだろう。

今年のティレーノ~アドリアティコは「90年世代」が表彰台を独占。未来への期待溢れる結果となった。

 

 

そしてカリフォルニアで総合優勝を果たしたベネットも、弱点と思われていた個人TTでの大躍進が勝利の鍵であった。

今年のツールでもクイーンステージの第9ステージや激坂のペイラギュードでも大きく遅れることなく上位に入り込み、総合ベスト10を終盤まで維持する走りを見せた。

最後は体調不良でリタイアを余儀なくされたが、彼がただのダークホースではなく、確かな実力をもった選手であることを証明してくれた。

第16ステージで悔しくも途中リタイアとなってしまったベネット。ブエルタでのリベンジは果たせるか?

 

 

 

 

スター選手の揃う「90年世代」。彼らの中で最も早くツール総合優勝に手をかけるのは果たして誰か。

 

そして、直近のブエルタはこの「90年世代」から、チャベス、アル、バルデ、ベネットがまずは参加を表明している。

番狂わせも起きやすいブエルタ。彼らの激突の結果が今から楽しみである。

 

 

 

 

「92年世代」

90年世代に次いで頭角を現しつつある「世代」が、1992年生まれの世代である。

この世代に該当するグランツールライダーとしては以下の選手たちが挙げられる。

 

  • アダム・イェーツ(ツール総合4位・新人賞、ジロ総合9位)
  • サイモン・イェーツ(ツール総合7位・新人賞、ブエルタ総合8位)
  • ボブ・ユンゲルス(ジロ総合6位・総合8位・新人賞×2)
  • ジュリアン・アラフィリップ(カリフォルニア総合優勝)
  • ルイ・メインチェ(ツール総合8位×2)
  • ダヴィデ・フォルモロ(ブエルタ総合9位、ジロ総合10位)
  • エマヌエル・ブッフマン(ドーフィネ新人賞)
  • リリアン・カルメジャーヌ(パリ~ニース山岳賞)

 

 

すでに2年前には輝かしい成績を量産していた 「90年世代」と比べると、この世代はまだ彼らに匹敵するほどの結果は出してはいない。

しかし、各種新人賞を含め、近年のグランツールやステージレースでは大きな存在感を示しているのがこの世代だ。

2~3年後はまだ「90年世代」が幅を利かせているかもしれないが、その先の2020年代においては、この世代がグランツールの主役となることは間違いないだろう。

 

そしてこの世代で最も注目したいのが、やはり個人TT能力に優れたボブ・ユンゲルス。

ジロでは今年、昨年ツール新人賞アダムとの激戦を制し、2年連続の新人賞獲得という偉業を成し遂げた。

チームメートのアラフィリップやダン・マーティンがいる関係で、2015年以降はツールへの出場を回避しているが、彼が今後ツールに本格参戦した場合、勢力図は変わる可能性は十分にある。

もちろん彼も、まだまだ登坂力で課題は残るものの、デュムラン、デニスと並んで、今後のグランツール総合争いにおいては「90年世代」と張り合うだけのポテンシャルを持っているように思える。

 

 

個人TT能力が今後のグランツール総合争いでも重要な要素を持つというのであれば、「92年世代」最大の実力者は、このユンゲルスであることは間違いないだろう。

逆に、イギリス籍という意味でも「ポスト・フルーム」と呼ばれることも多いイェーツ兄弟は、個人TT能力の大幅改善させ見込めれば、兄弟揃ってツールの表彰台に立つことも十分可能であろう。

 

「90年世代」があまりにも強大過ぎて、この「92年世代」がツール総合表彰台に姿を現すのはもうちょっと先になってしまうかもしれない。

それでも、新しい時代を築いていく世代であることは間違いないだろう。

そしてそれは「2020年代のスター」であることを意味する。

かつて、80年代はイノーとレモン、90年代はインドゥラインとパンターニ、00年代はコンタドール、そして10年代のフルームと、各10年代ごとに輩出されてきたスターたちと肩を並べられるだけの存在が、もしかしたらこの世代から輩出されるかもしれないのだ。

