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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ブエルタ・ア・エスパーニャ2018 コースプレビュー2週目

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ラゴス・デ・コバドンガの頂上付近には、「エノル湖」と「エルシーナ湖」と呼ばれる、2つの氷河湖が存在している。ピコス・デ・エウロパ国立公園を参照。

 

ブエルタにしては比較的平穏だった第1週目を終え、いよいよ舞台は山場のカンタブリア3連戦に突入する。その終幕を飾るのは、アングリルと並ぶブエルタの名峰コバドンガ

2年前のブエルタには、ラ・カンペローナとコバドンガの2つが同様に登場した。その際はいずれも、ナイロ・キンタナが優位な走りを見せており、そのままその年の覇者となった。

ここ2年振るわない様子を見せているキンタナが復活の勝利を果たせるか。それとも別の「コバドンガ覇者」が生まれ、彼がそのまま総合優勝に向けての道筋をつけるか。

いずれにしても、今年の最強を占ううえで重要となる第2週である。 

 

 

 

 

 

第10ステージ サラマンカサラマンカ大学800周年祭~フェルモセリ、ベルミージョ・デ・サヤゴ 177km(平坦)

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スタート地点のサラマンカは、ヨーロッパで最も古い大学の1つ「サラマンカ大学」が位置する。今年はこの大学の800周年となるようで、スタート時にはそれを記念する催し物が行われるのだろうか。

ルートは全体的に平坦。サラマンカ近郊をぐるっと1周したのちに進路を北西に取り、ポルトガル国境沿いに到達の後、北東に引き返す。

行程の後半部、ポルトガル国境に至る前後においては、世界的にもトップクラスの巨大さを誇る「アルメンドラダム」周辺を巡る。ダムファンには必見のステージだ。

ラストは集団スプリントが予想されるレイアウト。

ヴィヴィアーニ、トレンティン、サガンといった有力スプリンターたちが勝利を重ねていくか、それともバウハウス、ファンポッペル、アベラストゥリといった若手やプロコンチネンタルの選手が下克上を達成するか。

 

 

 

第11ステージ  モンブエイ~リベイラ・サクラ、ルイントラ 207.8km(丘陵)

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2年前のブエルタ・ア・エスパーニャでサイモン・イェーツが勝利したのと同じフィニッシュレイアウトとなる。

その年、サイモンはチームの不手際によるドーピング違反に引っ掛かり、ツールの出場を逃していた。そのツールで、双子のアダムが新人賞を手に入れ、サイモンにとっては悔しさを否定できない時期を過ごしていたであろう。

だが、このブエルタで、彼は双子にとって初となるグランツールのステージ優勝をもぎ取った。この辺りから、双子の快進撃が始まったのだ。

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そして今年、サイモンはジロで13日間にわたりマリア・ローザを着用した。

当然、この日彼が再び力を発揮することへの期待は高いだろう。

 

とはいえ、2年前と違って、さすがに今年のサイモンが単独でのアタックを許されることはないだろう。代わって、名うてのパンチャー/アタッカーが勝負に挑んでいくことになるはずだ。

 

ラストのレイアウトを確認しておこう。

まず、残り5kmから始まる2kmの登りは平均勾配7.5%、最大勾配9%と結構厳しい。2年前はここで、ダニエル・モレノのアタックに反応したサイモンが集団から飛び出し、やがてモレノを突き放した。

唯一の逃げの残党であったマティアス・フランクに追い付くと、やがてこれも捨て去って、ラスト3.6kmを単独で走り抜けた。  

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ラスト3kmで登りの頂上に至ると、平坦と下りを経て最後の1kmでまた緩やかに登っていく。

この登りで勝敗がつくことは少なそうで、事前の登りで抜け出した選手もしくは小集団で勝負が決まるか、あるいは中規模以上の集団が追いついてのスプリントになるか、そんなところだろう。

 

なお、ゴール地点の周辺はリベイラ・サクラ(神聖なる流域)と呼ばれ、200kmにわたるシル渓谷の壮大なる自然が広がる。

この厳しい自然環境で作られたワインはリベイラサクラワインとして古くから有名。かの皇帝カエサルに献上されたこともあるという。

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険しい渓谷の斜面に広がる葡萄畑で、昔ながらの手摘みで収穫された葡萄から美しきワインが生成される。

 

 

 

第12ステージ モンドニェード~エスタカ・デ・バレス岬、マニョン 181.1km(丘陵)

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カンタブリア山脈の北端に位置する街モンドニェードから、スペイン最北端の地エスタカ・デ・バレス岬まで。この日のレースは全てガリシア州内で行われる。

スタート直後に、本日の最高標高地点435mに登る3級山岳。この日、逃げ切りを狙いたい選手たちにとっては絶好のアタックポイントとなるだろう。その下りの後、プロトンはしばらく、ビスケー湾を右手に臨むガリシア海岸を進む。

 

残り60kmを切ったところでこの日2つ目の3級山岳。2桁の勾配区間もある厳しい登りで、この後もカテゴリのついていないアップダウンが続くため、この日の逃げ切りを占う攻防戦がこの登りから繰り広げられることだろう。単独走とはならずとも、少数精鋭には絞られそうだ。

ラスト7kmから道幅はぐっと狭くなり、追走集団にとっては不利、すなわち逃げ切りを狙う選手たちにとっては有利となるだろう。最後もラスト2.6kmまでは緩やかな登り。わずかではあっても、逃げ切り狙いの選手たちにとっては幸いとなるだろう。

