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パリ~ニース2018 第7ステージ 山岳アシストたちが彩った今シーズン初の本格山岳ステージ

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 2018年パリ~ニースもいよいよクイーンステージに突入。標高1500mの「ヴァルドゥブロール」に至る16kmの本格的な山頂フィニッシュである。 

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 パリ~ニースは「ミニ・ツール」とも呼ばれ、並行開催のティレーノ~アドリアティコと並び、グランツールに向けての調整を開始していく重要なステージレースでもある。

 出場する選手たちの顔ぶれもトップクラスで、コンディションも完璧な状態に仕上げてきている選手が多い。

 そんなレースでのクイーンステージ山頂フィニッシュは、今年のグランツールでの様子を占ううえで、非常に重要となる。

 

 そして、山頂フィニッシュでの登坂バトルでは、エース単独の力では十分ではない。

 そこには常に、強力な山岳アシストの存在が不可欠となる。

 エースと山岳アシストの双方が輝いてこそ、チームとしての勝利に繋がるのである。

 

 

 今年のエースクライマーたちの調子は勿論、山岳アシストたちの調子とエースとの相性を見るという点で、この日のレースは注目に値するものであった。

 

 

 

 今最も、調子が上がっているチームといえばアスタナ。

 ツアー・オブ・オマーンではアレクセイ・ルツェンコとミゲルアンヘル・ロペスが総合ワンツーを飾り、今大会に出場しているルイスレオン・サンチェスヤコブ・フールサンもバレンシア1周レースで総合2位・3位を獲得した。

 そして今大会においても、サンチェスが第3ステージで抜け出して区間2位、さらには個人TTでも好走を見せたことで、総合首位をキープしていた。今大会での総合優勝もかなり現実的なところまで近づいてきていた。

 

 そんなアスタナを支える山岳アシストとして、予想以上の働きを見せたのが26歳のミケル・ヴァルグレン

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 先日のオムロープ・ヘット・ニウスブラットでルツェンコやガットとのコンビネーションを見せて勝利を掴んだ男だ。

suzutamaki.hatenablog.com

 

 残り9km地点から先頭に出て、ジャスト2kmにわたって牽引し続けたヴァルグレン。パンチャー/ルーラー的な脚質から、本来であれば平坦での牽引が主役割となりそうな彼のこの賢明なアシストは驚きであった。

 

 このヴァルグレンが残り7kmで離脱した後、新たな牽引役としてバトンタッチしたのは、過去2回のブエルタ山岳賞を記録している実力派クライマー、オマール・フライレ。

 その背後にはヤコブ・フールサンも構えており、アスタナの山岳アシスト体制はどのチームよりも盤石であった。

 

 

 しかしフライレはそこまでペースを上げることができず、ミッチェルトン・スコットが先頭牽引の主導権を握ってしまう。

 どうしたフライレ?と思ったが、問題はフライレにあったわけではなかった。

 

 直後、遅れ始めるマイヨ・ジョーヌのサンチェス。フライレは彼のもとに降り立ち、そのアシストに努める。

 

 サンチェス不調。

 このチャンスをものにしたのがミッチェルトン・スコットの最強アシスト、ロマン・クロイツィゲルであった。

 

 

 ロマン・クロイツィゲル。31歳チェコ人。かつて、コンタドールのアシストとしても活躍した男は、昨年から現チームへと移籍し、グランツール総合争いに本格的に参入するチャベスやイェーツ兄弟のアシストとして期待された。

 昨年は、チャベス自身の不調もあり、クロイツィゲルは期待されていたほどの活躍はできていなかったように感じた。

 だが今回、サンチェスが遅れるという千載一遇のチャンスに、最高の働きを見せたのがこのクロイツィゲルだった。

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 クロイツィゲルの猛牽引により、集団とサンチェス・フライレとの差が開いていく。

 フールサンも集団から降りてサンチェスのアシストに赴くが、最終的にはフールサン単独で山頂に戻ることとなったようだ。

 

 アシスト陣の状態は最高に良かった。しかし、そこでエースのバッド・デイが重なってしまうこともまた、ロードレースという競技の妙なのである。

 アシストとエースの状態が最高に揃ってこその勝利。

 

 しかし、アスタナは悲嘆にくれる必要はない。

 アシストの状態が良いことがわかっただけでも、今回のアスタナは今後に繋がる可能性を十分に見せることができたのだから。

 

 

 

 さて、クロイツィゲルの猛牽引により、集団は絞り込まれていく。

 ピエール・ローラン、ワレン・バルギル、ミカエル・シェレルといった実力者たちが次々と脱落し、新人賞ジャージを着るマルク・ソレルも度々遅れかける様子を見せていた。

 そんな中、若手の中で力を見せたのが、ボーラ・ハンスグローエに所属する24歳オーストリアフェリックス・グロースシャルトナー。

 残り4.3kmで飛び出したサイモン・イェーツとヨン・イサギレを追いかけるべく、集団の先頭に出て牽引を始める!

