りんぐすらいど

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ベスト・オブ・ヤングライダーズ in ツアー・オブ・カリフォルニア2018【U25限定レビュウ】

ツアー・オブ・カリフォルニアは、これから伸びる若手選手たちの発掘場である。

主戦場のヨーロッパから遠く離れ、グランツールと比較すればそこまで山岳が厳しいわけではないカリフォルニアは、グランツールの総合争いをする一流選手たちを多く連れてくるわけにもいかず、比較的若い選手たちの出場が多くなる。

実際に過去にも、地元アメリカの育成重視チーム「ハーゲンスバーマン・アクセオン*1」の20歳前後の選手たちが活躍したり、一昨年・昨年とジュリアン・アラフィリップ、ジョージ・ベネットといったまさに伸び始めていた選手たちが総合優勝を果たしてもいる。

 

特に今年は、ワールドツアー化2年目ということもあり、特にスプリンターの出場選手は豪華に、コースレイアウトも例年以上に山岳が厳しくTTが長くなるなど、本場グランツールにも負けないようなプロフィールを用意してきている。

そのような今年のカリフォルニアの環境下で活躍した選手たちは間違いなく、今後も台頭してくるであろう実力者であるに違いない。

 

だから、今回はいつもと趣旨を変え、各ステージの「優勝者以外」の活躍した選手たちの中から、25歳以下に限定して注目選手をピックアップしていく。

勝ってはいないけれども、目覚ましい活躍をした若手選手たちに注目することで、数年後彼らがより大きなレースで活躍したときに「やっぱりな」と思えるようになるはずだ。

 

 

 

第1ステージ ヤスペル・フィリップセン

ベルギー/20歳/ハーゲンスバーマン・アクセオン/スプリンター 

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デパンヌ3日間レースでヴィヴィアーニ、アッカーマンに続く3位を記録した驚異の若手スプリンター。

その実力を反映するかの如く、最強スプリンターが集うこのカリフォルニア初日ステージで6位という結果を叩き出した。

だが、彼の「凄さ」はその結果だけではない。この結果を出すために彼がゴール前で繰り出した動きにこそ、彼の底知れなさを感じさせる。

 

ゴール前300m手前。最終発射台のマキシミリアーノ・リチェセにリードアウトされるフェルナンド・ガヴィリアに対し、果敢に肩をぶつけながら最適なポジションを奪おうとするフィリップセン。

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一度、二度と肩をぶつけてくるフィリップセンに対し、ガヴィリアもこれを力で押し返す。

結果としてガヴィリアがその場所を譲ることはなかったが、フィリップセンもバランスを崩すことなく最後のスパートをかけ、サガンやキッテル、クリストフらに追い抜かれはしたものの、ステージ6位でゴールすることはできた。

ゴール後、ガヴィリアに厳しく窘められる姿も。実際、昨年のツールもこういう動きによって落車とリタイアが発生してもいる。「やり過ぎ」はご法度。先輩として、若手の無謀に対する注意は欠かせないことだろう。

 

しかし大先輩たちに対して憶することなく闘志を剥き出しにする20歳の野獣系スプリンター。将来が楽しみな選手であるのは間違いない。

今大会は2回目のピュアスプリントステージとなった第5ステージでDNFと残念な結果。今後、より経験を積み、過酷なワールドツアーレースで更なる実績を積み上げられるよう成長してほしい。

 

 

第2ステージ ダニエルフェリペ・マルティネス

コロンビア/22歳/チームEFエデュケーションファースト/オールラウンダー 

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昨年まではウィリエール・トリエスティーナに所属し、昨年はジロに出場したほか、ツアー・オブ・ターキーでもクイーンステージで区間3位、最終総合成績でも4位に入った。

現在急成長中の若手コロンビア選手の1人だが、今回のカリフォルニアで更に一皮剥けた形に。第2ステージのジブラルタルロード頂上決戦で、優勝者ベルナルから30秒遅れの区間5位となった。

もう1つ注目すべきは、独走力の高さ。今年のコロンビア国内選手権ではベルナルに次ぐ2位。そして、今大会の第4ステージに用意された34.7kmの個人タイムトライアルでは、ベルナルを上回る区間10位であった。

これらの成績を受けて、最終総合成績でも総合3位。今大会、7ステージ中5ステージをコロンビア人が制した形になったが、総合成績においても1位・3位をコロンビア人が独占したことになる。

