りんぐすらいど

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ジャパンカップ・サイクルロードレース2018 プレビュー

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来る10月20日・21日の土日に宇都宮で開催される、日本最大の自転車レース「ジャパンカップ・サイクルロードレース」。 アジアツアーHCクラス、世界各国からトップレーサーの集まるこの大会のレイアウト&注目選手をプレビューしていく。

 

 

 

185mを一気に駆け上がる古賀志林道の登り

ジャパンカップ最大の見所は、何と言っても獲得標高185mの古賀志林道を駆け上るレイアウト。

合計14周するため、総獲得標高は2600m近くに達する。

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http://www.japancup.gr.jp/2018/roadrace-course

 

特にスタート地点から1km~2kmの地点は一気に100m近くを登る激坂区間となっており、毎年この登りでアタック合戦が勝敗を分ける重要なポイントとなっている(冒頭画像)。

古賀志林道の頂上からゴールまでは約8km。

テクニカルな下りを含むそのレイアウトは、まるでミラノ~サンレモやイル・ロンバルディアにも似て、登りの力・下りのテクニック・最後の平坦を逃げ切る独走力・そして小集団で勝ち抜くスプリント力の全てを必要とするバランスの取れたコースレイアウトとなっている。

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過去の優勝者を見てみても、やはりクライマー/パンチャー向きのワンデーレースでの勝利が多い実力者たちが名を連ねている。

 

たとえば2008年の覇者ダミアーノ・クネゴや2010年の覇者ダニエル・マーティンはジロ・ディ・ロンバルディア(現イル・ロンバルディア)を制しているし、2015年の覇者バウケ・モレマは同じくクライマー向けのワンデーレースの最高峰クラシカ・サンセバスティアンで優勝している。

それ以外の優勝者に関しても、ロンバルディア前哨戦の1つジロ・デッレミリアで勝っていたり、あるいはグランツールの山岳ステージ優勝者・山岳賞ジャージ獲得者だったりと、世界で通用する登坂力・勝負強さがジャパンカップでも求められていることがよく分かる。

 

それらのデータを踏まえ、以下では今年のジャパンカップで活躍が期待される注目選手を数名、ピックアップしていきたい。

 

 

注目選手① ロベルト・ヘーシンク(チーム・ロットNLユンボ)

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元々予定していたジョージ・ベネットの代わりに出場。

しかし実績で言えば今大会、最もずば抜けた選手である。何しろ、過去5回のグランツール総合TOP10入りを果たし、ツール・ド・フランスでは最高で総合4位にまで登りつめている。

過去のジャパンカップ優勝者とも相性の良い「ジロ・デッレミリア」でも2度勝ち、パンチャー向けワンデーレースの最高峰「グランプリ・シクリスト・ドゥ・ケベック」および「モンレアル」でも優勝している。ジャパンカップ向きの脚質であることは間違いない。

 

つい先日行われたイル・ロンバルディアでもエースのプリモシュ・ログリッチェのための最終発射台を務めるなど調子は万端。逆に、そこから1週間で遠いアジアの地まで移動するという過密スケジュールによる疲れは不安要素でもある。

 

チームメートには昨年4位のアントワン・トルホーク、そして昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ山岳賞のクーン・ボウマンなど、若手の期待株も揃っている。

 

 

注目選手② ジョン・デゲンコルブ(トレック・セガフレード)

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さいたまクリテリウムでの優勝経験もあり、日本人からも愛されるスプリンター。

ミラノ~サンレモやパリ~ルーベなど、ビッグレースでの優勝経験もある。

2年前の事故以来、かつてのような成績をなかなか出せずにいたものの、今年のツール・ド・フランスではパリ~ルーベばりの石畳ステージで優勝するなど、その調子を徐々に取り戻しつつある。

 

本来、ジャパンカップのレイアウトは彼のようなスプリンターには適さない。しかし、昨年マルコ・カノーラが勝った大雨のコンディションのようなカオスが演出される展開においては—―あるいは、非常にスローペースで古賀志林道の登りでのサバイバルな展開が抑えられたときには――「登れるスプリンター」にも数えられる彼の足であれば十分に先頭集団に残ることができるだろう。

 

あるいは、もしも最後の古賀志林道の登りで逃げ集団を前方に許してしまっていたときは・・・我らが別府史之が全力でデゲンコルブを牽引し、先頭集団に追い付かせるという!熱い!展開が!  ・・・見れたらいいなぁ。

 

チームメートでは同じくスプリンターに属する脚質を持ちながらも、ブエルタ・ア・エスパーニャの山頂ゴールで上位フィニッシュするという謎の登坂力をも併せ持つファビオ・フェリーネも今大会とは相性バッチリ。彼の調子が最近あまり良くないことだけが気になる。

