りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

パリ~トゥール2017 クイックステップ劇場、千秋楽の勝利

今年のパリ~トゥールはクイックステップがそのチーム力を十分に活かしきり、マッテオ・トレンティンが今年7勝目を果たした。

f:id:SuzuTamaki:20171009101430p:plain

Jsportsより。

チームとしても、これで今シーズン52勝目。2012年から続く「50勝超え」は6年連続での達成となっている。

 

 

今回のパリ~トゥールは、クイックステップのチームとしての強さを十分に発揮し尽くした勝利だった。

よく春先なんかでは「数の有利(笑)」などと、実力者を揃える割にはレースの展開させ方に失敗する印象も強い最強軍団だが、こうして毎年結果を出している以上、やはり確実に強いのだ。

そして、今年はとくに、様々な勝ち方を見せてくれたシーズンだった。フィリップ・ジルベールの活躍や、イヴ・ランパールト、ジュリアン・ヴェルモトなど縁の下の力持ちの戦い方、そして3つのグランツール全てで最多勝利を遂げる、エーススプリンターたちの実力。

 

今回は、そんなクイックステップの集大成たる今回のパリ~トゥールを見直して、彼らの強さを再確認したいと思う。

 

 

 

パリ~トゥールは毎年シーズン終盤に行われる、「落ち葉のクラシック」の1つである。その名の通りフランスのパリからトゥールまでの234.5kmの距離を走るが、この時期の風の影響もあって毎年ハイスピードに展開し、終盤の2つの丘の存在もあり、集団スプリントと逃げ切り勝利とが交互に来るような手に汗握る展開を特徴とする。

毎年高い注目度を誇るが、主催者はあえてワールドツアーへの昇格をしない方針と聞いたことがある。そのため、Jsportsでも放送されるレースでありながら、エキップ・シクリスト・ドゥ・アルメ(フランス陸軍チーム)など普段はなかなか見ることのできないマイナーなチームたちの姿をテレビで見ることのできる数少ないレースでもある。

 

 

優勝候補は昨年勝ったフェルナンド・ガヴィリア。 

Embed from Getty Images

しかしクイックステップ・フロアーズは、彼だけでなく2015年優勝のマッテオ・トレンティン、チェコロードチャンピオンのズェネク・スティバール、ルーベ覇者ニキ・テルプストラにトップスプリンターのリケーゼ、逃げスペシャリストのケイセなど、実力者揃い。

誰が勝ってもおかしくない、そんな面子であった。

 

 

実際、残り20kmを過ぎたところでエースのガヴィリアが落車。

f:id:SuzuTamaki:20171009103338p:plain

Jsportsより。

 「誰でも勝てる」チームがゆえに、すぐにチームメートがガヴィリアのために下がる、ということもなく、彼は自らの力のみでブリッジを仕掛けながら先頭集団へと戻ろうとする。

先頭集団になんとか戻り、スティバールやランパールトなども彼を引き上げるために降りてきてくれるが、このとき既にガヴィリアは力を使い切っていた。

残り10km地点から始まる1つ目の丘、「コート・ド・ボー・ソレイユ」(登坂距離700m、平均勾配5.4%)で、ガヴィリアは完全に脱落する。

f:id:SuzuTamaki:20171009104239p:plain

Jsportsより。

 

一方、集団の先頭では、マッテオ・トレンティンが自らの勝ちパターンに持ち込むべく、登りで一気にペースを上げて集団を切り離しにかかった。

f:id:SuzuTamaki:20171009104500p:plain

Jsportsより。

これは見事に成功し、先頭集団は6名に絞り込まれる。その中に、トレンティンと、もう1人クイックステップの選手(おそらくリケーゼ)。さらに直後に、切り離された後続集団からもう1人、クイックステップの選手(おそらくテルプストラ)が飛び出してきてブリッジを仕掛けてきた。

先頭集団7名に3名のクイックステップの選手。かなり勝率の高いこの集団を維持するべくトレンティンも積極的に前を牽くが、徐々に追走集団との距離は縮まっていき、下り切るタイミングでほぼ一体化しようとしていた。

 

が、即座にやってきた2つ目の丘「コート・ド・ルパン」(登坂距離400m、平均勾配5.9%)でトレンティンが再度アタック。チーム・サンウェブのセーレンクラーウ・アナスンがこれに喰らいつく。

 