なお、ステージレースだけでなく、昨年はミラノ~トリノで7位、トレ・ヴァッレ・ヴァッレジーネで9位など、クライマー向けのワンデーレースでも成績を残している。

今後、チームEFのステージレース及びアルデンヌ系クラシックのエース候補として注目していくべき選手である。

 

しかしチームEF=キャノンデールは本当、ウッズやベヴィンなど「どちら様系」の獲得・育成に定評のあるチームである。そういうところは本当、好き。

 

 

第3ステージ カレブ・ユワン

オーストラリア/23歳/ミッチェルトン・スコット/スプリンター

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もう「若手」とは言えないような印象もあるがまだ23歳。7月に24歳となる。

今大会勝つことができなかったのは残念だが、しかし今シーズン、少しずつ進化を遂げている彼の走りを象徴する結果だったのがこの第3ステージである。

 

カレブ・ユワンと言えば、その名前が大きく取り上げられるきっかけとなったのは2015年ブエルタ・ア・エスパーニャ第5ステージ。登りフィニッシュでサガンとデゲンコルブを下しての勝利であった。

その後、2016年のツアー・ダウンアンダーで2勝。「ポケット・ロケット」の愛称と独特の超低空スプリントで話題を大きく集めた選手となった。

しかし、そのダウンアンダー第2ステージの「スターリング登りフィニッシュ」ではずるずると遅れる姿が映し出され、ブエルタでは登りで勝ったとはいえ、あくまでも基本はピュアなスプリンターなのかな、という印象を感じていた。その後も、ド平坦スプリントでは輝かしい勝利を重ねながらも、ミラノ~サンレモなど多少の登りを踏まえるスプリンター向けレースではそこまでの結果を出せない姿を見て、その思いを強くした。

 

しかし、今年はその走りに変化が現れたように感じる。ダウンアンダーでは、2年前のリベンジとでもいうように、スターリング登りフィニッシュで優勝を飾った。また、ミラノ~サンレモでは勝利こそ逃げ切ったニバリに奪われたものの、集団内で先頭を獲っての2位。昨年、フェルナンド・ガヴィリアがジロ・ディタリアで登れる姿も見せてマリア・チクラミーノを獲得したのに触発されたかのように、今年のガヴィリアは(多少のピュアスプリント力を犠牲にしつつも)「登りを含んだスプリント」での活躍を見せつつある。

 

そして、今回の第3ステージである。小刻みな山岳を越えてラグナ・セカに至るパンチャー向けのレイアウト。

2年前、同じようなレイアウトで登場したときは、登りにも強いペテル・サガンが強豪スプリンターの中で唯一残り、余裕の勝利を獲得した。

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今回もステージ優勝は、過去2回のカリフォルニア勝利を果たしている名パンチャー、トムス・スクウィンシュ。

しかし彼らを追走したメイン集団の先頭を獲ったのはカレブ・ユワン。サガンを退けて、連続する山岳を越えた先のスプリントで「勝利」したのである。ガヴィリアもこの日は4分39秒遅れであった。

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この日の3位もあり、第1・第5ステージも勝てはしなかったが2位に入ったことにより、最終日までポイント賞ジャージを確保することができていたユワン。

しかし最終日、ガヴィリアに優勝され、ユワンが3位となってしまったため、3ポイント差という僅差での敗北を喫してしまった。

 

結果、勝利も特別賞ジャージも持ち帰ることができず、その意味で「失敗」した今回のユワン。

だが、この1週間で得た自信は必ず次につながるものだと思われる。

ツール・ド・フランスでは、その経験が結果に結実されるだろうか。

 

 

第4ステージ① ミケル・ビョーグ

デンマーク/19歳/ハーゲンスバーマン・アクセオン/TTスペシャリスト

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今大会最年少? 昨年の世界選手権U23個人タイムトライアル王者として名を馳せた。当時はジャイアント・カステリ所属だったが今年はチーム自体が消滅し、この「最強育成チーム」への移籍を果たした。まだまだワールドツアーチームへの挑戦は先のこととなるだろう。今はまずは経験を積んでいきたい。

また、第1ステージではフィリップセンの最終リードアウトとして貢献した。名スプリンターには名TTスペシャリストの存在が必要不可欠。ボブ・ユンゲルスしかり、トニー・マルティンしかり。最終発射台こそスプリント力が重要になるが、それ以外では集団先頭での高速牽引、および逃げを捕まえる役割として独走力の高い選手の存在は非常に重要になる。