 

 

注目選手③ タデイ・ポガチャル(リュブリャナ・グスト・ザウラム)

弱冠20歳。

しかし今年のツール・ド・ラヴニール覇者ということで、注目を集める期待の新星である。来年はワールドツアーチームのUAEチーム・エミレーツへの移籍が決まっている。

 

ラヴニールでのステージ優勝はない。

しかし、山頂フィニッシュでは今年のブエルタ・ア・ブルゴス総合優勝のイヴァン・ラミーロ・ソーサら実力者たちについていく登坂力を見せ、終盤ではリーダージャージを着ながらメイン集団を単独で抜け出してライバルたちに大差をつけてゴールする思い切りの良さを見せつけた。

未知数ゆえに、突然の覚醒を見せ、シーズン終盤の疲れが溜まったベテランライダーたちを出し抜く驚きの走りを披露してくれるかもしれない。

いずれにせよ、ラヴニール覇者というダイヤモンドの原石を間近で見られるチャンスはまたとない。若手有望株好きのファンは彼を見るためだけにジャパンカップに来ても損はないだろう。

 

 

注目選手④ 雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)

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昨年3位。あの雨のコンディションの中、粘りの走りを見せてくれた。

過去にも、畑中勇介が、新城幸也が、3位表彰台に登る走りを見せてくれてはいる。

しかし、1位の座は、1997年の阿部良之以来、一度たりとも日本人の手にはもたらされていない。

今年こそは・・・という思いは多くのファンの胸に秘められた思いであるのは間違いない。

そんな中、この雨澤はわずか22歳という年齢で3位に喰い込んだ。そして今年、つい先日行われたばかりのUCIレース「大分アーバンクラシック」でも3位に入る調子の良さを見せている。ツアー・オブ・ジャパン京都ステージでの優勝も記憶に新しい。

 

雨澤は基本的にはスプリンターであって、昨年のようなカオスな展開でなければ勝ち目が薄いのは確か。そこは、チームメートで今年のツアー・オブ・ジャパン山岳賞の鈴木譲や、同じく若手トリオを形成する岡&小野寺のアシストに期待したいところ。

 

 

注目選手⑤ 山本元喜(キナンサイクリングチーム)

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昨年のジロ・ディタリアを完走し、そして今年、ついに日本最強の座を手に入れた男。

全日本選手権優勝の立役者であった新城雄大、ツアー・オブ・ジャパン総合優勝者マルコス・ガルシアも共に連れてきており、かなり本気の布陣で今大会に挑む。

直前のJプロツアー最終戦「南魚沼ロードレース」でも、序盤から積極的に逃げに乗り、激坂をものともしない走りを見せており非常に好調である。

 

 

注目選手⑥ サイモン・ゲランス(BMCレーシングチーム)

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まさかこの男が引退なんて——なかなか信じられない気持ちでいっぱいである。

ツアー・ダウンアンダー総合優勝が4回。グランプリ・シクリスト・ドゥ・ケベック優勝が2回。モンレアル優勝が1回。

それ以外にもミラノ~サンレモ、リエージュ~バストーニュ~リエージュなど、およそパンチャー向きのレースのほぼ全てを平らげているパンチャーの中のパンチャー。キング・オブ・パンチャーである。

ゆえに、ジャパンカップのコースレイアウトとの相性は最高に良い。ここ最近の調子はすこぶる悪いが、そんなことすべて吹き飛ばしてしまうような走りを期待している。

 

だってこれが最後なんだから。彼の走りを見られるのは。

その機会を日本で、目の前で見せてくれる彼の心意気が憎い。

 

本来、オーストラリア人は1月にピークを持ってくる関係で10月は調子がどん底にあることも多い。しかし、引退を控えた彼にその法則は適用されないだろう。

プロ生活最後の勝利をこのジャパンカップで見せてくれ。

 

なお、クリテリウムでの最有力候補でもある。デゲンコルブとサイモン・ゲランスが並んでスプリントをかますクリテリウムとか、最高以外の何ものでもない。

・・・今年はクリテリウムは現地で見ない予定だったけれど、これはやはり行くしかないのでは・・・?

 

 

 

以上、6名の注目選手を概観してみたものの、もちろんこれ以外にも見るべき選手は数多い。

とくに、シーズン終盤ということもあり、実績のあるベテランではなく、意外な若手選手が活躍する可能性も十分にある。そして、そんな選手が、来年以降のワールドツアーレースで活躍する可能性すらあるのだ。2年前の覇者ダヴィデ・ヴィレッラのように。

 

いずれにせよ、最高のコースに、今年も数多くのトップレーサーと、未来の才能たちが集まってきている。

今年もジャパンカップ、必見である。

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