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最後はダウンヒルからのフィニッシュ。集団スプリントとなる場合は、ハイスピードバトルが繰り広げられそうだ。

 

 

 

第13ステージ カンダス、カレーニョ~バリェ・デ・サベロ、ラ・カンペローナ 174.8km(山岳)

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いよいよ今大会最も厳しい山岳3連戦、カンタブリア3連戦に突入する。

第1の山岳は1級ラ・カンペローナ頂上フィニッシュ。全長8.8kmの平均勾配は6.5%と大人しいが、最後の2kmに関しては20%勾配が連続し、平均しても15%という異様な激坂になっている。2kmで300m登るのである。ありえない・・・。

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2年前のブエルタでは第8ステージに登場。

逃げに乗ったメンバーの中から抜け出したのはカチューシャのセルゲイ・ラグティンと、AG2Rのアクセル・ドモン。直前に若きチームメートのホナタン・レストレポが逃げていたことで力を溜められていたラグティンがドモンを振り切って勝利。

35歳ベテランライダーの「信じられない」といった表情が印象的なゴールだった。

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一方のメイン集団でも動きが巻き起こっていた。ラスト1kmでフルームとコンタドールを突き放したキンタナが、そのままフルームの追走を躱して、彼に30秒以上のタイム差つけてゴールに飛び込んだのだ。さらに後方でも、一度は遅れかけたコンタドールが復活し、フルームに8秒差をつけてフィニッシュした。「最強」に一矢報いる走りを見せたのだ。

 

先頭でもメイン集団でも、まさにブエルタらしい打ち合い差し合いが行われたこのラ・カンペローナ。今年もまた、ここで激戦のゴングが鳴り響くのか。

 

 

 

第14ステージ システィエルナ~レス・プラエレス、ナバ 171km(山岳)

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カンタブリア3連戦の2日目は、昨日よりも登坂距離は4kmと大人しい、1級レス・プラエレス。ブエルタ・ア・エスパーニャ初登場の登りだ。

もちろん、大人しいのは距離だけである。勾配は寧ろ凶悪。ある意味、昨日とは好対照だ。

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平均勾配12.5%。

もう一度言う。「平均勾配が」12.5%である。最大勾配ではない。

 

さらに、この日が前日とは違うのが、この最終決戦を挑む前に、プロトンは、2つの1級山岳と3級山岳とをこなし、3000m以上の獲得標高を乗り越えてきているのだ。その足で、この凶悪な激坂4kmを登る。

幸いにも、最後の3級山岳の山頂からゴールまでは21km。登り口までも10km以上の平坦が控えている。態勢を整えることは可能だろう。

 

個人的に思うのが、来るインスブルック世界選手権を控える選手たちにとって、このステージは重要な試金石になるのではないだろうか、ということ。

今年のインスブルック世界選手権男子ロードのコースは、

  1. スタートから60kmちょっとにグナーデンヴァルト(2.6km、10.5%)
  2. イグルス(7.9km、5.7%)を7回登る
  3. ゴールまで8.1km地点にグラマルトボデン(2,8km、11.5%、最大25%)

といったレイアウトになっているわけだが、この第14ステージも、

  1. 残り78.4kmに1級コラドナ(5.3km、7.1%)
  2. 残り43.9kmに1級モズクエタ(9.4km、6.2%)
  3. 残り21kmに3級ロス・ロボス(5.2km、6.7%)
  4. ラストに1級レス・プラエレス(4km、12.5%、最大17%)

となっており、やや近いところがないわけではない。

ペテル・サガンなど、純粋なクライマーではない中で世界選手権を睨みたい選手たちは、ブエルタを途中リタイアするにしても、この第14ステージくらいまでは残るのではないかと予想している。

 

そうでなくともこのステージはインスブルックを見据えた有力選手予想に資する部分はかもしれない。その意味でも注目していきたいステージだ。

 

 

 

第15ステージ リベラ・デ・アリバ~ラゴス・デ・コバドンガ 178.2km(山岳)

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ブエルタ・ア・エスパーニャ2018第2週のクライマックスは、アングリルと並ぶブエルタの名峰ラゴス・デ・コバドンガ

当然、2年前のブエルタではカンペローナと共に登場し、キンタナが実力を見せつけて勝利を掴んだ。

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この年のブエルタはそのままキンタナが制した。今年もこの山で、総合優勝候補が現れるのだろうか。

 

コバドンガの恐ろしさは言うまでもない。

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全長12.2kmの平均勾配は7.2%だが、これはいくつかある下りも含んだ数字。登りだけの平均勾配であれば10%近い。

ラスト3kmからは20%を含む激坂区間が続き、下りを経た後の最後のストレートも最大17.5%の勾配となっている。

 

2年前はキンタナがラスト4kmでアタック。急勾配区間で勝負を仕掛けた形だ。

2014年に登場した際は、ニエミエツが逃げ切り勝利を果たし、総合勢はその後ろで激しいアタック合戦を繰り広げた。最終的に、残り2kmからの下りで攻撃したバルベルデらがコンタドールやフルームからタイムを奪った。

2012年は遅れていくフルームを尻目に、コンタドールホアキン・ロドリゲスバルベルデ&キンタナが互いに譲らない走りを見せつけてタイム差なしの決着となった。

 

これまでに20回の登場を果たしたコバドンガは、その度ごとに全く違った勝負の行方を我々に見せてくれた。

今年は、果たして。 

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