1対1の関係に持ち込まれた先頭2名。だがここに、取り残された集団からさらにブリッジを仕掛けてきた選手がいた。

ニキ・テルプストラだ。

f:id:SuzuTamaki:20171009105648p:plain

Jsportsより。

 2vs1。しかも、ブエルタ4勝の絶好調スプリンター、トレンティンと、オランダITTチャンピオンの経験もある独走力高いテルプストラの組み合わせ。

あまりに絶妙なペアを相手取り、アナスンがいかにいい選手といえど、勝てる見込みがほぼなくなった。

 

しかも、グライペルやオリバー・ナーゼンを抱える追走集団内にも、リケーゼが入り込んでおりローテーションの妨害を仕掛けている。

先頭でも追走でもクイックステップのチームメンバーたちが常に仕事をし続ける万全の状態。

これが、「最強軍団」の底力なのだ。

たとえエースが不運に見舞われてカードを1枚失ったとしても、即座に他の実力者たちが勝ちを狙うための動きをそつなくこなしていく。

これは今年のロンド・ファン・フラーンデレンでも見ることのできた、クイックステップのチームとしての強さだった。

 

 

あとはもう、定石通りである。

トレンティンが来期、チームを去るという点だけが若干の不安材料ではあったが、スプリンターとルーラーという役割分担がしっかりと決まっている2人だっただけに、最後は問題なくテルプストラが先頭固定、からのトレンティン飛び出しで、アナスンに追い付かせることもなく勝利を掴んだ。

f:id:SuzuTamaki:20171009110306p:plain

Jsportsより。

残り200mからの早めの飛び出しではあったが、必死にもがいたアナスンの健闘むなしく、危なげのない勝利であった。

 

「ニキは完璧なリードアウトをしてくれた。僕の仕事は、7年間過ごしたチームに感謝してシーズンを終えるために、このレースで勝利することだったんだ。そしてそれを叶えることができて、今僕は最高の気分だ*1

 

 

 

こうして、チームとしての52勝目を挙げて、ヨーロッパにおける本格的なシーズンは終わりを告げた。

あともう少し、アジアなどでレースが残ってはいるが、今シーズンはほぼほぼ終わり、と見てよいだろう。

「銀河系軍団」とも呼ばれた、現時点での最強チームと言って過言ではないクイックステップ・フロアーズは、2012年からの6年連続年間50勝超えという偉業を成し遂げた。

 

 

 

しかし、このクイックステップも、来年は大きな変革を迎える。

キッテル、トレンティン、デラクルス、マーティン、ベルモト、バウアー、ブランビッラ・・・ここ数年のクイックステップの栄光を支えてきた強力なメンバーが、一気に流出する。

この抜け出るメンバーの勝利数を合計すると25勝分になる、というとその衝撃の大きさがよりイメージしやすいだろうか。ブランビッラも今年こそ勝利はないものの昨年は3勝+マリア・ローザ着用を果たしており、ベルモトもツールで他の誰にも真似できないような牽引役を果たしてみせてくれていた。

これまでもトニー・マルティンやジャンニ・メールスマンの脱退など、実力者の流出は経験してきたものの、今回のそれは規模があまりにも大きすぎる。

 

 

とはいえ、これはもしかしたら、パトリック・ルフェーブル監督の新たな戦略なのかもしれない。かつてチームを支えてきたベテラン選手たちをあえて流出してでも、チームとしての新しい方針を策定していこうとする、そんな思惑があるのかもしれない。

 

残っているメンバーはユンゲルス、アラフィリップ、ガヴィリアなどの若手が中心。さらに、ラブニールで強い走りを見せたイギリス人のジェームス・ノックスや、コロラド・クラシックで新人賞を獲得したコロンビア人のホナタン・ナルバエズなど、より若い才能を積極的に迎え入れている。

 

その他の新メンバーとしても、シーズン後半で勝利を量産しているエリア・ヴィヴィアーニなど、実力者もしっかり加えている。

若手を中心に、堅実な勝利を積み重ねていく。若手が活躍できる場を提供していく。そんな思い、狙いがあっての変革なのかもしれない。

 

 

来年はもしかしたら、「50勝」は難しいかもしれない。

しかし、だからといってクイックステップの走りが、「つまらないもの」になることはないだろう。

来年もきっと、あらゆるレースでエキサイティングな走りを見せてくれるはず。

クイックステップ・フロアーズは「最強」でなくとも「最高」のチームであり続けてくれるはずだ。

Embed from Getty Images