 

それは「90年世代」ではなくこの世代。

もしくは、このあとに紹介する、さらに若い世代での戦いとなるだろう。

 

 

 

 

「94年世代」

ここまで来ると、 該当する選手をすぐに思いつくことが難しくなってくるかもしれない。だが実は、この世代もしっかりと存在感を示している。聞いたことがある選手名が並んでいるはずだ。

 

たとえば以下のような選手たちだ。

 

  • ヒュー・カーシー(イギリス、キャノンデール)
  • メルハウィ・クドゥス(エリトリア、ディメンションデータ)
  • ティシュ・ベノート(ベルギー、ロット・スーダル)
  • ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)
  • ジャンニ・モズコン(イタリア、スカイ)
  • マトヴェイ・マミキン(ロシア、カチューシャ)
  • ホナタン・レストレポ(コロンビア、カチューシャ)
  • オドクリスティアン・エイキング(ノルウェー、FDJ)
  • マッヅ・ヴュルツシュミット(デンマーク、カチューシャ)
  • 小林海(日本、ニッポ・ヴィーニ・ファンティーニ)

 

まだ現時点では大きな実績をあげていない選手たちも、あえて入れている。

小林海を入れたのは、日本が今注目する「若手」が、同世代の世界にどれだけの選手がいるのかを確認するためだ。

 

 

「92年世代」は来年から新人賞の対象外となる。となれば、この世代がまずは、ジロ・ツールその他ステージレースにおける新人賞でどれだけ存在感を示していくことができるか。それが課題となる。

 

 

もちろん、「93年世代」も新人賞の対象となる。こちらにも、2015年ラヴニールの覇者であるマルク・ソレル(スペイン、モビスター)や、今年のオーストラリアロードチャンピオンであるアレクサンダー・エドモンドソン(オーストラリア、オリカ)、そしてジロで力強い走りを見せていたヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAE)、タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、スカイ)などが該当している。ただこの世代は、「92年世代」や「94年世代」と比較すると、総じて層は薄い。

 

「94年世代」にとって、来年はもう「24歳」になる年である。

24歳といえば、すでにキンタナがジロを制しており、バルデもツール新人賞、ピノもツール総合3位と結果を出し始めている年である。

 

そんな時期に、この世代の選手たちがどれだけ結果を出せるのか。

来年のグランツールではそんな点を、期待して見ていくことができるだろう。

 

 

 

 

さらに若い世代たち

さらに若い世代として、「95年以降の世代」も見ていこう。

実はこの世代にも、すでに名前を売り始めている選手たちがいる。

 

たとえば新人賞候補として常に注目を浴びているチーム・サンウェブのオランダ人サム・オーメンは95年世代である。

今年のアジア選手権U23部門で優勝した小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)と岡本隼(愛三レーシングチーム)もこの世代である。

世界に羽ばたく日本人選手に対する期待が、この世代にはかけられている。

 

 

昨年ラヴニール覇者であり、フレッシュ・ワロンヌでも力強い走りを見せたダヴィ・ゴデュ(フランス、FDJ)と、昨年カリフォルニア新人賞を獲得したネイルソン・パウェル(アメリカ、アクセオン)は96年世代。

ティレーノ~アドリアティコでユンゲルスと熾烈な新人賞争いを演じ、来年はスカイ入りを噂されているイーガンアルリー・ベルナルは97年世代である。

ベルナルは来年もまだ21歳。まさに「ポスト・フルーム」時代を担いうる才能であることは間違いない。スカイ入りが本当であれば、そこでの修行が楽しみである。

弱冠20歳のコロンビア人ベルナル。来年はどんな実績を出してくれるのか。

 

 

確実に到来する「ポスト・フルーム」時代。あるいは「2020年代」。

その戦国時代を制し、頂点を極めるのはどの世代か。

 