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 本来の第1アシストであるはずのパヴェル・ポリャンスキが早々に脱落する中、総合10位のパトリック・コンラッドをアシストするべく、精鋭揃いの先頭集団に残り続けたシャルトナー。

 状況によっては、ソレルやオーメンと新人賞ジャージを巡って対等に渡り合うことも十分に可能だった。しかし今回彼は、コンラッドのアシストのためにここで全力を尽くすことを選んだ。

(それでも彼は最終的に、1分4秒遅れの13位でゴールしている。クロイツィゲルよりも30秒以上早く、そしてソレルやオーメンよりも10~20秒程度しか遅れずにゴールしたのである)

 

 このパリ~ニースでは個人TTでも4位と独走力の高さも見せつけたオールラウンダーであり、ジロではフォルモロをアシストすることが決まっている。

 今年最も躍進が期待できる男、それがこのグロースシャルトナーである。

 覚えておいて損はない。

 

 

 もう1人、同年代で目覚ましい活躍を見せたのが、モビスターに所属するエクアドル人、リチャルド・カラパス

 残り2.5km地点でサム・オーメンが集団から千切れた際に、その後ろについていたマルク・ソレルを牽引し、集団に復帰させたのがこの男であった。

 その後も集団から遅れるソレルを支え続ける。この男がいなければ、もしかしたらソレルは今の総合順位すら維持できていなかったかもしれない。

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 カラパスはこの2月のコロンビア・オロ・イ・パでも、キンタナに次ぐ登坂力を見せていた有望株である。昨年のGPインダストリア&アルティジアナートでも2位を獲得するなど、十分な実力をもっている。

 グロースシャルトナーと並び、今年このあとの更なる爆発が期待できる。

 

 

 ヴァルグレン、クロイツィゲル、グロースシャルトナー、そしてカラパス。

 それぞれのチームのエースを支える貴重なアシストたちの力が垣間見えたステージであった。

 そしてそのうちの3名が「若手」と言って差し支えないメンバーであることも、今後を期待させる要素である。

 

 

 さらにもう1人、ディラン・トゥーンスの躍進について触れざるをえない。

 今年まだ26歳。昨年「激坂ハンター」としての台頭があったばかりの、まだまだ経歴的には「若手」というべき存在。

 あくまでもパンチャーであり、総合上位争いなど想像していなかったこの男が、まさかのこのクイーンステージでBMC最高の走りを見せたばかりか、ラスト2kmの地点からの強烈なアタックでライバルたちを振り払った。

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 そしてウェレンスと並んで、ステージ2位でゴールする快挙。

 BMCは今年、ベン・ヘルマンスを失ったことは痛手であったが、もしかしたらこのトゥーンスが今後、彼に代わる短めのステージレースでのエースを担える存在となるかもしれない。

 

 

 その他にも、同じくパンチャーと思われていたアレクシー・ヴュイエルモが、この最終集団の中で残り続ける走りを見せたことで、移籍してしまったポッツォヴィーヴォに代わるチームのセカンドエースとしての可能性を見せつけてくれた。

 さらに同じくパンチャーであったティム・ウェレンスの、引き続きとなる好走も眩しい。

 

 

 もちろんこの日の勝者はサイモン・イェーツであり、兄弟で総合2位・3位を占めたイサギーレたちの走りも非常に強かった。

 だが、そんな日の当たるエースたち以上に注目してしまいたくなるのが、本日紹介したようなアシストや元アシストの有望株たちなのである。

 

 

 ヴァルグレン、クロイツィゲル、グロースシャルトナー、カラパス。

 そしてディラン・トゥーンス、ヴュイエルモ、ウェレンス・・・今年、この後のレースでもぜひ注目してもらいたいサブエースたち。

 これからもそんな陰の実力者たちを紹介していきたいと思う。