今後も、フィリップセンとのコンビネーションで、チームに多くの勝利をもたらしてもらいたいものだ。

 

 

第4ステージ② タオ・ゲオゲガンハート

イギリス/23歳/チーム・スカイ/オールラウンダー

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アクセオン所属だった2年前に新人賞2位。翌年にチーム・スカイ入り。昨年はカリフォルニア総合8位。しかし今回、個人タイムトライアル能力を一気に高め、第4ステージ区間3位。結果、総合5位と自身最高位の総合順位を獲得する。

また、第6ステージでベルナルをアシストした走りも印象的。自身も3位に入り、ステージレーサーとして一皮剥けた一週間となった。

 

なお、

とのことなので、みんなもツアー・オブ・ジャパンでJLTコンドールのオリー・ウッドを応援しよう!

 

 

第6ステージ ブランドン・マクナルティ

アメリカ/20歳/ラリー・サイクリング/ルーラー

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2月のドバイ・ツアー、ハッタ・ダムのステージにて残り50mまで逃げ続けた、元ジュニアTT世界チャンピオン。

suzutamaki.hatenablog.com

驚異的な走りも、1度だけなら偶然かもしれない。しかしこのカリフォルニア第6ステージでトッププロ選手たちに負けない走りを見せた今回、その実力が確かに間違いのないものであることを証明した。

得意なはずの個人タイムトライアルで失敗したのが残念。それでも今後、チームの若きエースとしてさらなる注目が集まることだろう。

ラリー・サイクリング自体も、エースのエヴァン・ハフマンが2年前山岳賞、昨年ステージ2勝とコンチネンタルチーム(当時)とは思えない活躍を見せていた。今年、プロコンチネンタルチームに昇格し、より多くのトップレースへの参戦の機会を得たこのチームの選手たちは、今後ももっともっと活躍を期待できることだろう。  

 

 

第7ステージ マックス・ワルシャイド

ドイツ/24歳/チーム・サンウェブ/スプリンター

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勝った、と彼は確信した。

右手を掲げ、勝利を喜んだ。

しかし、ごく僅かの差で、勝利は「最強スプリンター」の手に渡った。

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適切にバイクを投げていれば、間違いなく勝っていただろう。

ここは経験の差というべきか・・・年齢はワルシャイドの方が上なのだけれども。

それでも、彼の実力は証明された。

ツール・ド・ヨークシャーでコカールやコルトニールスンを打ち破って勝利を遂げたのに続き、今シーズン実質的な「2勝目」だ。

 

ドイツの若手スプリンターは次々と有望な人材が現れている。

チーム・サンウェブに限っても、2016年ジロ最終日に「勝利」したニキアス・アルント。彼が今後のドイツ人スプリンターの新世代を率いていくのだろう、と思っていた。彼が2017年のカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースで優勝したとき、その思いはほぼ確信に変わっていた。

しかし、同年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで、今度はフィル・バウハウスというドイツ人が鮮烈な勝利を遂げた。彼は今年のツアー・ダウンアンダーでも健闘し、2月のアブダビ・ツアーでもステージ勝利を果たしている。

 

アルント、バウハウス。彼らの登場だけでも驚きだった中で、さらに登場したのがワルシャイドという男だった。

先に勝利したツール・ド・ヨークシャーではバウハウスがエースとして出場していた。しかしほぼ全てのステージで、バウハウス以上の成績をワルシャイドは叩き出した。

そもそも、4月のシュヘルデプライスにおいても、バウハウスとコンビを組みつつも、最終的にはこのワルシャイドが6位という結果を出したのだ。

 

その他、若手ドイツ人スプリンターとしては、今年のハンザーメ・クラシック、デパンヌ3日間、シュヘルデプライスで次々に表彰台を勝ち取り、かつツール・ド・ロマンディではついにプロ初勝利を手に入れたパスカル・アッカーマン(ボーラ・ハンスグローエ)などもいる。

当然、カチューシャ・アルペシンのリック・ツァベルもまた、これからが楽しみな若手スプリンターである。

 

 

 

いかがだっただろうか。

数年後には、ここに挙げた選手たちの多くが、トップ選手たちに混じってさらなる活躍を見せてくれることだろう。

2020年代の主役となりうる彼らの動向に、これからも注目を続けていきたい。

*1:昨年まではアクセオン・ハーゲンスバーマンという名称。

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