 

 

 

おまけ・各世代のスプリンターについて

スプリンターにおいても、若手が次々と台頭してきている。サガンやマシューズは「90年世代」の一員であり、今年のジロで大ブレイクしたガヴィリアは「94年世代」である。

カヴェンディッシュグライペルもさすがにそろそろ年齢的に厳しくなっており、キッテルも絶好調ではあるが、4~5年後に第一線を維持するのは厳しくなっていくだろう。

この分野においても、2020年代を代表することになるだろう、新たな世代のラインアップを挙げていく。

 

 

「90年世代」(来年28歳)

  • ペテル・サガン(通算96勝、ブエルタ4勝、ツール8勝)
  • マイケル・マシューズ(通算25勝、ジロ2勝、ツール3勝、ブエルタ1勝)
  • ナセル・ブアニ(通算56勝、ジロ3勝、ブエルタ2勝)

 

「91年世代」(来年27歳)

  • ルノー・デマール(通算46勝、ツール1勝)
  • ニキアス・アルント(通算5勝、ジロ1勝)
  • エドワード・トゥーンス(通算5勝)

 

「92年世代」(来年26歳)

  • ブライアン・コカール(通算33勝)
  • ダニエル・マクレー(通算4勝)

 

「93年世代」(来年25歳)

  • マグヌスコルト・ニールセン(通算9勝、ブエルタ2勝)
  • ディラン・フルーネヴェーヘン(通算19勝、ツール1勝)
  • リック・ツァペル(通算1勝)

 

「94年世代」(来年24歳)

  • カレブ・ユワン(通算24勝、ジロ1勝、ブエルタ1勝)
  • フェルナンド・ガヴィリア(通算19勝、ジロ4勝)
  • フィル・バウハウス(通算5勝、ドーフィネ1勝)
  • ライアン・ギボンス(通算2勝)
  • パスカル・アッカーマン

 

 

注目すべきは、「93年世代」「94年世代」に結果を出しつつある選手が入っていること。

ニールセンは昨年ブエルタで2勝を挙げる活躍を果たし、フルーネヴェーヘンも昨年オランダチャンピオンに輝き、今年はついにシャンゼリゼを獲得した。

そして2年前ブエルタ勝利を挙げたユワンと、今年ジロでグランツール初挑戦ながら一気に4勝を叩き出した、サガンの後継者とも言うべき活躍を見せたガヴィリア。

 

このあたりの世代にギボンスやバウハウスなどがどれだけ対抗していけるか。

 

スプリントにおいても新世代の活躍が十分に期待できそうだ。

グランツール初出場にしてステージ4勝とポイント賞を奪い取っていったガヴィリア。今後どこまで勝利数を伸ばしていけるか楽しみだ。

 

 

 

 

最後に、国籍についても少し触れる。

ここまで見てきた若手注目選手たちの国籍を確認すると、コロンビア、イタリア、イギリス、フランスあたりが多く見受けられる。

 

とくにコロンビア人は若手も強力な選手が揃っており、「90年世代」のキンタナ、チャベスに続く、新たなスター選手たちの供給はまだまだ止まりそうにない。

長らく不調であったフランスはここ最近若手の台頭著しく、ワールドツアーチームから消滅して久しいイタリアも、意外と若手が育ってきている印象だ。アメリカに関しても、同様のことが言えるかもしれない。

 

一方、危機的な状況にあるのが、やはりスペイン。

その要因は簡単に断定することはできないが、ここ20年以上サイクルロードレース界に多くのトップライダーたちを輩出してきたスペインが、今後10年、そのプレゼンスを発揮できないかもしれないという危機に瀕している。

 

 

果たしてスペインの復活はあるのか。

コンタドールも育成チームを立ち上げる(立ち上げている?)という話を聞いたりしているが、そういったところから芽を生やし、新たな時代を築くことを期待している。